「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。 キミたちはもっと利口にならなければ、利口になろうと思わなければならない!

ランチア・テーマの話 -2-


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 1995年の夏は暑かった。カーセンサーの輸入車欄にはそれこそ光り輝く宝の山が手の届く金額で陳列されていたのだ。マツダが輸入したランチア・テーマのII型のおそらくやデモカーだった個体、あるいはまったく走行していない、とりあえず型落ちになる寸前に登録だけした新古車と思しき個体が220万円前後。ランチアブルーの車体に濃い目のブルーガラス、内装の手触りに優れていそうなファブリックや半艶仕上げのローズウッド。




 当時乗っていたMR2(初号機)プラス100万円を一つの目安にした。待てばテーマも安くなる。しかしMR2の下取りだって下がっていく。虎視眈々と、しかし充分にジレながらそのときを待つ。そして訪れた紅葉の季節。遂にテーマの価格は200万円を切った。そして明らかにタマ数も減少していくのがわかった。今だ。今しかない。






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 目黒区大橋にある某ショップに連絡。カーセンサー最新号発売を待ってもっとも新しく入庫したと思しき個体を見たい、買いたいと連絡をした。世田谷にある勤務先まで迎えに来てくれたセールス氏のメルセデスに乗り世田谷区内にあるファクトリーへ。なんとエンジンに火が入らないらしい。セルは回っているが。むろんこれは解決の上納車、他問題のある箇所は全て修理してきちんと走れる状態にして・・・。やはりイタ車はたいへんである。しかしこの程度ではへこたれない。待ちに待った、奥底から心酔できるヒト、モノを手に出来るとしたらそれはどんなに幸せなことか。


 修理が終わるのに1ヶ月。部品を本国発注して燃料ポンプやラインを全て新調した。むろんあのタイミングベルトも交換して。それでも表示価格のままで売ってくれたこと(今思えば当たり前)、下取りをかなり頑張ってくれたこともあったが、その前に自分にはこの個体しかないと思ってもいた。満年齢21歳。不相応に落ち着き払った大人のクルマを手にするのだった。


 ネロメタルの車体はいくぶんくすんでおり、それはこの個体が長らくメーカー在庫として放置されていた証でもあった。しかしそうでもなければこの走行50kmというほぼ新車という個体を今この自分が手に出来ようはずも無かったのだ。ヤワいというボディはまだ新車の為しゃっきりしており、足の伸び縮みもゆったり、まったり。それぞれの動作とその速度がゆったりとしており、それでいて凹凸をきれいにいなす反応の正確さも両立していた。身体はMR2の運動神経に慣らされていたが、そのせいもあってこの老練でさえあるテーマの身のこなしに心から感銘するのであった。



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 季節は冬。ヒーターを入れると甘い香りがした。そうか、これがイタ車の匂いというやつか。樹脂か接着剤か、ヒーターで温度が上がり揮発するその匂い。分厚いソファのようなシートに身を預け、ローズウッドの鈍い輝き、優しいトーンのファブリックとエンジンサウンド。スタイルにも惚れたが乗ってもまたいい。僕とテーマの7年数ヶ月はこうして始まっていくのだった。



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前田恵祐


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