「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

あの頃の日産が良かった理由~を、乗ってたしかめる

 
 平成元年式、Y31型日産グロリアHT V30Eブロアム インプレッション (2016.12)



 長年Y31型セドリック・グロリア、あるいはシーマというクルマには乗ってみたいと思っていた。ここまで思い入れがあるクルマなのだから一度くらい所有してもバチが当たるまい、と思いながらその機会は巡ってこなかった。しかし2016年11月、まさにこのクルマをデザインした若林昇さんとお会いしたその翌日、チャンスはやってきた。巡り合わせ、まさに「呼ばれている」という感覚こそもっとも相応しい出会いに導かれ、久々の複数台所有を決断してしまった。


 2オーナー物で、その2オーナー目の人が長かったという経歴。東京23区内の山の手と呼ばれる地域で25年を過ごした。塗装状態からいって屋根付き車庫であろう。整備手帳は2オーナー目の人の所にある。長年愛着のある思い入れのあるクルマだったのだろう。実物を見れば行き届いた手入れとメンテナンスのほどは痛いほど理解できた。納得できる中古車との出会いがそこにあった。整備手帳はないが、デザインキーやスペアキー、取説などは残してくれていた。


 負担のかかるターボじゃない。カネのかかるエアサスでもない。手荒に使われる傾向のあるグランツでもない。エンジンは3000のNA。ビスカスLSDやASCDは最初から付いている、「さりげなく贅沢」なグレードはいかにも私好み。平成元年12月登録、29回目のクリスマス、彼は私のもとで過ごすことになった。



 エクステリア



 躍動的で美しく、5ナンバー枠内で精一杯、しかもセドリック・グロリアというブランドの「縛り」もある中で絶妙のバランス感覚を発揮しているのはもちろん、やはり保守的で内向的だった「役員承認案」を「自主的」に覆したデザイナーと、それを許可した采配こそ賞賛に値する。




 このクルマはおとなしい「ブロアム」だが、人気グレード「グランツーリスモ」はご存知のとおり深いエアダムを備え、黒塗するとゾクッとするくらいセクシー。しかしこのデザインが受け入れられたのも、時代がこうしたアグレッシブなものを求めていたということと、作り手がその電波を好感度にキャッチしていたからこそである。普通の感覚なら相当な冒険になるはずだ。




 個人的に、Cピラーとそれが内包するオペラウインドウの形状がこのクルマのデザイン上の動的魅力になっていると思う。静ではなく動であり、自らハンドルを握り、人生の舵取りをしていくアクティブな人生観を持った昭和末期の日本人。そのマインドをしかと捉えたのだと思う。



 運転環境



 ハンドルは手動チルトとテレスコピック調整。ATシフトレバーはこの頃既にエルゴノミックデザインと称したコブラの頭みたいなデザインのものもあったが、これは旧来の四角ばった形状。6ポジションにODスイッチ。駐車ブレーキは足踏み式だがその解除はこのクルマ独特で、シフトレバー後ろのリリースノブを引くことでおこなう。エアコンやオーディオのデザインは整っているが、ボタンそのものはどれも同じようなデザインとも言え、一撃に理解操作できるタイプではない。運転席はパワーシートでその操作ノブがドア内張りに備え付けられているが、このシートを象ったものはのちにメルセデスからクレームが入ったんじゃなかったかな。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ、しかもそのワンタッチスイッチが独立し小型のためちょっと使いづらい。




 Aピラー方向の視界はこう。ま、今の、太くて視界を阻害するクルマにこそ大事な観点なのであって、この頃はこんなことを言う人はいなかったのである。



 インテリア・ラゲッジ



 Y30型セドリック・グロリアや、F31レパードなどの、いわゆる絶壁型からおおいに脱却した、開放感と視覚上豊かな広がりを見せるダッシュボード。こうしたところでも、思考のブレイクスルーを感じる。ダークブルーの内装色はあまり重々しくなくこれはこれでクリーンだが、色のチョイスにはあまり冒険をしていない模様。日産車的にはこのさらに後にこそ本命ともいうべき(売れなかったけど)センスのいいセドグロやシーマの時代をいただくことになっていくわけである。ちなみに足元のマットはY30セドグロ用との由。




 まず、このクルマでレースの半カバーを取り付けていなかったファーストオーナーに賛辞を送りたい。おかげで経年による焼けにムラが生じず、見た目にも比較的美しい状態を保てているのはひとえに、無頓着な半カバーをオプションリストから外した見識によるものだ。シートの調整幅は大きく採られ、ほぼ好みの姿勢をとることが可能。この頃よくあった座面だけ上下、ではなく、シート全体が上下し、前端も別体で調節できるのもいい。シートは、かつてのルーズクッションより明らかにサポート性を重要視しながらゆったりと着座させる意思を感じさせるなかなか秀逸な出来。筆者のもう一台の愛車、平成15年式ティアナよりこっちのほうが気に入っている。

前席頭上空間:こぶし1つ




 後席の着座位置は前席より一段高い。センターピラーレスハードトップの恩恵で眺めもよく、ハードトップ故の天井の低さだけに目を瞑ればなかなかの居住環境。シートも角度や硬さが「ふんぞり返り用」になっておらず、積極的に移動空間を、ドライブを満喫してもらおうという意思が感じられるタイプ。

後席頭上空間:こぶし横にして1つ
後席膝前空間:こぶし2つ




 奥が間仕切りになっていて壁状なのは燃料タンク収納とか、いろいろあるんでしょう。今ならもっとうまくやって空間を稼ぐと思えるポイント。でもこれでゴルフバッグ4つを飲み込めるのだから、そこはやはり長いオーバーハングによっているわけです。



 エンジン・トランスミッション



 シリーズ中比較的おとなしい部類、ジェントルなフィーリングの「VG30E」型SOHCエンジン。160馬力/25.3Kg・mのスペックも暗記している。ファイナルも高くしてあり、回転数よりトルクで前へ押し出す設え。しかしこれが眠いかというとまったくそうではない。むしろ、過給器によって見えなくなっていたこのエンジンの素直さのようなものがクローズアップされて好ましい。


 トルクはフラットで回転はなめらか。直線的に回転を上げ、綺麗に加速してくれるサマはストレートシックスにも引けを取らない。高速域でも息切れすることなく、いつでも快活に振舞ってくれるから、ストレスがない。スペックは平凡だが、運転していて退屈しない、いつまでもハンドルを握っていられる、そう思わせるあたり、後述するハンドリングとも相まってドライバーズカーとしての資質は、やはり高い。


 ちなみに筆者が約一ヶ月普段通りに使用した結果の実用燃費は、7.89Km/Lだった。給油から給油までの約400キロ、高速、一般道をおおよそ半々の割合で走った。燃費によろしくない、日々の買い物などのちょい乗りにも使った。指定ガソリンはレギュラー。ちなみに平成15年式、重量ほぼ同じで馬力やや上のFF2.3V6ティアナは同じようなシチュエーションで9~10Km/L(レギュラー指定)は行く。さすがにかなわない。



 足廻り

 ハンドルは軽いが、それはフリクションが少ないという意味でセンタリングも明瞭だし切り込んだ時の素直さや追従の良さもいい。1480キログラムの車重だが、全体的にヒラリヒラリと軽やかに立ち居振る舞い、やはり、走る、曲がる、止まる、という行為を楽しいと感じさせるタイプのハンドリングをもつ高級車。それでいて、当然のように穏やかに、静かに走って、ゲストを快適に送り届けることに不適なはずもない仕上がりはさすが。




 パワーはそこそこなので、シーマのようにテールを大げさに沈めるような走り方はしないが、しかしリアの伸び縮みの素直さとしなやかさがもたらすなめらかで軽快な走りはじつに魅力的。やたらと姿勢変化を嫌い、カタくしてゴムの弾力だけでやわらかさを出そうとしているような、今のクルマのつくり方とは異なるし、ここで感じるのは「BMW」。当時主流の、同じ独立式セミトレーリングアーム式リアサスペンションを持つことから似ているのかもしれないが、このクルマはどこかE28型5シリーズやE30型3シリーズを想起させる。このクルマを初体験した筆者の第一声は「これはBMWじゃないか」。むろん褒め言葉。


 ただし、ピラーレスハードトップによる、ボディ剛性の不足という弊害も無視はできない。ブルブルワナワナと、お世辞にも高級とは言えない震え方、騒音の出方をするクルマでもあるが、そこはまあ、30年も経っていればそういうこともあるよね、とも思う。BMWのような味わいであって、BMWでは決してない、というのも当時の日本車。まだまだガイシャとの隔たりは大きかったのだ。


 しかしそのユルさこそ実は「一体感」の源なんじゃないかと思う。人間とはそもそも脆く、脆弱な動物である。その人間が操るクルマという機械を通じて得られる感想も同様に、多少脆いと感じさせるくらいの方が、波長が合うような気がする。ユルく脆いがために行き届かない部分は乗り手が、ドライバーが率先してリカバリーする、というような付き合い方、あるいは心持ち。何でもかんでもクルマに守ってもらって、やってもらって、おまかせドライブなんて、実はつまらない。現代車がのべてつまらないと感じる理由は、じつはそんなところにあるような気がしてきた。


 ぶつかったら潰れるかも知れない、ならばぶつかって困るような運転はしない、ぶつけて相手を困らせるような運転もしない、そういう感覚も必要なんじゃないだろうか。交通社会の原則は規則順守ではあるが、同じかそれ以上に重要なのは互助と責任意識の精神である。ここ30年で日本人が失ったものは少なくない、そのうちの、これは一つだと思う。



 結論

 動いている姿が美しいスタイリングに、決してけしかけてくることはないにしても、リズム感良く、退屈させず心と身体の深部に充足を与えるかのような奥の深い走り。気が付くとハンドルを離したくなくなっているというマジックは今のクルマではちょっと得られない。自らの意思でハンドルを握り、走り、主体性を持って生きていた、あの頃の日本人に向けた、このクルマは日産からの前向きなプレゼンテーションだったのだと思う。




 これと同じものを今もう一度作っても、それは同様の受け入れられ方をするとは思えない。よく、旧型車の再販を望む声が聞かれるが、クルマの商売というのはそんなに簡単なものではない。むしろ、先ごろ月間販売台数で首位を獲ったノートe-POWERが売れた要因をきちんと把握することのほうがずっと役に立つ。


 大事なのは、ユーザーの心に響いた、という事実である。チーフデザイナー若林昇さんのお話の中でやはり象徴的なのは、ユーザーが実際に自社製品を使用している風景や姿から次のアクションに何が必要なのかをイマジネーションできていたことである。彼の中で、30年以上経った今でもその時のことはくっきりと記憶されていた。ただ漫然とサラリーマン仕事をしていたのでは気が付くことのできないような細かな描写がそこにはあり、同時に彼自身の中で大きなモメントになっていたことも理解できた。Y31型セドリック・グロリアの成功の一つの大きな要因は「高感度なデザイン」である。


 またこうして実車に触れることとなり、日常を伴にしてみればよく煮詰められた走りの魅力に初めて迫れる。しかもそれはスポーツカーのような俊敏さとか、わかりやすい、説明のし易いものではなく、理屈抜きの楽しさや喜びがこのクルマを運転する時間の中に、濃厚に含まれているということがわかってくる。ボディはヤワかもしれないが、限界は外車より低いかもしれないが、でも「毎日が楽しい」、それでいいじゃないか、と思わせてくれる。クルマは常に極限で走っているわけではない。その意味で日々が楽しいという素質は何より重要ではあるまいか。


 そして、すべてを大きな器で受け入れ、時にエンジニアを考えさせ自主性を芽生えさせるようなトレーニングをも重ねながら、営業部門出身ゆえのしなやかな感覚でこのクルマをまとめ上げた、三坂泰彦さんの存在も忘れてはならないが、ご本人へのインタビューはICレコーダ4時間分の収録にも及んだ。その模様は、また年が明けてからのお楽しみ。





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 いつものインプレッション的な「10項目採点評価」

ポリシー >>> 10
デザイン >>> 10
エンジン・トランスミッション >>> 9
音・振動の処理 >>> 7
走りの調律 >>> 9
運転環境と室内空間 >>> 9
ヒトへの優しさ >>> 8
当時における先進性 >>> 8
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 8





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 車両データ

年式車種グレード名:平成元年12月登録・日産グロリア4ドアハードトップV30Eブロアム
車輌本体価格:3,235,000円(OP別)
型式:E-PY31
エンジン:VG30E [水冷V型6気筒SOHC]
トランスミッション:フルレンジE-AT4速
駆動方式:FR
全長×全幅×全高:4860×1720×1405mm
ホイールベース:2735mm
車両重量:1480kg
最小回転半径:5.5m
タイア:前後205/65R15
10モード燃費:8.4Km/L
燃料タンク容量:80L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:四枚のヒンジドアとトランクノッチを持つ4ドアピラーレスハードトップ
ボディ色:ダークブルーPM#724
内装色/シート素材:ブルー/モケット





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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。





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2016.12.30
前田恵祐

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