「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。

#175 スポーツカーというより戦車


日産GT-R 試乗インプレッション (2016.1)


~ 試乗記の読み方 ~

 この試乗記は筆者による個人的な印象記に過ぎず、ここに記された内容は必ずしも読者が実車から抱く感想と一致しない場合があります。人間にはそうした個人差、個体差があるものなのです。それが俗に言う個性であり多様性と言い換えてもいい。故にこの試乗記を鵜呑みにしてはいけません。車両購入の際には必ず購入者自ら実車に触れて検証と確認を怠らず、購入者が主体性を持って車種選定の判断を行うことが原則です。したがって・・・

買うときには自分で試乗して確かめる
筆者の言うことに左右されない
自分がいいと思ったものを購入する

・・・これらのことは最低限です。当たり前のことですが、それができない人が多いようです。この試乗記は指示書でも教科書でもバイヤーズガイドでもなく、購入者に試乗の手間を省かせる目的のものではありません。だとしたら何者であるかというと、クルマを「検証する手法」の提示をしているに過ぎません。しかし、その検証の手法、いわゆるモノサシというものがかなりブレているのが今の世の中、今のユーザーのように筆者には見受けられます。そこで、「私ならこのように確かめる」という意味合いでこのような記事の掲出を行っているもの、とご認識いただきたいと思う次第です。


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 個人的にこういうクルマは世の中には必要ないと思っている。だから興味はあったが食わず嫌いで試すということはしてこなかった。でも、一度くらいは味見してみたいなあと思っていた。思っていたら、横浜の日産本社ギャラリーで試乗することができると聞いて、ちょっと前のことですが1月にF31レパードが展示されたのを見物するついでに、ちょっと乗せてもらってきた。そもそもふつうのディーラーさんで試乗車を用意していることはないからこんな機会がなければ。


 買う気はないけれど、でも乗ってみたいという気持ちが募っている客向けのサービスというわけか。しかしGT-Rもこうしてプロモーションしなければならない側面もある。webカタログだけでは伝えきれないものがあるだろう。この本社ギャラリーでの試乗車でどれだけの新規開拓ができているのかはわからないが、一般道だけではあるけれど、それなりの距離をきちんと走らせてくれるあたり良心的ではあると思う。




 さらばあぶない刑事で登場する覆面パトカーと同じカラーリングのそれは、とはいえ毎日のように「試乗車」として稼働しているせいか、初めて乗るGT-Rだけど、それなりに草臥れているような印象を見て取れた。毎日毎日同じコースのヘビロテがくりかえされスーパーカーなのにちょっと可哀想だった。早くその「激務」から開放してあげたいと思った。だけど走らせてみればその印象はスーパーカー、スポーツカーというより、もっと男臭い、いわゆる日産らしい無骨な印象を伝えてくるクルマだった。


 たとえばハンドルのガッシリとした手応えだとか足廻りの剛性感の高さといったスポーツカーとして重要な要素は高次元で達成されているし全体的に硬くてゴツい乗り味は、インテリアデザインや車体サイズなどから来るイメージとも相まってまるで戦車みたいだ。戦車には乗ったことがないけれど。さらにそれを助長するのは走行音で、たとえばけっこう遠慮なしに室内に侵入を許すギアノイズとかバックラッシュ音など、その聞かせ方も各種調律されたものではなく、ありのままだ。スパルタン。戦車というよりレーシングカーの車載映像から聞こえてくる音がこんなだったと思い出した。


 市街地でもたしかに乗りやすい、というか普通に走ってくれるし思いのほかドライバビリティはいい。だけど、このクルマは戦うためのクルマなのであり、つまり公道を行くレーシングカーなのだと悟る。すくなくともそこを目指し、それがゴールであると強く意識しているクルマなのだろう。スポーツカーとか、ま、乗ったことはないけれどスーパーカー。そうした乗り物にはもっと美意識というものがあると思う。スタイリング、音、フィーリングなど乗り手に与えて来るものがもっと洗練されていて語弊を恐れずに言えば、美しい。しかしGT-Rは無骨すぎて、そういうクルマではない。


 ストイックに速さだけを追求している潔さはあるのかもしれない。でも、たとえばポルシェやフェラーリ、ランボルギーニと肩を並べるには、やはり「美意識」というものが必要なのではないか。そしてその美意識こそがある種の品格であり、スーパーカーとしての名刺がわりというか、パスポートのようなものなのではないかと思える。その意味でGT-Rはハッキリ格落ちということになると思う。


 こうした速くて高価なクルマを考えるとき、特に国産車においてはその目標を何処に置くかということが問題になる。絶大なるパフォーマンスを実現できはしても、いわゆる「無骨さ」でしか表現できていないことが多い。パフォーマンスが突き抜けたその先にある「甘美な領域」のようなところにイマイチ手が届いていない。GT-Rがもしその領域に達していたとしたら素晴らしいと思って搭乗したが、残念ながらそこには達していなかった。できるのにやっていないのだとしたら、あと100万高くなってもいいからそこは手を伸ばすべきだし、「理解していない」のだとしたら、単なる勉強不足だ。




 私は贅沢を言っている。しかし、GT-Rとは高価で贅沢なクルマではないか。速さで他を圧倒するなら情感に迫る印象の領域でも他を圧倒するものであってほしい。となれば、デザインからしてこのレベルであっていいはずはなくなるし、音や乗り味はよりスムーズで官能さえ与えるものになるはずだ。世界を見渡せばスーパーカーとしての条件はより高いレベルにあることに気が付ける。高価いのに洗練されていないのは納得できない。


 GT-Rに点数を与えるとしたら、私は50点を与えるだろう。もしかしたらより美しくて格好いいデザインのボディを架装してまた別のクルマを仕立てるのだとしたら、そのベースとしては、まあ優秀かもしれない。しかし、昨今では世界のスーパーカーでも取り入れられ始めている環境技術もこのGT-Rでははっきりと手薄だし、この環境分野についても一歩踏み出すような雰囲気すらない。


 速くて無骨というだけの単なる時代遅れ。これで良しとするのだとしたら目標が低すぎる。せっかくチャレンジするなら世界第一級のレベルを目指すべきだ。目標の低いスポーツマンを応援したくなるだろうか。そうした単純な観点からもう一度考え直したほうがいいんじゃなかろうか。そしてそれができないなら手を出さない方がずっといい。リーフやノートでも作っていればいい。日産自動車という会社が自らを示す商品なのだからより高みを目指して欲しいと思う。





2016.5.28
前田恵祐

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