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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#165 イケメン部長にも劣化の影


 トヨタ マークX 250G Sパッケージ 試乗インプレッション(2015.6)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 マークXはしばらくモデルチェンジをしない予定だという。次はFFになるとかモデル消滅するとか様々噂が飛び交った挙句、現状維持。しかし自動車という商品は時とともに進化し、現状維持はすなわち後退を意味する。そもそも現行130系マークXは最初からなかなかいい出来だった。やや迷走気味のスカイラインよりずっと初志貫徹という感じで、立ち位置やスタンスもキッチリはっきりとしていて、クルマとしての完成度、まとまりがよかった。今回改めて現行最新型に乗って、今後に向けての展望や、オヤクソク、マイナーチェンジでどう変わったのかなどを探る。



 エクステリア



 顔つきは初代のナマズのような顔から現行型までいろいろやった挙句、コレといったアイデンティティを見つけ出せているわけではない。こうした価格帯のセダンはどうあるべきなのか、そういった意味ではマークXも迷っている。




 クラウンがベースだがクラウンよりパーソナルカーに近いから天井も低くピラーもやや寝ている。とはいえ、無難、目立たない、かといって上品というわけでもない、という、コナカやAOKIのスーツみたいな感じ。でもそれでいい。世の中のサイレントマジョリティとはそういった嗜好のものを良しとする。そういう人達のための間違いのない定番的クルマ。スーツは紺が定番なのに後期型になってやっと紺=ダークブルーマイカが選べるようになった。




 前期型のテールランプは「デザイン面積」のわりには灯火面積が狭くケチ臭いなあと思ったものだが、後期型は面積が増え、ブレーキランプも独立点灯するようになった。



 運転環境



 ハンドルは手動チルトとテレスコピックで調整幅も大きめ。シートは電動で上下調整は座面前端後端独立でもちろん背もたれも同時に動く。ブーツに隠れているがシフトはゲート式。シーケンシャルの操作ロジックはDレンジで右傾させ、前傾でアップ、後傾でダウン。エアコンスイッチ類はすべてプッシュ式だが操作にはやや慣れが必要か?まあ慣れてしまえば。スカイラインの二段構え液晶パネルに比べたら、すっとマシだし常識的。計器盤はあまり過剰な加飾がなく視認性重視。パワーウインドウは全席ワンタッチ。




 Aピラーはやや太めでウッスラとフロントガラスへ映り込む。色が黒ければ目立たなくなるのに。やはりこのあたりは設計年次を感じさせる部分。最新の国産車はもっとピラーは細いし視界の切り取り方もより巧みになっている。




 目視後方視界。極太Cピラー。しかし窓の角切りもきちんとしてあって、できるだけ見せようという意思は感じられる。



 インテリア・ラゲッジ



「いいご趣味ですね」と言われるのが、じつは多くの日本人は好きではないのだということが、「男の真ん中」たるマークXの内装から読み取れる。べつに悪趣味でもないが、かといって感激するほどでもない。ましてや安っぽいわけでもない。こういうものを作らせるとトヨタはもしかしたら世界一。




 運転席シートはサイドサポートもやや深めで適度な拘束感が心地よいが、なぜか中心部分の張りが足りなくてちょっと心許ない感じ。前期モデルではそのような印象はなかったのに。調整幅はちゃんとあるのに、シートそのものがやや頼りない。コストダウンかも。

・前席頭上空間/こぶし1つ




 バックレストにリクライン機能を与えるなどしてサービス向上に努める後席。しかしかけ心地はあまりリッチではなく、クッションは薄く感じられ、身体に触れた感じが優しくない。と、いうことは表皮の素材が良くないのかもしれない。これはやはりコストダウンというべきでしょう。前席含め、ヘッドレストの調整幅と形状、サイズには個人的に不満なし。

・後席頭上空間/手のひら2枚
・後席膝前空間/こぶし2つ



 トランクの広さはコストダウンのしようのない部分。堀も深く内張りも無駄なくスペースを稼ぎ出している、この点は日本車のお家芸。世のお父さんたちはここにゴルフバッグを積んで郊外のゴルフ場に向かう。アームは隠れるようになっているが、でも、ダブルヒンジがベスト。



 エンジン・トランスミッション



 たぶんここを見て買う人はいないのでしょう。あるいは、買ったあともここを見てコウフンしたり悦に入ったりする人もいないということなのでしょう。しかし。この4GR-FSE、トルクのフラットさ、なめらかさ、静けさ、またトップエンドまできっちり回りきるマナーの良さなど、乗用車向けV6エンジンの鑑とも言うべき出来。オートマは6段でもそれで充分という連携で、出た時から完成度は高かったし、それは今でも色あせていない。ま情熱的でこそないけれど、よくできた道具とはこういうものを言うのだろう。


 ちなみに、走行モード制御スイッチで[SPORT]を選択すると、スロットルの初期応答だけが過敏になり「ガッ」と出るわかりやすい演出が鼻に突くだけなので、すぐに[ECO]に戻した。[ECO]で走るとまったりと優しく上品な雰囲気でなかなかよろしい。




 平均燃費はリセットせずにスタートしたので参考値。街中をうろちょろする走行パターンの試乗車ゆえ、また、ブツ撮り中もアイドリングを続けていたためそれで悪化したという点もお含み置きを。指定燃料は無鉛レギュラーガソリン。



 足廻り



 前期型の試乗車も同じグレード250G Sパッケージ。だからこういう部分も直接比較できるわけだけれど、残念なことに後期型でのガッガリ度は低くないと言わざるを得ない。入力に対して機敏にストロークし上下動を減衰する、というより、大きな周期の上下動(ピッチング)を反復するくせに微小突起をきれいにいなすことができず妙な堅さだけが印象として残る。AVSのモードを切り替えてもダンパーの動きがもっと渋くなるだけにしか思えず、これも目先の印象をちょっと変えただけで茶を濁す程度の効果しか感じられない。前期型はもっとビシッとフラットさを保ちながら適切に凹凸による上下動を減衰するというものだったと記憶していただけに、残念。どうしたマークX。


 また、標準装着タイアのダンロップSPスポーツ2050との相性も今一つで、ノイズこそ気にならないものの細かな振動は減衰しきれていないし、ゴム質は硬いくせにタイア全体の剛性感が低く、まるで出来の悪い安靴を履かされた時のような心許なさしか残らない。きちんとした良いタイアを履かせてあげればまだしも印象はよかったかもしれない。これもコストダウンの一環なんだろうか、実に残念。



 結論

 前期型に対して少なからずガックリさせられてしまった130系後期型マークX。台数の出ないクルマだけに潤沢な資金を回してもらいにくいのであろうと想像はするが、こうもあからさまだと、たぶん前期型からの乗り換え組なんかははっきりとわかってしまうんではないだろうか。あるいは前期型よりもはっきりと「良くなった」と認識なさしめる説得力というものが必要ではないだろうか。今回マークXからはそれを、あるいはそうさせようという意思が感じられなかった。トヨタのようなデカい会社なら経営資源を細部にまで行き渡らせることができなければならないはずだし、そうでなければ本当の意味での世界企業とは言えないのではないだろうか。






 とはいえ。マークXのユーザーはそこまで細かいことを言わないのだろう。それはディーラーに配備された試乗車の台数でもわかる。このクルマは必ずどの店舗にも常駐している、というクルマではない。ということは、少なからず試乗をせずに購入していくケースがあるのではないかと想像できるし、むしろ、「試着」しなくても間違いのない商品という定評が既に出来上がっている証拠とも言える。しかし、で、あればこそ。その定評を壊さないためにも、また今後数年にわたって作り続けるという決断があるのだとするなら、決して脆弱ではないライバルの中で自らのブラッシュアップを怠るということは、情勢を見れば、それはできないと気が付けるはずなのだが。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 6
デザイン >>> 7
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律度 >>> 6
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ度 >>> 7
卓見度 >>> 6
完成度 >>> 7
バリューフォーマネー >>> 6






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 試乗データ

試乗日:2015年6月25日
試乗車:トヨタ・マークX 250G Sパッケージ
車輌本体価格:3,075,429円(OP含まず)
型式:DBA-GRX130-AETZH(S)
エンジン:2499ccV型6気筒DOHC直噴[4GR-FSE]
トランスミッション:トルコン式6段オートマチック
駆動方式:FR
全長×全幅×全高:4750×1795×1435mm
ホイールベース:2850mm
車輌重量:1510kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前後235/45R18(ダンロップSPスポーツ2050)
JC08モード燃費:11.8km/L
燃料タンク容量:71L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:4ドアノッチバックセダン
ボディ色:ダークレッドマイカメタリック/3Q3
内装色/素材:ブラック/スポーツタイプファブリック
装着されていたオプション:
     サイドバイザー ベーシック(27,000円)
     フロアマット ロイヤルタイプ(45,360円)
     メッキドアミラーカバー(10,800円)
     メッキリアコンビガーニッシュ(37,800円)
     サイドプロテクションモール(32,400円)
     リアバンパーステップガード(11,880円)
     他、参考・・・SDナビ+バックガイドモニター+ETC車載器






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 メーカーサイト


http://toyota.jp/markx/








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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」を見つけるのはあなた自身の仕事です。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。









前田恵祐
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