「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

ファミリーカーを買う・・・アルファ155-V6


 むろん、僕がではなく・・・


・・・ケンちゃんのハナシである。(このカテゴリの前話参照


 僕がケンちゃんのビーエムと彼の言葉の端々にチョイチョイ出てくる不気味でネクラな笑い方に感化され、彼と同じ外車オーナーになってからというもの、ケンちゃんは僕をちょっとだけトモダチだと思ってくれていたっぽく、彼のビーエムの不調ぶりを嬉しそうに話しかけてくるようになった。


「もうタイミングベルトやらないといけないんだよなぁ・・・グフフ、、、」


 やはりグフフは欠かさないケンちゃんなのであった。タイミングベルトとかいうまえに、様々な不定愁訴トラブルが頻発し、6気筒が5気筒になってしまったり、突然ラジオが大音響で鳴り響いて近所迷惑になったりと、鈴木亜久里のラルースローラどころじゃないけっこうな電気系統っぷりを披露するケンちゃんのビーエム。そんなところへ突然である。


「これ、ボキュ(僕)の娘なのッ、グフフ、、、」


 名前はナッちゃん、というらしい。ケンちゃんが妻帯者だということは知っていたが、なにせ毎回助手席の女性が違うような人であるからして、どの人が本妻なのか、というか、そもそもこんな可愛いお嬢ちゃんがいたのか、と突然のコトに驚かされた。つまりこういうことらしい。諸々な大人の事情から彼は今、養育費とか慰謝料とかのハナシをしているらしく、そしてナッちゃんのことも引き受けなければならなくなった、と。詳しい事情は「察してくれ」というカンジだったので、というか、ナッちゃんの前では聞けないわね。


「CR-X、いいよね、広いからいいファミリーカーだ!」


 そう彼は断言し、つまりビーエムを降りることにしたらしい。遊び放けた時代をともに過ごしたビーエムとは別れを告げて、ナッちゃんもきっと喜ぶであろうファミリーカーで心機一転、そんな機運が感じられないでもなかったが、しかしCR-Xは広くていいファミリーカーなんだろうか。しかもこの時売っているCR-Xとはすなわちデルソルであり、二人しか乗れない。屋根を閉めておけばまあまあ荷物は乗る。


「四駆もあるし”ウォークシュルー”だからコドモも喜ぶよね、ギュフフ!」


 これはCR-XではなくCR-Vのことを言っているんだろうな、と理解できるまでに暫くかかった。そして「コドモが喜ぶ」というフレーズに非常にチカラが入っていたことは、いつものグフフ、、、がギュフフ!にグレードアップしているあたりからもよーく理解できたんである。「オレは今、子育てパパモード全開なキモチだぜ、ギュフフッ、、」的な。


「RAV4いいケド、狭いからコドモ乗せるにはね・・・」


 つまり流行りのライトクロカンで行こう、というハラだな。そういえばここ数ヶ月ケンちゃんの髪型は、いわゆるロン毛。それは明らかに、RAV4のコマーシャルにも出演し人気上昇中のキムタクを意識しているに違いない髪型なんであった。ただ、髪をかきあげる仕草が今一歩キムタクになりきれず、むしろキンパチにしか見えなかったがそれは胸に仕舞っておくことにした。


「シュッ、しゅみませーーん、キュルマ(車)を貸してくだしゃーい」


 妙にかしこまったケンちゃんの姿を見かけるようになる。とうとうビーエムは息絶えたらしい。それに大人な調停関係も不調に終わったらしく、おまけにアシスタントにも逃げられ、カメラ機材を両手に抱えながらナッちゃんを連れて、ウチの会社のボスの、社内では人気がなくあんまり使ってないMX83マークⅡセダンをケンちゃんはよく借りに来た。


 世はプリウスが出ようかというエコブーム真っ只中。ケンちゃんはアイドリングストップこそエコドライブの真髄だ!と言わんばかりに、ボスのマークⅡをシコタマ、アイドリングストップしては再スタートさせた。おかげで今度はボスが乗っている時に道玄坂の駐車場でセルモーターがぶっ壊れ、渋谷から世田谷に帰ってくるのに5時間もかかった。ケンちゃんはシコタマしかられ、こうべを垂れていた。


 そうして大人な調停方面やら仕事やらクルマやら、あらゆる方面に不調をきたしていたケンちゃんは意気消沈、多少哀れな感じだった。しかしそんな彼がこれまた突然意味不明な電話を寄越してきたのはある夏の夕暮れ時だった。


「ケ、ケースケちゃん、今日、残業してろよな!ギュフフ!」


 久々のギュフフ!である。これはかなりのハイテンションになっている証拠である。


「ブォーーン!ブォーーン!、ウォオオオーーーーン!!」


 真夜中。会社の外でエンジンを吹かす音がする。そしてそのエンジン音はなかなか止まない。つまり、僕に出てこい、というコトのようだ。


「ア、アレッサンドロ・ナンニーニって知ってる?かなぁ?」


 突然こう切り出すケンちゃん。ま、僕もF1ファンだからね。89年鈴鹿の勝者で90年鈴鹿を前に自ら操縦するヘリコプターの墜落事故で片腕切断(のちに縫合)の重症でF1を降りた悲劇のヒーローね。ついでに言えば、89年鈴鹿のセナプロ・シケイン事件を彼らの右後ろという誰も撮影者のいない角度からたまたま撮影し、某スポーツ誌に売り込んでガッポリ儲けたのが誰あろうケンちゃんであったことも、僕は知っている。


「これ、ナンニーニが去年鈴鹿でデモランした個体そのものなんだ、グフ、、」



http://www.favcars.com/alfa-romeo-155-2-5-v6-167-1995-1996-wallpapers-141320
※写真はイメージ



 久々のクルマの取材、というコトだけでなく、それもこのところ(当時)人気を博しているアルファ・ロメオ(155・V6)の広報部所有のデモカー、しかもナンニーニがドライブしたヤツ、というコトでのあのハイテンションらしい。


 それにしてもナニーニではなくナンニーニなんである。ケンちゃんは「これぞ正式な発音だグフフ」と言わんばかりにしつこく「ナンニーニ、ナンニーニ」を連呼していたが、コーフンのあまりそれが時折ならず「ニャンニーニ」になってしまっていたコトも聞き逃さない僕なのであった。


「荷物こんなに入るしさ、チャイルドシートだってバッチリだよグフフ、、、」


 つまりケンちゃんはこのアルファが欲しいらしい、ということはスグにわかった。ファミリーカーとしての資質だってホラこんなに的なアピールも痛いほど理解できた。どうやらケンちゃん的には僕に同意を求めているようだった。なぜって、今の彼がアルファに乗ることに付きまとう後暗さくらい自分でも薄々ならず感じていたんだろう。ひとまず僕もナニーニがハンドルを握った個体とあっては乗せてもらわない手もなく、赤い握りのついたキーでイグニッションONであった。


「クォーーン!クォーーーン!」


 アクセルを軽く吹かしただけでなんとも刺激的なサウンド。これはさぞ乗りにくいのだろうと身構えると、軽く正確なクラッチはスムーズにつながり、エンジンはいくばくかもイヤがる素振りを見せずにスルスルと動き出すのだった。印象的なのは静かなこと。僕のランチア・テーマと同じくらいの静粛性だと思った。


「ほら、ほら、もっと、もっと、グフッ」


 男から「もっと」とせがまれるのはいささか気色悪かったが、「もっと」アクセルを踏んでみることにした。夜中の環八は空いている。


「ウォオオーーーーン、ウォオオオオーーーーン!」


 ビーエムのシルキーシックスがあくまでも冷徹な仕事をするのに対し、アルファV6は常に情熱的で、ドライバーを快楽の世界にいざなうような魅力に溢れていた。フリクションが少なくスムーズで軽く、刺激的で、きわめて心地よい陶酔感に浸ることができる。


 もっと言うなら、こいつはものすごく、エロだ。エンジンが高鳴れば「クァーーン!クァーーン!」が「イヤーン!バカーン!」に聞こえてくるタイプなんである。幻聴だろうがなんでもいい・・・コイツになら一生を捧げちゃうかも知れない・・・魔の扉が目の前で開かれようとしているような、艶かしいこと極まりない胸の高鳴りである。


 しかしこれはちょっとマズい。今のケンちゃんにはことのほか。


「コイツで蓼科のイタ飯がウマいペンションまで・・・いーだろなーグフ~ン」


 声が気色悪く裏返っていた。案の定、彼は既に「その気」である。しかし・・・


「ケン?それ、誰と行くつもりッ!」


 すかさずそう言い放ったのは後席のチャイルドシートにお行儀よく鎮座する、誰あろうナッちゃんであった。びっくりするほど老成した鋭い洞察に僕は凍りついた。そして恐る恐るとなりに目をやれば、さっきまでのノリノリでウキウキなムードのケンちゃんはどこへやら、グッタリとヘシ折れ助手席にもたれかかるしかなかったのである。


 これが彼へのトドメといえばトドメの一撃、だったのかもしれない。


 ケンちゃんとナッちゃんは暫くのあいだ父子で二人暮らしを続け、次第次第にケンちゃんはナッちゃんに首根っこ掴まれるような親子関係に、予想通りなっていった。もちろんクルマなんて、外車なんて、アルファなんて、口に出すだけでもオコられそうな世界である。


「ケン!早く行くよ!バスに遅れるッ」
「は、ハイッ!」


 そんなやりとりが、


「ケン!早くおいで!ハウス!」
「キャ、キャィン!」


・・・に聞こえないでもなくて一人腹筋がつりそうな僕であった。フキンシンである。僕がランチア・テーマで「送ろうか?」と差し向けても、「いえ、結構でしゅ」とグフリとも言わずに目を背けるケンちゃんであった。


 その後、ケンちゃんはロン毛をバッサリ落としてアタマを丸めるとフォトグラファーから完全に手を引き、風の噂によればケンタの店長をやったり、マン喫の店員をやったりと、男手一つ(な、はず)でナッちゃんを育て上げ、今は山にこもって山岳ガイドで食っているんだとか。


 人間、変われば変わるもんである、と思う反面、しかしそれも、いわゆる山ガール目当てだぜグフフ、、、的なタクラミなんじゃなかろうか、と僕は心のどこかで睨んでいるし、某有名企業に就職し、バリバリのキャリアウーマンになっているらしいナッちゃんもきっとそう睨んで、蓼科方面にキリリと目を光らせているに違いないと思うんである。





2016.11.3
前田恵祐

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