「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。 キミたちはもっと利口にならなければ、利口になろうと思わなければならない!

Monthly Talk/01 Apr 2015




 25年前から10年間携わった仕事がクローズすることになった。中学を出て初めて携わった、というより全てが勉強だったその仕事は、でもいろいろあったし、遺恨も残しながら10年を契機に辞めた、というのが率直なところだったから、記憶の中ではわりと特別でも何でもない記憶になっていた。いちおう、中学出て10年同じ会社で働きました、というのは履歴書の額面上、とてもモノを言いましたけどね。まあその程度。


 その仕事とは、某俳優の後援会のDM発送名簿管理やチケットの発券、配券、あるいはそれらにまつわる一切合切の顧客対応。まだ個人情報保護法など存在しなかった時代に、ひたすら芝居後のアンケートに書かれた住所や氏名を入力して蓄積して、リピートのお客様を囲い込む、というのがミッション。最大で10万人の管理と対応を一人でやってました。


 でもこの仕事自体けっこう楽しくて、芝居の感想はお客様それぞれに温度感が全く違うし、観点やバイアスや好き嫌いのたぐいも当然それら文脈から伝わってくる。様々な価値観や生き方、捉え方があるということを、幼いながら学んだという面もあるかも知れない。


 いろんなお客様がいて、男性の会社員が一番多かったけれど学生さんや主婦、そしてしだいにキャリアウーマンも増えてきたりして、いろんな人のいろんな声、というか感想文、あるいは職業や居住地などの属性があって、つまり、僕はアンケート入力と顧客管理から、お客様のプロファイルができるように、というか、それをするのがけっこう面白かったりした。想像力の翼を拡げながら仕事してたよね(笑)。


 で、この春に、たまたま仕事に溢れていた僕は社長に呼ばれる。斯く斯く然然こういうわけだから、顧客リストの最終チェックをして欲しいと。


 久々に相対するDM顧客リスト。時代ですね、セキュリティやパスワードの類がかなり厳重になった。ようやくリストにたどり着くと、クローズにあたってメッセージをくれた方や、会費処理の済んでいない方を検索し、リストアップする。するとわかってくるのは、この「終わり」に近づこうとしてもなおアクションを起こしてくださるお客様というのは、じつは、初期時代からのコアファンばかりだったということ。当然僕の時代にアンケート入力されて、今まで大事に大事に管理されてきたお客様だったのですね。


 あの頃は現役バリバリの転勤族で半年ごとの住所変更ログがハンパなかった大企業のエリートビジネスマンは五年前から地方定住。もしかすると定年退職を迎えて、悠々自適な生活をしているのかもしれないな、とか、いつも同じ女性と芝居を見に来てくれていた常連の男性は、その女性と七年前に連名統合の変更処理がなされたログが残っていたり。会費の支払いに振込は信用できないからイヤだ、と言って毎回書留で現金を送ってくださっていた女性は、僕が会社を去ってからすぐに振込にしてくれていたりとか・・・



 流れた月日の長さを対応ログの文字列のつぶてからひしひしと感じる。



 至らない仕事ばかりしていた僕は上司のみならず、お客様からもたくさんのお叱りを受けました。厳しいお言葉に、電話口で頭を下げるということを若くして覚えられたことは、今の職業人としてのキャリアに大きく生かされている。そんな、僕流の、ではあるけれど、お付き合いのあったお客様が、僕がこの仕事を離れたあとも、この会社と付き合いを続けてくれて、最後まで見届けてくださっていること、そこに思いが至ったとき、僕は不意に胸の奥から突き上げるものを抑えきることができなくなった。



 仕事中に号泣してしまった。
 こんなことは職業人生、初めてだった。
 オレもヤキが回った。



 中卒の15歳。弱冠の社会人だった僕は、このお客様方に育てられ、ときに厳しく躾けていただき、鍛え上げても頂いた。同時に自信もなく将来も見えなかった職業人としての僕の道なき道に灯りを灯し、また導いてくださったのもこのお客様方だったのだと。



 振り向けば、我が足元に伸びる轍の愛おしさ、誇らしさよ。



 そう、あの頃から考えもつかないほど立派な社会人にしていただいた僕の原点はこのお客様方との日々にあったし、その皆様とのお別れの時にまた「お会い」する機会が与えられたということは本当に幸せなことだったと思う。迷いに迷って、悩みに悩んで、中卒で働き始めた。どこに自信を持っていいのかもわからないし、何を自分の特徴であると認識していいのかもわからなかった。



 迷った遥かな日々。
 でも、なにも間違ってはいなかったのだと言われているような気がした。
 人生とは、やはり生きるに値するものである。






前田恵祐
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