「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

【書評】’90年版 間違いだらけのクルマ選び


 一冊の本に出会ったとき、僕は必ずしも全てに共感したり感激したりしなくても良いと思っている。むしろたったの一文節、一行の言葉にでも、激しく説得力を帯びていたり、濃厚に著者の意図を言い表していたりすることのほうが大事だとさえ思って、日々他人様の書物に接している。


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 初めて自前で(当時15歳、小遣いで)「間違いだらけのクルマ選び」を購入したのは1989年の暮れのことだった。それまでは父が買って父が読み終わったものを「ホラよ」と与えられて読んでいたものだったが、この年に登場した日本車は、そのどれもが単体で非常にマブしい存在だったから、いち早く著者の言葉に触れておきたいと思わせたのだった。


 その実、90年版の「間違いだらけ」はそれらの登場を慶び、同時に、それでもまだ残る日本車特有のドメスティックな陰湿さを指摘しつつ、今後のさらなる日本車の発展に期待を馳せる、という内容で、概ね自分が抱いていた1989年の日本車に対する思いと合致していることに、読者として素直に喜べた。


 R32スカイライン、Z32フェアレディZ、ユーノス・ロードスター、セルシオ・・・例えば基本メカニズムにおいて近代日本車はこの年にその礎を築き上げたとさえ思う。これ以降、残念ながら日本は景気が後退し続け、その礎を大きく伸ばすというより、その遺産で食っているようなところはあるにしても、現代の日本車の基本構造の大元はこの年のクルマにあり、その延長線上に今があると僕は思う。その善し悪しは別として。


 それら車評の数々、それぞれにクルマのデキが輝いていたおかげもあって著者の論調もそれに呼応するように滑らかにほとばしっていた。その一点だけでも本書を手にするだけの値打ちは十二分にあると思う。


 しかし本書において僕にもっとも「響いた」言葉はじつは車評にはなかった。


 3ページめから始まる「はじめに」は、あまり車評とは関係がないから読み飛ばすことも多かったが、今回はなにせ「自前」で買っただけのことはあり、最初からきちんと目を通した。そしてそれが本書に対する、あるいは著者に対する認識の全てを決定する瞬間となりえた。著者はふだんから「ダンディズム」についてよく口にし、書き綴ってもいたが、本書「はじめに」における端的かつ正直な表現に、思春期の危い時期にあった僕は強く心を打たれ、かつ、その後今に至るまで影響されずにいることは難しかった。


 17行目。


「若いころからデブでぶ男だったからかもしれないが、”かっこいい”ことにあこがれて生きてきた」


 コンプレックスなどないほうがいい、フタをして生きていくしかない、若くしてそう固定観念化されていた僕にとって、著者のこの「告白」は十分以上に破壊力があったし、こうしてコンプレックスを告白し、自ら承認、ある意味肯定しながら、それでもダンディズム=美学に生きる、という”スタイル”を僕はとても”かっこいい”と思った。


 「間違いだらけ」は、じつは毎年読み込んでいくと、こと車評に関してはけっこう一貫性がなかったりして、そのことを指摘する人もいる。僕自身、あるときから「もうこの本は車評としての教科書にはならない」と思って見切っていたところもある(注:彼の言うことを一つのモノサシとして、自分で考え、結論を持てばいい、ということを僕は学んだつもりです)。しかしながら、僕は今もって著者の大ファンであるし、おおいにリスペクトしてもいる。


 著者の言葉には、若いころからコンプレックスを抱え、必ずしも順風満帆ではなかった・・・どころか大変な苦難、苦杯を舐めながら身をよじるようにして自らの人生と対峙しつづけてきたことの裏付けが、深くにじみ出ているように思えたものだ。


 俗に「含蓄がある」という言葉を使われることもあるかもしれないが、著者の言葉は、たとえ車評としてややフラフラな面があったとしても、人生の大先輩として、たいへん説得力のある「人生訓」が随所に散りばめられていて、僕は時に「哲学書」を読むような思いで「間違いだらけ」に接して来たような、今はそんな気がしている。


 「苦労は財産」とは、彼は言わなかったが、様々な経験が人生の「味わい」をより濃厚なものにさせることを、彼の活字の「行間」は語りかけてくる。その意味では彼のどの作品もそれぞれに「味わい深い」が、その中でも僕にとっての一つのターニングポイントになった「’90年版 間違いだらけのクルマ選び」のことを書かずにはおれなかったわけである。あれから25年がたとうとしているが、あの時、この本、あの一文に出会えたことは僕の人生の大事な財産となった。











前田恵祐


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