「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。 キミたちはもっと利口にならなければ、利口になろうと思わなければならない!

さようなら、Y31


 1987年から生産の続いたY31型セドリックの、今はタクシー営業車がこの秋で終わることになった。このBLOGでも何度か触れてきたが、僕にとってY31は特別な存在。生産が終わる前に、もう一度Y31に乗っておこうと思って、というか飲み会の帰りにバスがなくなったためやむを得ずタクシーを利用した昨夜、5台ほど順番を譲って最新仕様のセドリックの後席の乗車してきたのだった。
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 過去、タクシー乗車の際にはことあるごとに「コンフォートとセドリック、どっちが好きですか」といったドライバーさんへの「取材」を欠かさなかった自分である。そのあたりの話を取りまとめるとこんな感じだ。


「広さで言えばコンフォート」

「お客さんの視点でいえばコンフォート」

「ハンドルを握るならセドリック」

「高速走行をするならセドリック」

「エンジン、トランスミッションが優れているのはセドリック」

「まああとは耐久性だけど、それはどっちもどっちかな・・・」


 そして昨夜のドライバーさんの「インプレッション」もおおむねそんなところだった。コンフォートは、言ってみれば後発組だから、タクシー専用車として求められる乗客目線でのコンセプトが際立っていて、たしかに後席からの視野は開けているし、頭上空間、左右の空間も明らかに広い。しかし、個人的には(まあ贔屓目もあると思ってください)、昭和の平屋的な空間作りのセドリックではあるものの、シートの出来、乗り心地と安定感と接地感のバランスではセドリックの勝ち、乗客として思う。


 とくに乗り心地のまろやかさと骨太ささえ感じさせる走りはセドリックならではだ。やはり27年という長期間生産が続けられてきたからこそ得られる「熟成感」であるし、それはさながら、つぎたしつぎたし伝統を守り続けてきた老舗鰻屋の秘伝のタレのようですらある。


 しかし、僕がセドリックを「よい」と思い続けているのは、そうした工業製品としての優位性ではなく、27年前、1987年当時、このクルマが生まれてきたその背景とプロセスがとても優れていると言う側面からだ。当時、というかY31がまだ開発段階にあった時期は、様々な事情から日産自動車という企業が管理主義に振り子が振れていた時期で、エンジニアや開発担当者は顧客より上司の顔を覗いながら仕事をしていた。そのために生み出されるクルマはどれもユーザーの心を打つことのない、ツマラナイものが多かった。


 そんな中でセドリック(/グロリア)のデザイナーであった若林昇氏は一度経営会議の承認を得たデザインを否定し、「自主的に」モデルを作り直してしまう。それはこれまでの常識や社内理論のワクの中で生み出したデザインへの反省があったからだ。一度経営会議で承認を得たモデルを作り直してしまうことは、企業組織の中では当然許されることではない。しかし・・・


「良くなったのなら大いに結構、これで行ってくれ」


 と、気風良く「反乱」を認め、GOサインを出したのは、つい先頃93歳で他界した、故・久米豊氏(当時日産自動車社長)であった。


 Y31にまつわるこうした逸話はじつは数多あるのだが、総じて言えるのは、官僚主義への反省と、その中で芽生えた改革マインド、そしてその改革マインドを承認し製品に反映して行こうと言う企業としての極めて前向きな姿勢がバックグラウンドにあったということだ。数々のブレークスルーや既存のルールを無視して生み出されてきたY31型セドリック(/グロリア)というクルマのプロセスを改めて見ると、今でもじつに爽快な気持ちにさせられる。


 そして、そのことは、そんな裏事情を知る由もない1987年Y31セドリック(/グロリア)発売当時、まだ中学校一年だった僕がこのクルマから受けた「変わろう、変えよう」とする目に見えない波動のようなものの裏づけであったし、当時、「管理主義」で古い常識を御仕着せしてくる「義務教育」を腹の底から拒否させたひとつの象徴でもあった。そして何度も言うけれど、僕の生き方はその瞬間からはっきりと変わり、そして今に至る人間、社会人としてのポリシーの原点でもある。


 クルマを好きになる理由は人それぞれで、様々な着眼点があることだろう。それはスタイリングかもしれないし、ハンドリングや乗り心地かもしれない。しかし「プロセス」と「マインド」という要素で僕に迫ってきたクルマはこのY31をおいて他にはない。それが、諸般の事情、紆余曲折を経ながらも27年という長寿モデルとなり、現役製品として生きながらえてきたことは、僕は素直に嬉しい。


 心から、でも心の中でひっそりと、永年の労をねぎらってやりたい。






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http://www.nissan.co.jp/CEDRIC/










前田恵祐


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