「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

忘れてはならない記憶・・・UCF10系トヨタ・セルシオ


https://www.favcars.com/photos-lexus-ls-400-ucf10-1989-94-373898


 毎週末の深夜に放送されるCGTVを見るのが子供の頃の楽しみだった。CGという雑誌そのものが外車志向だったということもあるが、このテレビ番組もまた同様の傾向で、取り扱われる車種の多くは外国車、それももっぱらヨーロッパ車が主で、それを視聴者だった僕は見たことのない自動車の本場の空気に画面を通して触れられる気がして好奇心がそそられたものだ。だから、この番組で国産車が取り上げられるケースというのは、この頃はなおのこと少なかった。


 1989年の秋だったと思う。いつものようにブラウン管にはヨーロッパ車が映し出されている。それもメルセデスの420とBMWの735という、誰もが高級乗用車の雄と認める二台が、アウトバーンのパッシングレーンを矢のような速度で直進する姿をカメラは捉えている。路面の起伏をしなやかに吸収し、超高速度で走っていながら緩やかなピッチで屈伸運動をする、その高速度安定性というものが見ているだけでわかる。そして欧州の雄とともに同じピッチで、それ以上にどっしりとしたスタンスで追随する大型車の影。メルセデスとBMWはそのクルマが迫ると行く手を明け渡した・・・


 動いているレクサスLS400を初めて見た瞬間だった。


 番組作り的にはいつものようにスピード感があって美しい映像作りを目指した、その演出の一環に過ぎなかったのだと思うが、CGTVに国産車が映し出されるというのが珍しかったのもあり、僕にとっては実に衝撃的で、かつ象徴的なシーンに思えて、それから30年近く経った今でも強く脳裏に焼き付いている。それは、世界の強豪と肩を並べる本格的な高級乗用車が日本からいよいよデビューし、桧舞台へ打って出た瞬間に間違いなかったからである。


 当時中学生だった僕が長年日本車の労苦の歴史を追いかけてきたわけではなかったが、日本という国がいかに頑張って技術を磨き研鑽を重ね、歴史ある欧米を猛追して来たかは、なぜだか子供のくせに肌身で感じていたようなところがある。その結晶こそがレクサスLS400であり、トヨタ・セルシオのデビューと、このCGTVの登場回の記憶である。さらにいうなら、この時のレクサスLSはそれ単体の極めて高い完成度と設計思想において、見るものを納得させ、感動さえ呼び起こさせるに値する出来だったことも忘れてはならない。


 その点、後年のレクサスはこの時のレクサスではなくなってしまった。年を追うごとに電子デバイスによる補正技術とアクセサリーによる付加価値的な部分で勝負をしているようなところが多分にあり、初代のようなストイックさや崇高さのようなものはかなり影を潜めてしまったと言わざるを得ない。


 それは、すなわち日本人という人種そのものが、ストイックさや崇高さを忘れてしまったことと同調しているようにも思えてならないのだ。


 だから、僕はこのシーンを今でも忘れられない。忘れてはならないシーンだと思って胸に刻んでいる。





2017.5.30
前田恵祐

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