「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

ウガピーの祟り・・・JZX81型クレスタGTツインターボ


 人付き合いというのは難しい。友達を作ろうとしてもなかなかうまくいかないこともある。人生とはなかなか思い通りにはいかないものである・・・




 学校帰りに一人は寂しい。僕なんぞは家が遠かったから結局最後は一人であるくことになるんだが、でもやっぱり誰かとワイワイやっている、ほかの誰かの姿を見ていると、チョット羨ましい、というキモチもわかる。


 だからといって、無理やり気を引いて仲間に入ろうってのも気が引けてやらない。だけど、そこをグイグイくるやつがいて、そいつが、ウガピーといった。


 何人かで家に帰っている途中、どうしてもウガピーは一人なんである。孤独、というか、不器用といったほうが正しい。友達のできにくい偏屈なやつであることは、これから説明するウガピーの行動変遷からもわかる。


 まず、彼は僕らグループを追い越す。そして、チョット先でしゃがみこんで靴下を直しつつ、僕らの通過を待ち構えている。そして予想通り、僕らは無視して通過するわけだが、それでも懲りずにウガピーはなんどもそれを繰り返し「コ、コッチも仲間に入れてホシイのね...」と迫ってくる・・・そう迫って来るんである。チョット気色悪いんである。


 僕はそんなウガピーの狙い撃ちにあった。なんといっても、途中で不登校気味になってしまったから、やっぱり彼と同じ「ような」境遇に立たざるを得なくなったからである。それでもウガピーは他の生徒に対する方法と同じように、追い越したあとにわざとらしく靴下を直し僕の気を引く、という方法をやめなかった。ワンパターンなんである。


 ウガピーとのハナシははっきり言ってつまんなかった。だって全部自分の自慢話か、オヤジがどんなに偉いかとか、そういう話ばかりだもの。やっぱりコミュ障だったと思うよね。だけど、そんなコミュ障ウガピーとも付き合いが長くなるといろいろわかってきて、けっこうドジなヤツだということもわかってくる。


 ある日、戸塚カントリーという地元のワインディングロードにチャリンコで走りに行ったところ、負けず嫌いなウガピーはどうしても僕に負けたくないらしく、6段ギア付きのスポーツサイクル車ですっ飛ばした。しかし勢い余ってヘアピンコーナーの先に積んである土管に正面から突っ込み、6段ギアチェンジのレバーでキンタマをシコタマ打ち付けてしまい、僕のママチャリに惨敗を喫するんである。


「イ、痛いのね...コ、コッチの気持ちもわかってもらいたいのね...」


 それがその時のウガピーの精一杯だったが、僕は腹筋を攣らせて爆笑だった。カッコつけようったって、靴下直し野郎にはたかが知れているわい、と思って嘲笑った。


 しかしこの時のことをヤツは決して忘れることはなかったんである。


 ところで、ウガピーというあだ名、じつは僕だけしか使わない。そのあだ名の由来は、やっぱりというか、特徴的な笑い方なんである。僕の周りには笑い方に特徴、というか、オカシイやつがけっこう多いのが困る。


 たぶん、彼の場合、自分の笑いたいという感情をかなり抑圧しているのがわかった。なんせ、オヤジは大会社のエリートだし、一人っ子ですごく英才教育っぽい家庭に育っているのも知っている。だから、感情を開放して、心から明るく「ワッハッハッハ」と笑う習慣がないんだろう。


「プププ、、、ツツツツツ・・・ウガカカカカカカ!!!」


 両手を口に当てて吹き出す声を必死にこらえようとしながら両肩を小刻みに上下させながら、そう、ウガウガと非常に気色悪い笑い方をする。だからウガピー。僕の家では弟から宇賀神さんと呼ばれていて、それにはれっきとした由来があるのが、ここでは問題がありすぎて到底言えない。その宇賀神というあだ名にも彼はいたって不満であったようだし、そもそもウガピーの本名は鈴木と並ぶ日本でもっともポピュラーな苗字だったもの。


 でも、その笑い方に見える抑圧感が、どこか当時の中学生の精神構造を表していた気がするし、社会における、立ち居振る舞いとか、自分の出し方とか、「こうすることが上品なんだ」みたいな刷り込みに洗脳されている気がして、ちょっと気の毒でもあった。


 そういうわけで、ウガピーとは家を行き来する仲に、やや不本意ながらなっていた。だからオヤジさんともオフクロさんとも顔なじみになって、オフクロさんなんか、前田くんとは根明コンビね!なんて、事実とはかけ離れたコンビ名を拝命したりして、些かならず、やはり不本意なんであった。そんな行き違いというか齟齬も、当時の世の中の本音と建前のズレの大きさを表している気がとてもした。


 で、彼んちの自慢は愛車でもあった。



※うちにあったカタログからテキトーにスキャン、ウガピーん家のは白



 クレスタのツインターボだった。280馬力を搭載した、当時としてもかなりのハイスペックなクルマだった。その、誰よりも(?)速い自宅の愛車こそが、ウガピーの自慢の種だったのだ。


「この間、うちのパパが首都高でパトカー振り切ったノネ...ウガウガ」


 みたいな、嘘だかホントなんだかわからないような話はそれこそ日常茶飯事で、とにかく、速いことに大満足な様子だった。むろん僕は話半分以下で聞いているわけで。


 そんなような家族構成やウガピーの笑い方やら性格やら、キャラクターだから、僕は相当ウガピーを馬鹿にしていたということは、ここまでお読みいただければお分かりだろう。


 しかし、僕が免許を取得してしばらくしたある日。


「前田くんもホラけっこう好きな方だからさ、一度うちのツインターボ、乗ってみたらいいよ」


 エリート会社員なのに気前のいいウガピーのオヤジさんのこの一言に僕はコロリと乗せられるんである。しかもオヤジさんの気前の良さはそれだけにとどまらず、「箱根にでも行ってトンカツでも食ってこいよ!」と万券を何枚も札びら切って手渡してくれたりもして、そしてやっぱり、当然のように、まだ免許を取っていないウガピーは助手席にチョッコリ鎮座しているわけである。


「プツツツツ...ハ、ハコネ、イクのね、ウガッカッカ」


 ツインターボは確かに速かった。怒涛のトルク。どんな場所でも好きなように加速できる自由さを感じた。それに、なんといってもサスがいい。日産ファンだった僕にしては意外な発言かもしれないが、JZX81系のリアサスはダブルウイッシュボーンで、これがけっこうアームのスパンが長くバネ系のストロークも長くゆったりしていた。すごく洗練されていたんである。日産ファンとしては、けっこう敗北感があった。


 東名に乗り、120くらいでトバしつつ、強烈なブーストを味わいながら、「うちのパパは、モ、モット飛ばすのネ...」みたいなことをウガピーが言うから前のクラウンに追いついてしまって、それが覆面車だったからビックリして減速して事なきを得た。初心者っぽい運転である。


 そして予定通り、小田厚を超えて小田原でトンカツを食ったあと、いよいよターンパイクに入線。ウガピーのオヤジがくれた万券で料金所を支払いフルスロットル。するとTRCが効いてぜんぜん遅かった。でもアブなかったからTRCはカットしなかったんである。


 最初はいい感じでトバしていた。抜いていくクルマもなかった。だからグングンスピードを上げてP700Zも絶妙なグリップで横Gを発生させコーナーリングスピードは初心者としては異例に速い。


「ウヒョヒョヒョ...イ、イイのね...」


 ウガピーはご満悦であった。こちらも例のリアサスの良さを感じながら調子よくターンパイクを登っていっている、はずだったが、どうも様子がおかしい。じつはクルマでのワインディングはこれが初めて。次第次第にハンドルを切り始めるタイミングも合わなくなり、目がスピードに追いつかなくなっていくのがわかった。そして、真夏の室内はトヨタ純正オートエアコンでガンガンに冷えているわけである。その上ウガピー家の独特の香水の匂いだ。


 僕は、酔ってしまった。


 最初は深呼吸なんかをしてごまかしていたが、大観山あたりにまで来るともうダメだった。


「プププ...オタク、キモチ悪くなったのね...」


 オマエの喋りの方がキモチ悪いわ、と言ってやりたかったがそれどこじゃない。小田原で食ったトンカツが暴れている。トイレに駆け込んだ。


 トイレにはウガピーもついてきてくれて、「けっこう優しいやつだな」と思ったが、僕が嗚咽をこらえきれずにゲーゲーやっていると、そのうちあの笑い方が聞こえてくるんである。やつの笑いはけっこう場所を選ばない。


「プヒヒヒヒヒ...ツツツツツウガカカカカカカ!!」


 廊下に轟く気色悪いあの笑い。僕は咄嗟にあの戸塚カントリー、キンタマ強打事件を思い出した。「オアイコなのねウガウガ」みたいに言われている気がして、無性に腹が立った。しかもあの気色悪くへりくだって慇懃無礼でさえありながら高笑いにも聞こえる憎悪に満ちた笑いは何なんだ。この絶望的なまでの敗北感は何なんだ。畜生、こんなところでヤツに負けを認めることになるなんて。その後一体どうやって帰ったのかは覚えていない。悔しさのあまりにというヤツである。


 これを僕はウガピーの祟り事件と戒名をつけたい気分だった。


 それ以降も、ウガピーは自分のF31レパードを買ったりしてそいつを運転させてくれたりもしたが、箱根にだけは寄り付かなかったし、寄り付かなくてもあの時の話をヤツは意味もなく例によって慇懃無礼に恥じらいながら、「チョ、チョットだけ言い出しにくいんだけど、あの時のオタクを今でも思い出すのね・・・ウッガッカ」とか言って切り出しては僕を馬鹿にするんである。


 だからmixiでマイミク申請が来ても、シカトしてやった。
 きっと足元ではせっせと靴下を直しているに違いない。
 触らぬ神に祟りなしである。





2016.11.8
前田恵祐

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