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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#036 独自の持ち味は?

ボルボV50 2.0e POWERSHIFT 試乗インプレッション(2009.12)

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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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概観 




 空飛ぶレンガは過去のもの。角は取れ、それでもボルボらしく室内高を稼ぎ荷室を充分に確保し、今のクルマだからおそらくや空力性能も考慮し、しかも安全性・・・それは乗員のみならず、歩行者保護の観点にも立ち、そうした諸々を含みおいてこの形が成立していると思うと、充分にスマートで個性もあり、うまい仕上がりと感じる。間近で見たときの各部のしなやかな曲線が美しい。





 明るく大きく開けた「窓」が寛く居好い室内を連想させる。





 国内在庫として売れ筋の何色かは一定量確保されているようだが、カタログにはそれ以外のカラーもあり多彩なカラーバリエーションが存在する。またそれと組み合わせるインテリアトリムもテキスタイルが標準とオプションのT-TECの二種、またお約束の本革もオーダーでき、それぞれに色も選べる。ただし、国内在庫のない仕様をオーダーすると3ヶ月前後待つ。



インテリア

 ダッシュボードは例によってモダンな仕立てで、センターコンソールがまるで一枚板のようになっているところが”インテリア”している。ボルボの中では簡素な部類で、装備もほどほど。





 試乗車のシート表皮はふつうの平織りだが、これが滑らず、それでいてくいつきすぎず、通気性も良く、ましてや例によってたっぷりとしたサイズでおおらかに包んでくれる、懐かれるあの感覚。調整機構も前後独立で座面高が調整でき、後傾角も比較的自由。こうしたところを見ると、やっぱりボルボ、真面目に作られているな、と思う。





 後席は広大でこそないが充分で、なにより視界が良く、スクエアに、無駄なくスペースを作り出しているという気持ちよさが居心地のよさにつながっている。実質の数値に見出せない、内面にこそ得られるこのクルマならではの魅力ではないだろうか。





 ラゲッジスペースも同様で、充分以上のスペースと使いやすさがある。余計な凸凹がない、開口部が大きくその下端が低い、スペースに無駄使いがないなど、できる限りのことを真面目にやってきているという印象だ。






エンジン/トランスミッション

 燃費を計測できないのが残念。おおむねカタログ値に近いところまでは行くらしい。しかし「らしい」では信憑性もない。それは別として、2L直列4気筒エンジンはボルボの属するグループ会社のマツダによる開発と聞いた。前方吸気後方排気で気持ちよく軽やかに回るだけでなく、イヤな、ピリピリとした振動を隔絶しておりマイルドな印象もある。美声声高ではないがストレスも無い。これは搭載する車体側の工夫も効いているだろう。





 注目のパワーシフトは、湿式デュアルクラッチの6段。言われなければトルコン式6段オートマと区別がつきそうにないほどスムースなのは、ワーゲンの湿式6段にも感じたこと。レスポンスは、ややダウンに待ちを感じ取れたが、それでも充分以上で、ましてやこのクルマ、スポーティである必要はまったくない。これでトルコンよりずっといい成績の燃費があるなら万々歳だ。



足回り

 ハンドルは軽めで反力も欧州車としては抑えられているほうだと思う。路面の感触は必要充分に伝わりドライバーを不安にさせないのにこれまた必要充分な程度。ややスロー(シャープの逆)に感じるのはボルボの伝統か。北欧の雪道を行く。それにはある程度スローなステアリングがいい。「急」のつく動作をクルマの設えからして自ずと防ぎやすく、いざとなったときの繊細なコントロールも容易になるためだ。





 足は柔らかめだがフラットであり、芯の強さを感じさせるもので、その要因は音と振動からの隔絶にあり、また直進性の良さとそれを維持することの容易さからもなる。比較的わだちに強い方で、たとえば街道の深いわだちにウロチョロさせられることも少ないだろう。これもまた、わだちの深い凍った雪道がこのクルマを育てていることを物語っている。ある程度の柔軟性や必要なだけの”あそび”を、長年の経験からうまく調整して、良い意味での鈍感力をもつこの足さばきを作り上げているのだ。しかもそのおかげで乗っている側はとてもリラックスできる。昔の740/940の時代からすれば、その点ではずっと”国際的”なこのV50なのだけれど。



まとめ

 他ブランドのコンポーネンツを流用しながら作られたクルマで、その中でいかにボルボの考えを反映しているかも見どころだったが、予想以上にこのクルマは”ボルボ”だった。確かに、上述のとおり”国際的”であり、つまるところ以前よりボルボのカラーは薄まっているし、古くからのベテランオーナーからすれば物足りなさはあるかもしれないが、独自のデザインセンスや、走り込むほどにわかる長距離移動やそれが及ぼすストレスや疲労への考え方、また操縦性の設えなど、やはりボルボならではのものがある。


 北欧のモダンな家具のようにシンプルながら美しく仕上がっており、それでいてボルボらしい真面目さや骨太さもうまく同居している。そこには、ゲルマンやラテンにはない魅力がしっかりと詰まっている。ドイツ車に乗り続け、良さはわかっているが反面飽きも来ている、という向きにはお勧め。価格もほど好く個性もあり、なにより人に優しい。いいクルマである。



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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。













前田恵祐


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