「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

グフフがとまらない・・・E30型BMW325i


 なんといっても僕のガイシャ初体験はBMW3シリーズのE30型だった・・・というと、僕の年代のヒトにとってはけっこうポピュラーなガイシャとの出会い方なのかもしれない。六本木カローラとか、青山のサニーとか、いろいろ言われた「ミーハー」なクルマ、BMW3シリーズだったが、この出会いこそが、僕をガイシャの道へと走らせる大きな要因となっていくのである・・・


http://www.favcars.com/bmw-320i-sedan-e30-1982-91-wallpapers-169736
※画像は320i



 まず、登場人物を紹介しておこう。


 ケンちゃん、である。ケンちゃんはフリーのフォトグラファーであり、当時の僕の職場の仕事に一枚も二枚も関与していたため、ケンちゃんはたびたびこのE30、1987年型325iで僕の勤める職場に現れたんである。


 ケンちゃんが来るとすぐにわかった。


 ウルサかったからである。なにも爆音マフラーなんぞに下品な改造をしていたわけじゃない。当時の325iの排気音はけっこうイイ音させていたのだ。もう50メートル手前に近づくと「やあ!グフフ、、、」とケンちゃんがいつもの挨拶で現れることは必定だったのである。


 そしてケンちゃんは左ハンドルの右側助手席に乗せる女性がいつも違っていたわけである。キザでナンパなヤツだったワケなんである。だから、まだハタチそこそこだった僕はこの325iの排気音が近づいてくると心がなんとなくソワソワするんであった。今日はどんなヒトを横に乗せているんだろう・・・そう、ケンちゃんの助手席の女の人はいつも美人だったんである。


 当時まだSW20型MR2でそれなりに若い血を滾らせていた僕にとって、そんなケンちゃんと325iの振る舞いにはやや遠く及ばない距離感というか、隔世感みたいなものがあって、なんだか都会のオトナってすげえんだなあ・・・と遠い眼で眺めていたような気がする。


 しかし、ある日のこと、そんな、ケンちゃんはともかくとして、325iとお近づきになれるチャンスが到来したのだった。ケンちゃんが海外遠征をするとかで、ウチの会社の駐車場に325iを預けることになったからである。


「ケースケちゃん、そんじゃ、そこんとこヨロシク、グフフ、、、」


 やはりグフフ、、、で来たか。ケンちゃんはそう言い残して、325iのキーを僕に預けると、ヨーロッパの果ての国まで旅立っていくのだった。僕はこう解釈した。「そこんとこヨロシク、グフフ、、、」とは、つまり「オレのオンナを頼んだぞグフフ」では当然なく、「325iをよろしくグフフ、、、」なのであると。そりゃそうだ、ノーマルでもアイドリング不正みたいな脈打ちをする325iだもの、しばらく放っておいて調子が悪くなったらそれは一大事だ、と、勝手にそう解釈したワケだった。なにせ325iはよく修理に入っていたもの。


 僕は迷った挙句、その日の夜のうちにエンジンをかけてみることにした。


 ちょっと遠慮して何日か経ってからにしようかとも考えたが、しかしその時点で既に調子が悪くなっていてはイケナイ、そうは思いませんかといちおう空を仰いでみる。


 日本車のそれよりはるかに分厚くてカッチリとしたキープレートを鍵穴に挿すと、これまたカチリとした感触とともに集中ドアロックが解除される。なにやらムニュっとしていたMR2のそれとはこの時点で違った。そしてさらにバシッとした手応えとともに開かれた運転席ドアに見とれる間もなく僕の鼻腔にはビーエムのニオイが即座に届いて、これがまた異世界感を掻き立てるに充分以上の演出効果となった。


 都会のキザでナンパなオトコのクルマは、こうして田舎モノの僕を大いに緊張させるアピアランスを有していたわけである、乗る前から。スゲエなあ、ビーエム。


 平板なようで身体に馴染むスポーツシートに身を預け、さらに緊張のエンジン始動。


「ギュルビン!ブルブルブル.....」


 エンジンは一発で始動した。グフフ、、、とは言わなかった。ヨカッタ。僕は壊してないぞ。それにしてもやっぱりエンジンはウルサイなあ。リアミッドシップのMR2よりずっと存在感がある。デカイ、というか、尊大、というか、エンジンがエラそうで、そして鎮座ましましているという感じがとてもした。アイドリングだけでこの態度と来たか、サスガはビーエムだなあと妙に説得力もある。


 夜だったけどちょっとフカしてみた。


「ビュワーン、ビュワーン、シャーーーン!」


 シルキーシックスは雄たけびを上げる。驚いたのは回転を上げたあと、すぐにその回転が落ちるということだった。フライホイールが軽かったのかもしれない。それにしてもソリッドでシャープな感触だ。重いスロットルだが、踏めば踏んだだけ鋭く、滑らかに、そう、まるで絹の糸のような繊細さを伴いながら回転を上げる。精緻な作りをとても感じさせる。


 気がつけば夜中にもかかわらずまるでとりつかれたように僕は325iのスロットルを煽り続けていた。そしていざなわれるように、ZF製4段オートマティックのシフトレバーをドライブにセレクトするのであった。


 この絹のような滑らかさを、動力として伝えながら走る感触を確かめたくなった、その衝動は抑えようもなかったわけである。嗚呼、ケンちゃんの大事なオンナに手を出してしまった・・・というような罪悪感もどこか心地よいものだった。グフフ...思わず笑い方も移ってしまうわけである。


 3シリーズの中でも最大エンジンである325iゆえか、やはりパワーがあった。というか、トルクがあった、というべきか。それまではビーエムのオートマはカッタルイとかいろいろ聞かされていたものが、どっこい、とても力強いし、それもあの滑らかさを伴っての上質さ加減でもあって、僕の期待はドンドン膨らんだ。


 環八に出るために側道を加速する。回転を上げれば上げるほどシャープに、精緻に、そして金属質、あるいは硬質な手応えとともに上り詰めていく。落ち着いている。でも上り詰めていく感動がある。冷静である。しかし情熱的でもある。この静かで上質な高揚感。う~ん、やっぱり都会のクルマだなあ。


 環八を世田谷から羽田まで走ってしまった。気がついたら大鳥居まで来てしまっていたんである。ガソリンはもうあんまり残っていない。だからせめてもの罪滅ぼしのためにハイオクを満タンにして帰った。ハイオク入れといたぜグフフ...である。


 僕は環八外回りの帰り道すがら、これはもう、知ってはいけない物を知ってしまった罪悪感のような、あるいは甘美な、ともいうか、とにかくソッチの扉を開いてしまった、ついに、という妙な高ぶりとともに左ハンドルのウインカーを間違えてワイパーを動かしてしまうのであった。


 それまで知っていた国産車とはまるで違う。硬質で、上質で、上品で、滑らか、にして情熱的でもある。それになんといってもあのガイシャ特有のニオイにヤラれた。


 ちょっと気になったのは、メーターパネル内のオイル警告灯が点灯していることだった。チーカチカと灯るそのランプ、「エンジンオイルを確認してください」ということだったので、ボンネットを開いて確認したけど、ちゃんとキレイなオイルで充填されていた。それを帰国後ケンちゃんに聞いてみると・・・


「ガイシャはそんなの気にしちゃダメ!グフフ...」


 と、いつものちょっとネクラな笑いとともにキザに言い放ったワケである。う~んますますカッコイイ。そんなの気にしちゃダメな警告。警告を無視する、無視してひた走る・・・なんて都会的なんだ(笑)


 僕はその年の暮れに、長年思いを寄せていたランチア・テーマの最後のデットストックを買った。ビーエムじゃなくてね。オレ、ナンパ野郎じゃないし。ビーエムはガラじゃない。


「でもオレのより全然キザだよケースケちゃん!グフフ...」


 それからというもの、とうぶんの間、あの「グフフ、、、」が抜けなくなってしまったのは、いうまでもない。





2016.10.16
前田恵祐

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