「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

Monthly Talk/01 Jul 2015



 僕は酒というものが苦手でした。苦手というよりキライだったのだと思いますね。なにより禁酒運動を起こしていた祖父の影響は大きかったし、それに反発するように酒を飲む父という家族内の構図も決して快適ではなかった。しかもうちの父の酒の飲み方、酔い方はいわゆる「いい酒」の反対。飲むだけ飲んで人を不快にさせるタイプの人間だった。そういう諸々の条件が僕を酒から遠ざけたという事情はあるわけですね。


 社会人になっても酒からは遠い存在だった。最初の十年はクルマ通勤だったし、その次はクルマの営業だったから飲めるはずもない。それに会社の人間と酒を酌み交わすという感覚が理解できなかった。さして仲も良くないのに何を仲良しなフリをしてやがる。酒の場というのはそうした偽善の場でもあるとも認識していた。本当に、根っからの酒嫌いだった。


 中卒で卑屈な職業観を持っていた僕も、あるとき自分の実力を試すつもりで最大手携帯電話会社の料金部門の仕事に挑戦しました。ちょうど10年くらい前ですね。大きな会社というのは厳然とした社内統制があって、その中で企業の歯車として皆一丸となって働いている姿、その中に自分を置くという挑戦はとても刺激的だった。お客様対応のノウハウもここで学んだし、社内でのコミュニケーションのあり方の基礎もこの会社がさずけてくれたものだった。社会人として学ぶべきことがたくさんあり、得るもの多く約三年の契約期間を満了しました。


 その間も僕は酒席にはまったく参加しなかった。そんなことより家に帰って自分の好きなことをしたりドライブに出かけたりしたほうがずっと有意義だと思っていた。そんな感じの社員だったから酒にも誘われなかったし、むしろ酒席での「飲ミュ二ケーション」が盛んだったその職場の中で僕はマイノリティだったと思う。だけど仕事は頑張ったし、仕事の成果で皆を納得させるというスタンスで働いていた。その意味ではすごくストイックでしたね、今より。


 その職場を卒業する日。当然送別会なんか計画されていなかったし、終業時間に花束を受け取ってそれで終わり、という予定だった。予定は粛々と進行し、ちょうど人事異動の時期でもあったから他多数の中の退職組の一人として、各所への挨拶回りや残務整理をし、そのときを待った。花束を事務的に受け取り、でも一緒に働いてくれた女性社員が涙を流してくれたりもして「いい卒業式」を迎えることができた。


 セキュリティカードを部長に返却し、「ありがとう、よくやってくれた、次の職場でも頑張れよ」と肩を叩かれ廊下に出ると、隣合った部署の同じリーダーとして共に汗を流した仲間数人と支えてくれた女性社員数人が待っていた。



「マエダ君、今日こそはいいよね?」



 皆がいたずらっぽく笑いかける。これはもう断ることができないと悟った。ほぼ初めてといっていい職場の仲間との酒席はとてもいい時間だった。あれはたしか、みなとみらい新高島のバーミヤンだったと思う。仕事を離れて、でも個人の意見で相手の仕事ぶりや人間性についてを語ったり、イヤな上司の悪口を言ってみたり、趣味や将来の夢についても語り合ったと思う。すると、さっきセキュリティカードを返した部長まで合流してくれて、皆で僕の三年間を労ってくれた。みんな僕のことを見てくれていたんだな、でもこういうことは仕事中には話さないものなんだな、あるいは、酒席でこそ話すために、みんな取っておくものなんだな、と思った。


 いい仲間といい酒。この時のことが「いい酒」とは何かを教えてくれたと思う。そう考えるとあの三年間は本当に職業人としても、一人の大人としても大きく成長できた時間だったのだなと改めて噛み締める。あの日のことは忘れない。


 僕は「いい酒」になると確信できる相手としか飲まない。基本サシ飲みに近いし、ゆっくり落ち着いて楽しい話ができる空間になると確信しないと飲まない。少なくとも僕はそうだけど、酒になると良い意味でスイッチが切り替わる。馬鹿騒ぎはしないし、けれど心底楽しもうと思う。楽しませてあげようとも思う。深い話もするし悩みの相談も受ける。かといってその時間に拠って立ったりはしないしわりとすぐに忘れる。それはもちろん記憶をなくすほど酔いつぶれる、の意味では当然ない。


 そんな感じで不惑を迎えた最近になって、僕はとくに「いい酒」になる飲み仲間が立て続けにできた。それはこの前もちょっと書いたけれど、某最大手鉄道会社の某駅の駅長Tさんだったり、このブログの第一読者であり広告代理店他多数の名刺をもつIさんだったり、叔母と初めて「新橋」で待ち合わせてオヤジ飲み屋で楽しく飲んだのもよかった。酒席というのは皆にとって一様に心を開放できる、大人の社交の場なんですよね、今さらそれをわかった。人脈を広げるきっかけにもなるかもしれないし、相手との距離が縮められる、そういう素敵な化学反応を起こせる場。アルコールによる化学反応が人間を結びつける、うん、我ながらいいフレーズだ(笑)。



 つまりみんなそうやって友達を作るんだね。それが最近の大きな発見でした。




前田恵祐
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