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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#200 レクサスLS500 ~ 試乗 〈2018.3〉



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください

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 レクサスLSというクルマ 

 1989年の誕生から来年で満30年。当初は国内販売に消極的だったが、税制改革に好景気、日産セドリック・グロリア/シーマが起爆剤となった3ナンバー高級車カテゴリの爆発的人気などにも後押しされ、レクサスLSは「トヨタ・セルシオ」の名で日本国内に登場した。当初から欧米マーケットでの展開を中心に据えて開発が進められていたため、国内市場における旧クラウン的価値観やヒエラルキーから解放された、きわめてトヨタ的でないスタンスが逆に評価され、その後のトヨタ車のあり方にも大きく影響を及ぼした車種とも言える。当時のトヨタ自動車が持てる技術を結集し、これまでの日本はもちろん、欧米においても存在し得なかった新しい高級車の価値観を創造した功績は、むろん、その後の欧米の「ライバル」がこのクルマを追随した事実からも、極めて大きいと言わざるを得ない。


 今回試乗したのは2017年10月デビュー、セルシオから数えての五代目で、その中でも3.5リッターV6ツインターボガソリンエンジンを搭載したモデルである。




 外 装 



 フロントマスクの、とくにグリルの形状には当初違和感があったが、もはや見慣れてしまうとこれはこれでひとつの価値観だなと思わされる。ゴリ押しもここまで徹底すると説得力というものも生まれるし、また、時間とともにこのスピンドルグリルのデザインそのものも洗練され、スタイリングに溶け込むようになった、という言い方もできる。時間薬である。




 最近のクルマのデザインはプレスにしてもフォルムにしても、表現過剰なところがあり、一言で言うとクドいし、時に醜いこともあったが、このクルマのデザイン、造形はそうした中できわめてシンプルに構成され、そして上品だ。最終ピラーをなだらかに流したところは多方面からの影響もあると思うが、私はY51シーマに見えてしまった。時間が経過しているだけあってシーマよりピラーやサッシ部分の洗練が進んでいる。




 テールの処理もおとなしい。主張が過ぎておらず、かといってこれまでのトヨタ車、レクサス車が持っていた穏やかな印象を上品にまとめていると思う。最上級、旗艦車種だけあって、小手先技の安っぽいデザインは行わなかったという点からも、このクルマをどういうクルマにしたかったのかが窺い知れる。

 これは日本車であり、なにかの真似でもなければ、ドメスティックな高級車の価値観でもなく、レクサスとして、世界のプレスティッジに打って出る静かな覚悟と自信のようなものを感じる。30年の結実として相応しい仕上がりではないだろうか。



 運 転 席 



 ハンドルもシートもすべて当然のようにパワーコントロールで快適に、自在に好みの運転姿勢、環境を得ることが出来る。ハンドルに取り付けられたスイッチの数が多いのはしかたないとして、主なメーター、照明、空調などのコントロールには奇をてらわずオーソドックス、かつシンプルな構成と操作性を持たせている。こうしたところもこのクルマが「旗艦」として大きく構え、なおかつホンモノが持つ正しさをここに持ってきていると感じさせる部分だ。個人的な好みを言えば、ハンドルの外径はもうすこし大きいほうが繊細なコントロールがしやすく、上品な振る舞いをドライバーに促すのではないかと思う。




 Aピラーはこのようにフロントガラスに映り込む。ドアミラーはもうすこしイカリ肩のほうが後方をより確認しやすい安心感をもたらす。ミラー取り付け位置はもうすこし前方の方が視線移動が少ないのではないだろうか。




 運転席からの斜め後方視界。Cピラーはもうすこし細いと嬉しい。また、後席ヘッドレストは使わない時には格納できるとドライバーにとってはさらに嬉しいだろう。こういう場所に電動ロジックを組み込むのはトヨタ、レクサスのお家芸だと思うのだけれど。


 内 装 



 カタログなどの写真で見るとややクドくてやりすぎではないだろうかと感じさせたダッシュボードも、実物を前にするとそんな印象はあまりなく、むしろ、高さは控えめで視界がいいし、モニタの位置や大きさ、また先述の操作、コントロール系の簡潔明快なところも手伝ってなかなか印象がいい。全体的に控えめで機能的でもあり、同時に、やはり上品だ。控えめ、上品、機能的、これは近年の日本車やレクサス車が見失っていた、高級車に求められる「本質」ではないだろうか。アクセサリや装飾を前面に出し、どこか「強欲」に見えなくもなかったここ最近のレクサスが、久々に「清廉」な心を取り戻した、そんな印象がもたらされた。




 これはベーシックな仕様のアイボリー本革内装。グレードが上になると選べる本革の素材や色、仕様も増えていくが、これでも充分に仕立ての良い、いかにもレクサスを思わせる満足感が味わえよう。この仕様で気に入ったのは木目の仕上げで、つや消しの表面処理はこれまた控えめでありながら上質、素材感が生かされたもので、世の中に出回ったツヤツヤの仕上げのものとは違う雰囲気を味わえる。この、他とは違うものを味わえる、または、控えめだがじつは良いモノを敢えて選択するというのは、本当の贅沢というものであり、それを可能とする姿勢こそが「高級の条件」だったりもする。


 前席頭上空間:こぶし1つ半




 後席に坐るとわかるのは、顔の位置とCピラーの位置関係がよろしく、適度に守られている感じが心地よい。足元はもちろんのこと、前席との間隔もさすがロングボディだけのことはあって広々としており、なおかつ、ミニバンのように無駄に広いのではなく、落ち着きの良い、プライベートな空間、時間を満喫できよう。とくに、前席ごしに見える前方視界も開けていて、落ち着くからといって視界が悪いわけでもなく、むろん後席に坐れば居眠りをしてもいいだろうし、景色を楽しむのもまた一興といった風情。

 今回は運転を任せる時間を設け、後席にも比較的長く坐って試したが、長いホイールベースによる落ち着いた身のこなしや重量配分をも含めたあらゆる運動性能領域の追求が、後席における移動時間をきわめて質の高いものにしている。前席での乗り味と後席における乗り味に極めて差が少ない。こうした点もこのクルマの優れた一面と言えるだろう。そうはなっていない高級車は山ほどある。


 後席頭上空間:こぶし1つ半
 後席膝前空間:こぶし3つ(前席筆者着座位置設定時)




 ガソリン車のためトランクルームはレクサスLSというクルマの中ではもっとも確保されていると言える。



 走 り 



 レクサスLS500のエンジンは、3.5リッターV型6気筒エンジンにツインターボを与えたもの。ついにV8エンジンを放棄した。走ってみると振動も少なく静かでしかもパワフル。理屈の上ではよくできたエンジンと、頭のいい10段オートマチックということになるが、やはりあのV8エンジンの静寂を知る者にとっては物足りない気がしないといえば嘘になる。多くの人はこのクルマにハイブリッドで乗る事になるのだろうが、このガソリン車にはもう一味ふた味、「さすがはレクサス、よくやった」と思わせるところが欲しいと、個人的には思う。




 先にも多少触れているが、ロングホイールベースによる落ち着いた身のこなし、またピッチング、ロール、スクォート、ノーズダイブ等の姿勢制御、またどこを取っても完璧なノイズ、振動の制御など、こと「快適性」に関するセッティングはかなりレベルが高い。

 ハンドルを握った印象は、一言に「日本的」。これについてはいろいろな表現や感じ方があると思うが、私はこのクルマの運転フィーリングは、旧来の日本的高級車の価値観をそのまま昇華させたものだと思えた。ハンドルを始めとするあらゆるコントロールは軽い操作力で行なうことができるだけでなく、スムーズかつなめらかで洗練されている。それに加え、人間の入力に対するクルマの側の反応には正確性があり、雲をつかむかのような感覚ではなく、ハンドルを握って操縦しているという手応えも十全に得られる。

 この分野でも新型LS500は、誰かの後追いや真似ではなく、日本車としての価値観を磨き、独自の高級車の世界観を見出そうとしていることが理解できる。そうしたところから鑑みても、レクサスLSは確実に旧型から進歩していると言うことができると思う。




 出発前にリセットしたドラコン表示平均燃費は1時間ほど一般道、首都高を走って6.2Km/Lだった。いかにアイドリングストップを備えようと、2.1トンはあるガソリンエンジン車を普通に走らせればこのようになるというものだろう。ちなみにちょっと古いが、先日客として乗せてもらった186系マジェスタの個人タクシーの燃費表示が5.3Km/Lだったことを考えると、やはり改善されていると考えることはできる。



 結 論 

 私は、いい仕上がりだと思う。30年間、モデルチェンジを繰り返しながら作り続けてきて機械的洗練があるのは当然ながら、高級車としての考え方や世界観の演出、もてなしの在り方など、このレクサスLSという旗艦車種には乗るたびに確実な進歩があり、その意味では毎回期待を裏切られないクルマでありつづけている。そうした流れの中で、2018年、30年目の最新型は、30年の歴史に恥じないだけの内容を持っているとは言えないだろうか。


 動力機関を今後どのようにしていくのか、全電動化が正しいのか、しばらくはハイブリッドでいくのか。あるいは内燃機関にも新たな代替燃料が現れて、これまでにない効率と環境性能を持つに至るのか。また、運転の自動化、安全性への取り組みと、その正解がどこにあるのか、など、自動車が今直面している課題は少なくない。


 そうした観点からみると、この新型レクサスLSはまだ完全なる「回答」を持つに至っているとは言えない部分もある。しかし、それが今、2018年現在の自動車の姿であると捉えるべきだろう。


 新型レクサスLSの、今回乗せていただいたガソリン車の仕上がりは、2018年現在の日本のレクサスというブランドが、日本と、世界に向けて発信する高級車の在り方として、じつに堂々としており、その走りや乗り味、高級車としてのプライドにおいて、ひとつの成熟の姿を見せてくれているように思える。むろん、ここからさらに時間をかけて、トヨタ、レクサスはこのクルマに磨きをかけていくことだろうが、その基礎として、十全の仕上がりを持っているとはいえないだろうか。







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 筆者が感じたレクサスLS500の「良かった点」
・上品なデザイン
・高い快適性
・「自分」をしっかりと持ち磨き続ける姿勢

 筆者が思うレクサスLS500の「良くして欲しい点」
・エンジンに、より明瞭なキャラクターを
・ハンドルの外径をもうすこし大きく
・Aピラー内張りの処理



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 参考データ

試乗日:2018年3月15日
試乗車:レクサスLS500
車両本体価格:9,800,000円(OP別)
型式:DBA-VXFA50-AEUQT
エンジン:V35A-FTS型(3444cc水冷直噴V型6気筒DOHCインタークーラー付ツインターボ)
駆動方式:FR
トランスミッション:Direct Shift-10AT(電子制御歯車式10段オートマチック)
全長×全幅×全高:5235×1900×1450mm
ホイールベース:3125mm
車両重量:2160kg
最小回転半径:6.0m
装着タイア:245/50RF19 101W ランフラットタイア(BS TURANZA T005A)
JC08モード燃費:10.2Km/L
ボディ色:グラファイトブラックガラスフレーク<223>
内装色:アイボリー本革
オーナメントパネル:ウォールナット(オープンフィニッシュ/ダークブラウン)
装着オプション:マークレビンソンリファレンス3Dサラウンドサウンドシステム(286,000円)
        ムーンルーフ(108,000円)
        フロアマット タイプA(122,040円)
        ホイールロックナット シルバー(16,200円)




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 メーカー公式サイト

https://lexus.jp/models/ls/






2018.3.25 記
前田恵祐

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