「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

【CD評】Colour 今井美樹 2015




 今井美樹は初期作品、佐藤準氏がアレンジャーだったころまでの作品に限ると思っていた。その理由は諸々思いつくのだが、ひとつにアイドルソングと彼女が元来持っている「音楽性」との狭間で逡巡している様子が、そこはかとなく伝わってくる、そんな一種の危うさのようなものだったのかもしれない。あの頃の今井美樹は線が細く、どこか自信なさげだった。そんなところが、ただただ商業音楽に甘んじているほかのアイドルとは異質で濃厚なアピールに感じられて強く惹かれたのだと思う。


「まっすぐな道を自ら蛇行して歩んだ」
「たまには変化球を投げてくれる人がいないと視野が広がらない」
「もしも 時さえ戻せてもまた 変わらない日々 私は選んだでしょう」


 このアルバムの発売に合わせたプロモーションで彼女が来日し取材を受けた時のコメントや、このアルバムの曲の歌詞の中からアトランダムに選んだ今の今井美樹の生の言葉である。あの頃の二十代の、ある種苦しみながら歌っていた彼女を知ればこそ、なんと力強くその後の人生を生き抜いてきたかが、また彼女自身があの頃をきわめて愛おしく感じながら今があるという様子がこうした言葉から見て取れる。ここに挙げた三つだけではない。


 1991年に発表した「ピースオブマイウィッシュ」という曲がある。この曲は今井美樹本人さえ「重たい」と思っている曲で、当時の彼女の葛藤が全面的に投影された非常にズシリと来る、それでいて、悩みもがきながら生きている人間という愛おしい動物への強いエールが込められた、語弊を恐れずに言うなら、きわめてソウルフルな一作。当時、バブル期でモノにまみれ、「心」の存在が希薄になっていく中、それでも人々はそれに抵抗していたのだと思う。「ピースオブマイウィッシュ」は大ヒットした。


 当時、僕も人生をどう歩むべきか、どこに向かうべきかを激しく悩んでいた時期と重なっていた。美しい容姿、美しい歌声、美しいメロディ、美しい詩の世界に魅了されて今井美樹を買っていた僕はこの曲にも触れる事になる。


「諦めないで 全てが崩れそうになっても 信じていて あなたのことを」


 という力強いエールに激励されたような心地になって何度も前向きな力を得ることができた。その意味で僕にとって今井美樹と「ピースオブマイウィッシュ」は動かしがたい存在にすでになっていた。しかしそれから25年という時を経て今年、偶然にもその頃から続けてきた仕事の「クローズ」を受け持った時に「今までの全てが、何も間違ってはいなかったのだ」という境地に達することができ、とても感動的な出来事に出くわすことになる。そんな時に思い出されたのが「ピースオブマイウィッシュ」のこのフレーズ。


「だけど最後の答えは一人で見つけるのね」


 僕は「ピースオブマイウィッシュ」という曲の別の意味をこの時はじめて理解したのだと思う。迷いながら、薄氷を踏む心地で自分で生きてきた。その時々に「答えを一人で」見つけてここまでやってきた。その答えが正しかったのかどうなのかと、ずっとドアをノックし続けてきた。それでもなしのつぶてで誰も何も答えてはくれなかった。しかし「答えを一人で見つける」の意味は、その理由はこの時のためにあったのだと、わかる時がくる。25年というタイミラグをもって二度目の感動の波を寄越してくる曲など滅多にない。


 今井美樹の最新アルバム、この「Colour」は、あの頃を共に過ごした世代、あの頃共感してくれた、悩みながら、もがきながら生きてきた彼女と同世代のファンに宛てた「暑中見舞い」のようなものだ。


 今も変わらぬメッセージ性を持ち、強く生きることの素晴らしさを美麗な楽曲や詩の世界、もちろん相変わらずの美貌とともに届けてくれるこの「Colour」というアルバムは、今井美樹30周年という節目のタイミングとしてじつにタイムリーで、そして彼女の古い、そして長いファンにとってはひとつの感慨を与えてくれる素晴らしい作品に仕上がっていると思う。どことなくあの頃彼女がこだわっていたジャジーな曲調、ご主人と組まれるようになってからのものとしては異例なほど「ロック」を感じさせない爽やかな耳ざわりなど、じつに懐かしい感覚をよこしてくれる。


 人間とは迷う生き物。迷い悩み、もがきながら、それでも向き合い強く生きることの素晴らしさを彼女は言いたいのだと思う。そしてきっとそれはこれからも変わらないし、彼女自身も死ぬまでその生き方を貫くであろう。



 今井美樹。やっぱり魅力的な女性だ。
 あの頃の僕の目にも、狂いはなかったというわけだ。











2015.8.21
前田恵祐
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