「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。 キミたちはもっと利口にならなければ、利口になろうと思わなければならない!

#160 ともあれ、頬はほころぶ


 ホンダ S660 アルファ 6段マニュアル 試乗インプレッション (2015.5)



~ 試乗記の読み方 ~

 この試乗記は筆者による個人的な印象記に過ぎず、ここに記された内容は必ずしも読者が実車から抱く感想と一致しない場合があります。人間にはそうした個人差、個体差があるものなのです。それが俗に言う個性であり多様性と言い換えてもいい。故にこの試乗記を鵜呑みにしてはいけません。車両購入の際には必ず購入者自ら実車に触れて検証と確認を怠らず、購入者が主体性を持って車種選定の判断を行うことが原則です。したがって・・・

買うときには自分で試乗して確かめる
筆者の言うことに左右されない
自分がいいと思ったものを購入する

・・・これらのことは最低限です。当たり前のことですが、それができない人が多いようです。この試乗記は指示書でも教科書でもバイヤーズガイドでもなく、購入者に試乗の手間を省かせる目的のものではありません。だとしたら何者であるかというと、クルマを「検証する手法」の提示をしているに過ぎません。しかし、その検証の手法、いわゆるモノサシというものがかなりブレているのが今の世の中、今のユーザーのように筆者には見受けられます。そこで、「私ならこのように確かめる」という意味合いでこのような記事の掲出を行っているもの、とご認識いただきたいと思う次第です。


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 1988年生まれの若者がこのクルマの取りまとめをやったという。ホンダではLPL(=ラージプロジェクトリーダー)という。キミはビートというクルマを知っているのかね、四十過ぎの中年はそうしたバイアスをもって彼とこのクルマを見てしまう。カタチだけは昔のイメージでその実中身は・・・というクルマは世の中に吐き捨てるほどあり、その都度ガッカリさせられてもきた。偉大なる先代のもとに作られるリメイク版というのは期待値も大きいし、いろんな意味で、作り手にとっては逆風であることも少なくないはずだ。



 エクステリア



 率直にいって、このデザインはビートの域を出ていないし、ビートを越えようともしていない。現代のレギュレーションや流行りを取り入れた、それなりに古臭くないものには成りおおせてはいるものの、ビートが出た時の驚嘆はない・・・と、私のような者にそういう言い方をされてしまうのだから本当に不遇ではある。




 小さい身体にミッドシップマウントするエンジンゆえ後方がややふくよかになってしまう。これは構造上しかたのないところだが、そこは頑張って造形をやり、シャープさを演出できている。トップはいわゆるタルガタイプで屋根そのものは折り畳んでフロントトランクに収めるソフトトップ。剛性面、安全面からロールオーバーバーを残すことを選択したのだろう。




 センター出しマフラーや二つコブのエンジンフードなど、ちっちゃいくせにスポーツカーしてやがる。強大なエンジンパワーや圧倒的なスピード、あるいは頭や理屈を満足させるスペックやゴタクではなく、爽やかでこじんまりと可愛らしいスポーツカーは、やはり理屈抜きで愛されるキャラクターだ。街中の走行中、撮影で停めてある間の注目度は抜群に高かった。それだけでもこのクルマには存在する理由がある。



 運転環境



 ハンドルは手動のチルトのみで下端をカットしてあるが、その必要はないくらいルーミーなキャビン。ペダル配置も自然だし、ハンドル、シフトなどの配置もほぼ理想的なスポーツカー。そのシフトレバーは決して短くはないが、節度感もあって小気味よい操作が可能。駐車ブレーキレバーは助手席側にオフセットしてあるが、これを操作するときにパッセンジャーのフトモモに触れることになる。いろんな意味でイイ気遣い(?!)。パワーウインドウは両側とも非ワンタッチで背後のウインドウも電動で操作できる。サイドミラーはもう少し縦の寸法が欲しい。オプションのモニターを付けてもナビはなく、スマホと連動させて初めてナビ機能を持つ。オーディオもラジオのみで、あとはCDではなく携帯プレーヤーやUSBオーディオ。コペンもこのあたり苦慮していた記憶があるが、ホンダはある意味潔くDINサイズを諦めつつ、そしてじつにスマートに機能を盛り込んだ。いまだガラケーの僕オジサンはちょっとついていけてませんが。




 フロントガラスはコペンよりやや天地に短い感じではあるものの角度は立ち気味。Aピラーの太さはあまり気にならず、黒に塗ってある上、形状も良いからフロントガラスに映り込みにくい。




 後方目視視界は、エンジンフードのコブが邪魔で、無きものと思うべし。サイドミラーも上述のとおり十全ではないから、後方視界にシビアな人にはちょっと気になるかも。ちなみにこの真ん中のガラスが電動で開きます。トップをかけた状態でも左右後ろのガラスを下げて走るのは、それだけでも気持ちいいだろう。



 インテリア・ラゲッジ



 ダッシュボードやコンソールは、まだ常識の範囲というデザイン。もっと簡素化してもいいと思う。いろんなものをかなぐり捨てる潔さもまたスポーティというもの。左右の座席の色を変えたりするオプションもあるが、原則としてこの黒系。もっとポップな色合いが、例えばシートだけでも選べたらいいのに。




 運転席シートはスライドとリクライニングだけの調整だが、ヒップポイントは低くバックレストの掘りも深め、そして総じてサイズも大きめとあって着座感は軽自動車のレベルを超越した充足感。ただし、サイドシルは高めでドアの見切りが手前寄りのため乗降時につま先を内装に擦りつけることになるだろう。また、こうしたクルマの宿命で、シートのサイドサポートはかなり擦れるはずなのでヤレは覚悟したほうがいい。中古車で買うときにはここの状態で元オーナーの配慮を推し量ることができる。

・前席頭上空間/未調査




 この画像はフロント・トランク。いちおうあるが、トップを収納するとそれ以上は不可能だし、そもそもラジエータ直後に位置するためおおいに熱せられる・・・無きものと思うべし。



 エンジン・トランスミッション



 既存のエンジンをこのクルマのためにチューン、というより、フィーリング面をスポーツカーに相応しいものに改良。N-BOXなどでもこのシリーズのエンジンに素性の良さを感じていたから悪いものにはならないだろうとは思っていた。


 で、乗ってみればじつに素晴らしい。ボトムエンドの柔軟性はアイドリングでクラッチを繋ぐような操作を許し、渋滞時などでも、例えば35Km/hも出ていれば5速に入れアイドリングでトコトコ走れる。いやいや、そんなことではない。少しでも前方が空けばこのエンジンはすぐに本性を示す。低めのギアレシオは高回転を常用させ、またその領域におけるエンジンの反応がじつにシャープ。同時に澄んだ音を発しながら一気に昇りつめ、あっという間にレッドゾーンに達するのを見て取って素早く短いシフトとクラッチの操作を繰り返しながらリズミカルに走る、この小気味よさ、エンジンの鼓動とともに胸高鳴る一体感。


 試乗中、頬が綻びっぱなしだった。なんていいんだ。なんて幸せなんだ。こんな気持ちにさせてくれるクルマはなかなかない。このエンジンとマニュアルミッションだけでも購入の大きな理由になるだろう。ホンダエンジンここにあり。




 私の試乗中の燃費ではなく、これは生涯燃費の値だが、13.0Km/L。試乗で街中を行き来しつつ、スポーツカーだからとブン回して走られたりもしつつこの燃費だから悪くないと思う。指定燃料はレギュラー。




 足廻り



 ボディ構造や剛性関連のチューニングなどは「頑張った」と思う。それはこの車重とエンジンパワーと、そしてミッドシップという構造上剛性の取りにくいボディをどこまでダイエットしながら強度や剛性感を高めるか、という、ある種究極的なテーマに向き合った痕跡が、乗り味から伺い知れる。


 まず、これはタイアとの相性もおおいに関わってくるところではあるが、微小突起や振動の減衰ははっきりと分が悪い。また、ねじれ剛性も現代のクルマ、あるいはスポーツカーとして十全とは言えない。が、極度に悪いわけではない。踏みとどまっている。


 曲がりにおいてはタイアのグリップとステアリングギアレシオによるクイックさの演出がはっきり感じられる。アジャイルハンドリングアシストというコーナーリング中の内輪にブレーキをかけ旋回を助ける装置も備えるが、もっとナチュラルに、クルマ全体がしなやかに反応するような挙動が欲しい。アーム長の長い独立式リアサスペンションや専用タイアなど、材料は揃えられているが、全体の調律は、まだやれる余地が残っていると思う。


 ただ、ステアリングホイールを通じて伝わってくるインフォメーションの豊かさや繊細さ、ブレーキの確実なペダルタッチ、エンジンマウントの丁寧なチューニングによるパワーパックの動揺の少なさなど、いつもなら手を抜いてしまうようなところをキッチリとやってある。決して弛緩した精神で作り上げられたクルマではない。




 結論

 ビートの時代とは異なり、今回はオートマチック(CVT)も用意されている。確実に顧客層を拡げることだろう。なんといってもスタイルがキュートで爽やかなイメージ、カッコつけだがそれもサマになっている。ましてマニュアルで乗る運転好きにとって、あのエンジン・トランスミッションがもたらす「幸せな時間」を手に出来ることはこの上ない喜びになるはずだ。その意味でS660はビートの正統な後継者といって差し支えないと思う・・・






・・・ビートを知らない世代の人間が、ビートの後継者を作った。それはしかし本当だろうか。敢えてもう一度言うが、このクルマはビートの範疇を一歩も出ていない。それは現代的な性能やデザイン造形、安全、メカニズムなどは得ているものの、考え方や思想においては従前の踏襲でしかない。内容は確かに良いし、このクラスのスポーツカーとしてライバルより大きくリードした存在なのも認める。しかしそれも常識的で想像を超えたものではない。


 私は、このクルマがホンダを代表するクルマになることに異論はないしそれだけの材料もあると思うが、ホンダイズムの核となるべき「クリエイト」が抜け落ちていることを指摘しておきたい。ただのリメイクでは物足りないのだ。エンジンを中心として、とてもいいクルマだが、まだまだ、あとひと捻りもふた捻りも欲しかった。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 8
デザイン >>> 8
エンジン・トランスミッション >>> 10
音・振動の処理 >>> 8
走りの調律度 >>> 7
運転環境と室内空間 >>> 7
ヒトへの優しさ度 >>> 6
卓見度 >>> 7
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 6





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 試乗データ

試乗日:2015年5月15日
試乗車:ホンダ S660 アルファ
車輌本体価格:2,180,000円(OP含まず)
型式:DBA-JW5
エンジン:658cc直列3気筒DOHCインタークーラー付きターボ(S07A)
トランスミッション:3ペダル6段マニュアル
駆動方式:MR
全長×全幅×全高:3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車輌重量:830kg
最小回転半径:4.8m
タイア:前165/55R15 75V/後195/45R16 80W(ヨコハマ・アドバン・ネオバAD08R)
JC08モード燃費:21.2km/L
燃料タンク容量:25L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:2ドア2シーター・タルガトップ
ボディ色:カーニバルイエロー2
内装色/素材:ブラック/革+ラックス スェード
装着されていたオプション:
     センターディスプレイ(internavi POCKET連携対応)
     シティブレーキアクティブシステム
               (低速域衝突軽減ブレーキ+誤発進抑制機能)
     フロアマット






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 メーカーサイト

http://www.honda.co.jp/S660/





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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに「正解」を示しているつもりは全くありません。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。









前田恵祐
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