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#172 空席だらけのスタジアム


 日産 フェアレディZ NISMO 6段マニュアル 試乗インプレッション(2015.12)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 3.7リッターという大排気量でたった二人の乗員を運ぶという、国産車としてはきわめて「贅沢」なクルマ。本来はその贅沢を堪能するべきクルマ。しかしそういう気持ちにならないのはなぜだろう。


 エクステリア



 Zのスタイルはもともと無骨。しかしそれはそう見せたいという願望の表れでもある。なにせ乗用車をベースにしたスポーツカーだから軟弱な素振りはできるだけ包み隠しておきたいわけだ。




 NISMOには専用エアロパーツが備わる。それもSUPER GTのノウハウをフィードバックし整流効果を存分に発揮するとうたわれている。




 しかしフェアレディZにこのサイズが必要なのかは甚だ疑問。全長4330mmはそれとして、全幅1870mm(非NISMO車は4260✖1845mm)は無駄に幅広すぎやしないか。



 運転環境



 ハンドルは手動のチルト、テレスコピック調整。短めのシフトレバーにレバー式駐車ブレーキ。ステアリングホイールはやや径が大きめでグリップには例によってアルカンタラが巻かれている。パワーウインドウは全席ワンタッチ。エアコン他操作系はダイアルやプッシュスイッチを組み合わせて現代のクルマとしては簡潔にまとまっている方。ダッシュボード上に三連メーターを備えたり、ドアパネルに厚みを持たせるなどして「タイト感」の演出に努力の跡。しかしそもそも適正な全幅なら不要な努力。




 ABCペダルの配置はさすがに違和感なく決まっているが、人によってはフットレストがやや小さく奥まっていると感じるかも知れない。




 Aピラーは細めで形状もフロントガラスに写り込みにくい。そのフロントガラスはやや立ち気味で横方向にも広く、運転視界の切り取り方も運転者に優しい。運転席からはボンネットを視野に納めることができるなど、1.9メートル近い全幅に胃もたれすることなくドライブに集中できる。




 Cピラー方向の実視界。ボディ形状からして目視視界を期待しないほうがいいクルマではあるが、実質全長が短めでその全長の中でドライバーの位置はほぼ中心にあるから後方の感覚もつかみやすい。総じて運転しやすいクルマ。



 インテリア・ラゲッジ



 見た目はヤル気を感じさせるレカロだが着座してみれば思ったほどタイトに拘束される印象はなく、心地よいホールド感を得ることが出来る。ちなみに運転席後方にはちょっとした荷物置き場が掘られているが、そこにアクセスするのにこのシートはワンタッチの前倒し機能がなくやや不便。
 
・前席頭上空間/こぶし1つ




 ブレースバーはじつはサスタワーより前に位置している。ちょっと工夫すれば、あるいはちょっとホイールベースを伸ばせば「後席」を設けることも難しくはなさそうなのにそうはなっていない。Zのようなクルマは究極的性能より実用性とのバランスも大事だから後席の有無はけっこう小さくないポイントだと思う。個人的にZに後席はあったほうがいいと思う。荷室はプライベートカーとしては充分。



 エンジン・トランスミッション



 3.7リッターV6エンジンを専用にチューニングして355馬力からの大パワーを得ている。しかしそもそもが乗用エンジンであって、ただただ馬力があってスピードが出るというだけのことでしかない。スポーティな研ぎ澄まされた感じだとか、シャープな印象は希薄。ま、Zのエンジンというのは昔からそうだった。どちらかというとオートマでゆったり乗りましょう、という性質。


 試乗車はマニュアルだったが、これがなんともチグハグな印象だった。シフトレバーは短くスパッと決まるのに、エンジン回転の落ちがユッタリだからエンジン回転が下がりきるまえにクラッチをつなぐことになる。これが毎回あまりいい気分でない。シフトレバーを長くするかクラッチのトラベルを長めに採るかしないと、運転のリズムがうまく採れないと思う。また、NISMOに限らずこの系統のクラッチはリターンスプリングが強めで、アイドリングでゆっくりつなぐようなクラッチワークを受け付けないのもマイナス。でかくて余裕のあるエンジンなのに、ドライバビリティはあまり高くない。


 発進時にガッコンガッコン、シフトチェンジで例の回転落ちが遅すぎてまたもガッコンガッコン、それを補うためかシンクロレブコントロールなるデバイスが備わってシフトダウンはちょっとラクだが、本来ドライバーの腕の見せどころであるダウンシフトを補ってもらっても少しもありがたみがなく、スムーズに転がすのにとても気を使わされるだけ。そしてそのことに心身ともに疲労する。NISMOに限らず、Zのマニュアルは要改善。



 足廻り



 専用19インチのポテンザを履く。車体補強やパフォーマンスダンパー、専用足廻りなど数々のNISMO専用装備を盛り込みつつそれらトータルの印象は思った以上に洗練されていた。もっとハードでスパルタン、常に上下動や不快な振動に晒されるものと思いきや、フラット感や滑らかさは十分に確保され、これなら長時間のドライブでも足廻りの硬さ故に疲労するというようなことはなさそう。ハンドルの重さも適度で、ノーマル車より中立がはっきりとした、節度感のあるドライブフィールをもたらしてくれる。1530kgと決して軽くはない車体だが、その重量を意識させない全体の調律がうまく取れていて、大きさ重さのスペックから想像するよりずっと身軽で、トバすのに億劫にはならないだけのものなりおおせているあたりはさすがNISMO。


 本来ならこれくらいの身軽さをノーマルでも達成していて欲しかった。その上でNISMOの名を冠するならもっとハードな仕様を持ってきても良かった気がする。しかしそれもこれもただ単純にダイエットしてシェイプアップすれば自ずと手に入れられることなのではなかろうか。



 結論

 モノを作り出すには「誰に向けて発するか」ということがとても重要だ。誰に乗って欲しいのか、あるいはその層から何が求められているのかという受信機というかアンテナのようなものが必要。しかし現代においてこうしたスポーツカーというのは、そもそも欲しい人がいないから、メーカーとしても誰に向けて発したらいいのかわからないようなところがあるのだと思う。その中で、Zは手持ちのコンポーネンツをやりくりしてなんとかスポーツカーとして成立させている。その大きな動機とは日産自身のフェアレディZというブランドに対するプライドのようなものかも知れない。しかしそれでは観客席が空席だらけのプロ野球のようなものだ。





 燃費やエコロジーといった要件がクルマにおいて非常に重要視される今にあってこうしたクルマが存在するには、その無駄のカタマリを容認させる説得力が必要ではないだろうか。無駄に速い、無駄によく曲がり止まる・・・だけではなくて、無駄に格好いい、無駄に美しいという要件も満たしていなければこうしたクルマに700万円近くを投下させる動機にはなかなか結びつかないのではないだろうか。無骨なのはGT-Rに任せておいて、ZはZの世界観や美意識、美学のようなものを持たないとファンを強力に惹きつけることは難しいだろう。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 6
デザイン >>> 6
エンジン・トランスミッション >>> 5
音・振動の処理 >>> 7
走りの調律度 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 7
ヒトへの優しさ度 >>> 7
卓見度 >>> 5
完成度 >>> 6
バリューフォーマネー >>> 5






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 試乗データ

試乗日:2015年12月17日
試乗車:日産 フェアレディZ NISMO
車輌本体価格:5,626,800円
型式:CBA-Z34
エンジン:3,696cc 水冷V型6気筒 [VQ37VHR]
トランスミッション:3ペダル6段マニュアル
駆動方式:FR
全長×全幅×全高:4330×1870×1315mm
ホイールベース:2550mm
車輌重量:1530kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前245/40R19 94W・後285/35R19 99W  [BSポテンザRE11]
JC08モード燃費:9.2Km/L
燃料タンク容量:72L(無鉛プレミアムガソリン)
ボディタイプ:3ドア/2人乗りハッチバッククーペ
ボディ色:ブリリアントシルバー(M)<#K23・スクラッチシールド>
内装色/素材:ブラック・レッド/本革・アルカンターラ
装着されていたオプション:
     カーウイングスナビゲーションシステム(地デジ内蔵HDD方式)(558,360円)
       +バックビューモニター(車幅/距離/予想進路線表示機能付)
       +ETCユニット<ビルトインタイプ>
       +ステアリングスイッチ(オーディオ、ナビ、ハンズフリーフォン)
      Boseサウンドシステム
       +アクティブ・サウンド・コントロール、アクティブ・ノイズ・コントロール
     フロアマット(28,080円)





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 メーカーサイト

http://www2.nissan.co.jp/Z/nismo.html








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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」を見つけるのはあなた自身の仕事です。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。






2015.12.17
前田恵祐

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