「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。 キミたちはもっと利口にならなければ、利口になろうと思わなければならない!

ランチア・テーマの話 -3-


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 テーマは試作段階でリアサスペンションの形状を少なくとも二種類検討していたらしい。それは、姉妹車であるサーブ9000用のリジットかフィアット・ランチア独自のストラットである。乗った瞬間、ああこれはリジットでは出せない味だなと思った。その感想があのPF先生と同じであったことも実に喜ばしかった。PF先生はテーマの試作段階で操縦性の評価をランチアから依頼されていたという。あとで知ったことだ。


 僕は今CGTVを地上派で見るしかなくて、日曜の夜は東京MXTVにあわせHDDも回す。昨日はなんと1986年放映、ランチア・テーマの回の再放送だった。松任谷正隆さんの「イタリアの古い石畳の上ではこんなに滑らかなクルマもない」という旨の言葉にもご同慶の至りだ。実はCGTVは欠かさず見ていた自分だがそれは1990年からであって、松任谷さんや田辺さんのテーマ評は知らなかったのだが、おおむね良好で、これまた喜ばしかった。


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 当時、スタイルやデザイン、佇まいに惚れ込んだ自分だが、実は乗って見ると足の設えが非常に老練で、フラットで滑らかでありながらよく粘って食いつき、じつは山でも思い通りのラインで飛ばせるクルマでもあることにも感銘を受けた。


 それは先のリアサスペンションの選定が間違いでなかったどころか大正解であったことも大きいが、そのロアアームは先端から支点までの距離を大きく採ったものでジオメトリー変化が少なく追従性にすぐれているばかりか、よく煮詰められたバネやダンパーにより凹凸への反応も細やかで、例えば松任谷さんのいうように石畳のような路面でも常にフラットだし同時に無駄なピッチングもない。転じてハードコーナーリング中に出会った不整に対しても寛容でこれもさらりと受け流す。ステアリングは正確でフィードバックも充分だしブレーキもまたよく効く。サイズを感じさせず振り回すことさえ可能。まったく素晴らしい高級スポーツセダンだと思った。


 また、ボディは当時から剛性不足を指摘されていたが、これに関しても同感で、ただしテーマを擁護するならこの1300kg台前半という「軽さ」なくしてあの乗り心地と操縦性のバランスはなしえないはずで、それなら多少のユルさも我慢できると思った。あるいは、そのユルさもまた優れた乗り心地に寄与しているんではないかとさえ思えたのだ。


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 エンジンはデルタ・インテグラーレ16Vと同じ、というより、向こうがテーマと同じなのである。いずれにしてもデルタがラリーシーンで大活躍する姿はテーマ・ターボ・オーナーであった僕にとって密かな誇りだった。


 これの前に乗っていたトヨタMR2の3S-GTEもセリカGT-FOURに積まれてワールドラリーチャンピオンに。これも当然デルタでチャンピオン。チャンピオンエンジンを2台乗り継いだことになる。しかしランチアの2リッター16Vターボはトヨタのようにブンブン回って元気一杯というよりずっと上品で、声色もおとなしく、そして力の線も細かった。具体的には低速トルクは明らかに手薄で、そこへランチア特有のややハイギアードなマニュアルが重なって、街中での取り扱いには少々コツが必要で、シグナルグランプリは完全にあきらめなければならなかった。


 ところが舞台を高速や山岳路に移すと状況は変わってきて、中速域以降のターボbangはなかなか力強く、そのあたりからトップエンドまで、息の長く力強い加速を維持し続ける。忙しくギアチェンジするより道によってギアを選び、そして加速時にはややターボを「待つ」時間が必要。しかしその立ち上がりがなんとも魅惑的で、スムーズでありながら美しい線形を描きながら力が加わっていくのが理解できる。絶対的には他人より速くはないしコツもいるが、そんなことはどうでもいいと、ひとつハードルを乗り越えてしまえば無類のフィーリングをもった、高級車に相応しく、かつスポーティなユニットといえる。


 また、この味わいが最新のデルタ1.4ターボでも味わえたことが今になって懐かしい。CGTVで田辺さんが新型デルタに乗って「テーマ・ターボを思い出した」と語ったのもこのあたりにあるのだろう。


 ちなみに燃費は、高速で最高13.2km/L、街中で8km/L。


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 国産車から乗り換えると少し乗りづらいクルマだった。それは日本の交通事情に合っていない部分がいくつかあるということもそうなのだが、このクルマはドライバーがどのような操作をしてもきちんと走ってくれるというより、ある程度のスキルを要求しそれを満たさなければスムースに走行できないクルマだった。


 そのスキルとはいわゆる「速く走る」為のものではなく、例えばクラッチを素早くスムースに繋ぐスキルであったり、シフト操作の間合いや呼吸を計るスキルであったり、クルマと対話をしながらステアリングを切っていくスキルであったり、エンジンが気持ちよく仕事をするように、その線形に合わせるようにアクセリングするスキルであったりと、即ちクルマとのコミュニケーションスキルを言った。そしてそれらが会得されたときに初めてスムースに、思い通りに走れることはもちろん、同時にクルマの性質に相応しくエレガントに立ち振る舞うことができるようになる。しかもそれは乗員にとっても快適なことなのだ。


 つまり、「このように走りなさい」と、クルマに言われているようなものだった。


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前田恵祐


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