「新車試乗インプレッション」と「自動車批評」を主とするBLOGですが、ここに記されているレポートは鵜呑みにせず、ご自身で何事も検証してください。自己検証が大事だ、と言い続けたいブログなのです。 キミたちはもっと利口にならなければ、利口になろうと思わなければならない!

往復ビンタを喰らう営業の話し




 以前MR2に乗っていた時の話です。もう20年は経つSW20型をディーラーに持って行っている、という時点で僕はかなり奇特な人間だったのかもしれませんが、そのディーラーは家からも近いし、なにより昔中古車の営業をやっていたときからいい仕事をしてくれるディーラーだった。だから古いクルマでも信頼して預けることができていたわけですね。そして実際、僕の20年落ちのSW20は彼らトヨタ自動車の精鋭たちによって完璧に整備されていた。とても満足でした。


 しかし、ある時、僕の担当営業が他店移動になって担当者が変わってしまった。すると新しい担当となった彼は自分の名刺を渡し終わろうともしない”素早さ”でアクアのカタログと見積もりを差し出してきた。頼んでもいない、望んでもいない。僕は彼らのサービス工場を信頼してクルマを持ち込んでいる人間です。そもそもSW20を気に入って大事に乗っている、そういう客です。・・・で、あるということを前任者が引き継いでいなかった、というところにも大きな問題はあるけれど、これはちょっとヒドいと思った。


 気に入ってSW20に乗り、彼らの工場を信頼して預けている、という好意をとても大きく否定されたと僕は思った。もちろん、彼の理論というか、彼の仕事は新車を売ってトヨタ自動車に利益をもたらすことだから、それは新車を売りたい。けれどこちらにその気はないし、その気を確かめることもなくこういう「押し売り」みたいなことをやってくる。「コイツ、なに?」と思いながら、でも話しは聞くことにしたわけです。


「アクアは最新のハイブリッド車で燃費がいいですよ」
「カタチが可愛らしいですよ」
「僕は水色に乗っているんですよ」
「新しいクルマ、気持ちいいですよ」


 吹き出しそうになる営業トーク、というか、これは営業トークとは言わない。挙句・・・


「そうそう、JAFには入っておいたほうがいいですよ」


 で、このトーク、口角に泡を蓄えながら汗だくでやるわけです、彼は。とても必死なのはよくわかったし、売るという使命に燃えているのもよくわかった。だけど、クルマの営業なら、その客がどんな属性を持ち、どれくらい金をかけ、どのように維持管理を行い、どのようなコンディションのクルマに乗っているか、という分析をします。人となりというものをクルマという材料からプロファイリングしていく。そうして人としてどんな人なのかを理解把握した上で本格的に売り込んで行くわけですね。それ、全くなし、この人。


 この営業はとても売れなくてしょうがない営業なんだと思ったし、そもそも売れるだけのセンスもない、だから上司からは常に圧力をかけられている、とにかくすぐに結果が欲しいのだという悪循環に陥っている、逆に客として僕は彼をそうプロファイリングをする。


 例えば、片思いの女性に、いきなり「僕と寝てください」は無いわけです。いろいろ話をして、お互いを知って、「悪くないな」くらいのフィーリングをお互いに認めて、それじゃあ、というふうになっていく。これがきわめて円満な男女関係ですよね。


 まあ、ナンパみたいな感じで行きずりの関係になることもあるだろうけれど、本当に良い付き合いをするには、レンジでチンするように関係は持てない。じっくりコトコト、をやる覚悟がないと。「口説く」という言葉も、なんだか「セックスありき」で僕は気に入らない。コミュニケーションとして自己中心的な気がとてもする。営業マンの「上司からの圧力」とか「ノルマ」は、「性欲」に置き換えるとわかりやすい。こと営業マンと相対すると営業マンは男性で、客は女性、という構図になっていくように思う。


 本当にデキる営業は時間や手間を惜しまないし、話もうまい。その場で結果が出ないことを恐れてもいない。むしろ今がダメなら次の一手を考えている。悟られないようにね。「今日は帰さないぞ」は、女性も、客も、イヤがる。それわかっているから帰られることを想定しているし、その時の対処も心得ている上に、実際その次の機会を確実に獲得もする。それがデキる(あるいはモテる)男、デキる営業。


 女性のセールスに何度か当たったこともあるけれど、彼女らはその意味でとても上品で繊細、高いコミュニケーションスキルを持って営業活動をする。とてもしなやかで、アンテナも鋭いし、ある意味客の心理に敏感です。クルマのセールスは女性の方が向いているかもしれない。相手が女性であるというだけで馬鹿な男どもはディーラーに足を運ぶようになるし、そんな馬鹿な男どもを彼女らは手のひらの上で転がすようにあしらうだろう。成果も出すと思いますよ、きっと。もっと女性を採用したらいい。まあ、上手く彼女らを使えるだけの管理職がどれだけクルマ屋にいるのか、という問題はあるにせよ。


 クルマに限らず、客前に出て緊張しながらもきちんとした、しかも時間をしっかりとかけたコミュニケーションが取れない男というのは、絶対に売れないし、同時にモテない、断言してもいい。数字や成果やノルマのことしか頭になくて、客のことが目にも入っていない。そういうヤツはいきなり女性を押し倒して往復ビンタを喰らうのが関の山です。こういう行き違い、すれ違いが往々にして起こる「商談」と「男女」の「現場」。


 実際営業をやっていて客とそういうすれ違いを経験したことも、女性を押し倒そうとして往復ビンタされたことも無い僕自身、しかし営業時代も、それから十数年を経た今に至っても、一貫して女性にモテたことはない、ということを白状してしまうと、この記事の説得力は著しく低下してしまうわけでして、でも、そう言っておいたほうがオチとしては面白いからいちおう書いておくことにします(笑)。





前田恵祐
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