「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

#171 指揮者不在のオーケストラ


 トヨタ クラウン 2.0アスリートS-T 試乗インプレッション(2015.10)



~ 試乗記の読み方 ~

 この試乗記は筆者による個人的な印象記に過ぎず、ここに記された内容は必ずしも読者が実車から抱く感想と一致しない場合があります。人間にはそうした個人差、個体差があるものなのです。それが俗に言う個性であり多様性と言い換えてもいい。故にこの試乗記を鵜呑みにしてはいけません。車両購入の際には必ず購入者自ら実車に触れて検証と確認を怠らず、購入者が主体性を持って車種選定の判断を行うことが原則です。したがって・・・

買うときには自分で試乗して確かめる
筆者の言うことに左右されない
自分がいいと思ったものを購入する

・・・これらのことは最低限です。当たり前のことですが、それができない人が多いようです。この試乗記は指示書でも教科書でもバイヤーズガイドでもなく、購入者に試乗の手間を省かせる目的のものではありません。だとしたら何者であるかというと、クルマを「検証する手法」の提示をしているに過ぎません。しかし、その検証の手法、いわゆるモノサシというものがかなりブレているのが今の世の中、今のユーザーのように筆者には見受けられます。そこで、「私ならこのように確かめる」という意味合いでこのような記事の掲出を行っているもの、とご認識いただきたいと思う次第です。


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 現行型クラウンではまずデビュー時に2.5リッター4気筒エンジンにハイブリッドを組み合わせた仕様をラインナップ。そして今回のマイナーチェンジでは2リッター4気筒直噴ターボエンジンを搭載して、さらにダウンサイジング、「脱・6気筒」を推し進めてきた。燃費のために6気筒エンジンはロスが大きい、エンジンそのものの容積を小さくすることと効率的に力を取り出すためのターボ加給というのはここ10年以上、自動車技術のトレンドである。トヨタは、オーリスを除くメジャーなモデルとして、まずこの代表的なクラウンからダウンサイジングを始めてきた。


 エクステリア



 イナズマ型のグリルにはもう慣れてしまって、まあこういうもんなんだな、という思いしかない。感心するようなアイデアでもなく、ただ初めのうちだけ目を惹いた飛び道具に過ぎなかった。




 全長は約4.9メートル。全幅1.8メートル。日本のための寸法とカタログでは歌っているがやはりこのサイズではやや不便を感じることもあるのではないだろうか。これより大きなラージサルーンはいくらでもあって、それはたしかに比較的日本的、というところかもしれないが、大威張りできるほどの「良心的」な寸法ではない。




 大事なのはクラウンとしての説得力。クラウンでござい、という押し出しが大事なのであって、そしてそれは時代や要求によって異なるから、デザインセンスも一気に世俗的なものになっていかなければならなくなる。クラウンとして一本筋が通っているというよりも、今の世の中で「クラウン」として認められるかどうか、という、どこか「自分不在」なテーマになっているように思う。



 運転環境



 ハンドルはチルト、テレスコピックとも電動。シートはオールパワー。駐車ブレーキは足踏み式で解除は二度踏み。パワーウインドウは全席ワンタッチ。ハンドルの径は現代としてはやや大きめに採られていて、さらにグリップがもう一歩細ければ繊細なタッチが得られたのに。エアコンと車両設定をファンクションで切り替えるスマホ式の操作系は従来通り。エアコンもオートにしてしまえば、それに車両設定もそんなに頻繁に確認するものではないとするならこれでもいいのかもしれない。しかし、「押した手応え」がないという意味で自動車向きではない操作系であることは言うまでもない。




 パワーシートスイッチなどまごつきようがない。ブレーキペダルはややサイズが小さいような気がする。ペダル配置や高低差などに違和感は特にない。ドアの見切りやドア内張りがあまりせり出しておらず、つま先をあまり気にせず乗り降りできる。




 Aピラー方向の視界。Aピラーは昨今のトヨタの政策により目立たない細さ、角度形状をもつ。若干フロントガラスに写し込むがこれは許容範囲。フロントガラスもやや立ち気味で圧迫感もあまりない。ドアミラーの位置はもう少し前方にあったほうがよく、さらにダイエットし、もっというなら鏡面は綺麗に四角型をしていたほうがより視界を確保しうる。




 Cピラー方向の実視界。Cピラーは太めだが、肉厚は削られており視野そのものはすっきりとしている。目視確認派にもこれなら厭味を感じにくいだろう。



 インテリア・ラゲッジ



 見やすいし機能的には大きく不満はないが、しかしクラウンとしてはどうなのだろう。例えば高級乗用車としての上品さだったり、奥ゆかしさのようなものを、このインテリアは表現できているのだろうか。イマイチ底が浅い。こうなってしまう一因として、個人的にこのクルマに対する「裁定者」の不在があると思う。高級車、あるいは歴史あるクラウンというブランドにおいて、ただただマーケットリサーチを元にクルマ作りを進めるのではなく、一定の見識を持った者が指導監督していくという要素が不足しているのではないか。合議制で作った、他のブランドとそう大差のないインテリアに感じる。




 ザックリとした印象のファブリックシートは滑りにくさやホールド性もバランスよく、いたって快適。サイズもおおぶりで全体的に優しく、そしてしっかりと身体を支えてくれる。昨今のトヨタ車のシートはおしなべて出来がいい。
 
・前席頭上空間/こぶし1つ半




 レッグルーム、ヘッドルーム、ショルダー、その他スクエアに採寸されて余裕のある後席。適度な包まれ感、適度な開放感、これらバランスも歴代最良。唯一、前席の下につま先が入りにくいという点が惜しまれるものの、ヘッドレストの調整幅も十分だし、バックレストの角度もいい。我慢の少ないリアシートだと思う。

・後席頭上空間/こぶし1つ
・後席膝前空間/こぶし2つ



 トランクのヒンジはパンタグラフ式。スペースもスクエアに掘り進められていて効率的に使用できる使い勝手の良いトランクになっていると思う。



 エンジン・トランスミッション



 2リッター直噴ターボ、8AR-FTS型エンジン。横置き仕様をレクサスNXで試しているが今回はFR用縦置き配置。とは言っても基本的な性格は不変で、低速域から蜜のように濃厚なトルクを発し、細かく区切った8段ATが効率的に、そして余裕をもってスピードに乗せていくという仕事ぶりも、もはや熟れた仕草だ。回転のシャープさや切れ味の良さは6気筒に適うまいが、トルクを利して粛々と、そして気が付けばスピードに乗っているというイージーなまったりドライブに適す。が、ときに瞬発力だって十分以上。


 よく、大排気量NAのような...という表現を用いられるが、それは正しくないと思う。あくまでもエンジンの容量、容積は2000ccであり、稼働運動部分の質量の軽さは感じられる。その意味で雑味が少なくなめらかでフリクションも少ない。それでいて、効率的にかつ緻密にコントロールされたターボ加給によりトルクの厚みが増強されている、というのが正しい表現になると思う。だから、何何のような、というより、この種のエンジンにはこの種のエンジンなりの味わいがあると思ったほうがいい。




 100%市街地を走行しての試乗中の燃費は5.7Km/Lの表示。ただしこれは、走行前に燃費計をリセットしなかったのでこの個体の生涯燃費に近い値と思っていただきたい。試乗車とあってエンジンをかけたり止めたり、走ってもちょっとした距離に留まるわけで、この値は仕方がない。普通に走って10Km/Lは行くとのこと。



 足廻り



 17インチ55%偏平のミシュランを履くアシ。ただしその味付けはあくまでも安定志向。ハンドルのレスポンスもほどほどで安楽にまっすぐ走ることを旨とし、路面とのアタリもごくマイルドで優しい。むろんノイズやバイブレーションの抑制は完璧で、時々ミシュランがゴロゴロする感じがないでもないが、それでも優秀。


 今回のマイナーチェンジでは90箇所のスポット打点増設や構造用接着剤を用いるなどして、車体側の強化を行っているというが、その成果は市街地で走るかぎり目立ったものには感じられなかった。むしろ、サスペンションアームの短さに起因する細かな上下動や十全とは言えないハーシュネスの処理など、従来のトヨタ車が抱えるコストやスペース効率を重視するがゆえにシワ寄せが行ってしまうサスペンションの構造的な限界をいまだクリアできていない事の方が気になった。


 もっと本格的に快適で自然なフィーリングの足廻りを求めるなら、あのサスペンションアームの長さでは明らかに不足している。特にリアにおいては、アシをゆったりと綺麗にストロークさせることが安定性やフラットライドの肝になっていくわけで、それをいかに高名な形式のサスペンションを名目上用いたところで抜本解決にはならない。歴史あるダブルウイッシュボーンを採用しました、と言われても、あのアームの短さじゃあなあ、となってしまう。ストラットでも長いストロークを採ればいいアシは作れる。サスは形式じゃない。



 結論

 現行型クラウンでどうにも気になっているのはその「底の浅さ」だ。今年で60歳にもなる立派なおクルマなのに、どうにもその風格や威厳、あるいは品位のようなものが感じられない。どうしてなのか。それはやはり先にも書いたように「裁定者」不在にあると思う。クラウンはあるときからどうでもいい他の車と同じになってしまった。それはつまり、マーケットリサーチと合議制によってクルマ作りを推し進めるというものであり、高級車に必要な「指揮命令」とか「監督」、「プロデュース」といった指導者による意思統一が不在なのだと思う。だからクラウンはクラウンのようなカタチはしているが、どうも薄っぺらい。それは他の量産車と同じ作り方をしているからだと思う。こういうクルマには偉い人、「指揮者」のような人が上に立たないとダメなのだ。






 ゆえに、せっかくの新エンジンを意欲的に採用してきても、「ああ、流行りに乗っただけね」というような感覚でしか見られない。クラウンという歴史あるブランドから最新の技術水準を与えていくという見識に間違いはないが、今、クラウンというクルマそのものが以前よりはるかにフヤケているから、どうにもブランドとしてのありがたみが薄い。新エンジンとの相乗効果や化学変化のようなものも起こりにくい。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 7
デザイン >>> 7
エンジン・トランスミッション >>> 9
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律度 >>> 7
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ度 >>> 8
卓見度 >>> 7
完成度 >>> 7
バリューフォーマネー >>> 7






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 試乗データ

試乗日:2015年10月26日
試乗車:トヨタ クラウン 2.0アスリートS-T
車輌本体価格:4,500,000円
型式:DBA-ARS210-AEZXZ
エンジン:1998cc 水冷直列4気筒直噴ターボ [8AR-FTS]
トランスミッション:トルコン式8段オートマチック [8 Super ECT]
駆動方式:FR
全長×全幅×全高:4895×1800×1450mm
ホイールベース:2850mm
車輌重量:1610kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前後215/55R17 94V  [ミシュラン・プライマシーLC]
JC08モード燃費:13.4Km/L
燃料タンク容量:65L(無鉛プレミアムガソリン)
ボディタイプ:4ドア/5人乗りノッチバックセダン
ボディ色:シルバーメタリック<1F7>
内装色/素材:ブラック/ファブリック
装着されていたオプション:
     T-CONNECT DCM(115,560円)
     ITSスポット対応DSRCユニット(ETC機能付き)(16,200円)
     クリアランスソナー&バックソナー(43,200円)
     アドバンストパッケージ(64,800円)
     フロアマット(61,714円)
     





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 メーカーサイト


http://toyota.jp/crownathlete/








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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」を見つけるのはあなた自身の仕事です。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。






2015.10.26
前田恵祐

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