「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

剛性感の意味を知る~B12型日産サニー


 剛性感という言葉が盛んに書かれ語られるようになったのは1980年代中盤あたりからだったと思う。クルマの車体はよりしっかりした感覚を有していたほうが安心感が高く、また車両の安定性や操縦性にも寄与するといった意味で、剛性は高い方がよりよいとされていた。それを人間の身体が五感で感じ取る印象のことを「剛性感」と言った。その真意とはどこにあるのかイマイチ判然とせずどこか抽象的な表現に思えたものだが、僕は31年前、このクルマでその意味を知った気がする・・・




 通称”トラッドサニー”は、実際にトラッドと呼ぶべき成り立ちやファッションであるかどうかは別として、きわめてオーソドックスなメカニズムとその入念な熟成、仕上げを施してきたクルマで、その保守的な思想は見た目からも明らかだった。当時小学生だった僕は当然のようにクルマを見た目から判断するわけだが、その観点からの評価がとても低かった。時代遅れのようなカクカクの角ばったデザインは他のライバルが先鋭的なデザインを採る中で、1985年のニューモデルとしてはいささか古臭く映ったからである。


 しかし、このB12型日産サニーに初めて乗った時の印象はちょっと衝撃的だった。


 ドアの開閉感覚からして違った。決して重厚でこそなかったが、しっかりとした立て付けとボディ側の受け止めの確かさは無用なビビりや震えを起こさず、きわめてソリッドな感触とともにドアを開閉させた。乗り込むとボクシィなスタイルの恩恵からとてもルーミーなインテリアで、窓も大きく視界がいい。ドアを開け、乗り込んだだけでこのクルマの印象はとても良くなった。とてもいい予感に満たされたのである。


 エンジンは1.5リッターE型のキャブレターでネット73馬力という、これまた目立ったスペックではない平凡なエンジンに、やはり時代は多段化の波で4段オートマを採用するライバルも多い中、このクルマは3段オートマのままだった。エンジンは静かでこそないが、でもうるさくはない。不快な振動や唸り音を見事にシャットアウトできている。エンジンが遠くにある感じがした。オートマも段数は少ないが作動がスムーズでこれまた不快でない。むしろ快適。


 155SR13という細いタイアを履く足廻りは適度なしなやかさをもち、車体をフラットに保っている。なによりビシビシガタガタと鋭い衝撃を見事に減衰して、乗員を路面の凹凸から丁寧に保護しているという感じがじつに快適で安心感につながった。かといってフカフカで頼りないのとも違う。しっかりと車体を支えて安定感も高く、決して俊敏でないというわけでもない。タイアもしっかりと路面を捉えている印象がある。


 このじつにゆったりとして快適な乗り味は何なんだ、と思った。今の言葉で表現するなら見事に”癒し系”なのである。その要因を分析するとこうなる。


 エンジンが遠くにある感じ ⇒ エンジンの発する振動騒音を寄せ付けない「車体剛性」
 しなやかかつしたたかな足 ⇒ サスペンションを設計どおりに作動させる「車体剛性」


 このクルマに乗って、今まで自分が接してきたクルマたちが、クルマの基本である車体設計において必ずしも理想的な剛性の確保と剛性感の演出がなされていなかったのだと知った。そして、車体の剛性感が高いことのメリットは計り知れない、とも思った。正しい設計を施し、高い剛性を確保していれば、効率的に完成度の高いクルマが作れる。例えばエンジンの騒音振動対策のために無用にマウントをヤワくする必要もなければ、遮音材で重量を増加させる必要もなくなる。またアシを固めて安定性を確保する必要もなければ、太いタイアを奢る必要もない。いたって健全なクルマ作りがそこにある。


 正確に言えば、実際の剛性と剛性「感」とは同軸で語ることができない分野だったりもするのだが、しかしサニーは車体をしっかり作ることの重要さを僕に教えてくれた。それは目に見えるわかりやすいスペックではやし立てることでもなく、カッコつけのデザインで気を引くこととも違う、日々の付き合いの中から乗り手に心の豊かさのようなものを届けようとする思想がはっきりとあって、カタチこそサエないが、B12型サニーというクルマには、そんな新しい価値観の提案や示唆のようなものが込められているように思えて、とても感心したのをアリアリと思い出せる。


 ちなみにこのB12型サニーの開発責任者は、のちにN13型パルサーの「フルオートフルタイム4WD」で脚光を浴びることになるプリンス出身の名エンジニア、千野さんである。彼がまとめたN13型パルサーもまたB12型サニーの美点を引き継いでいる上に、さらにヨーロッパ指向のスポーティな味つけが効いていて、じつに魅力的なクルマに仕上がっていた。くだんの「フルオートフルタイム4WD」には先進技術ゆえに社内に反対論も根強くあって、千野さんはパルサーに旧来のパートタイム式4WDでも行けるように同時開発を続けていたが、自らの信念に基づき「フルオートフルタイムでやってしまった」というエピソードもある。僕はこういう話がとても好きだ。





2016.8.12
前田恵祐

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