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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#039 意外にも成熟の脚

スズキ・アルト X 試乗インプレッション(2010.1)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 概観

 ベーシックカーのなかのベーシックカー。かつて47万円という低価格で売り出し好評を博したアルトも代を重ねるごとに生活レベルが向上し、そして個性を身に着けた。かつての安かろう悪かろう、いや、しかしそれでもユーザーは納得して喜んで乗っていたわけだが、その時代を知る筆者にとってみればこの新型に触れて隔世の感もしきりである。




 限られたサイズの中でスペースを稼ぎたいならどうしても四角い箱になり、ボンネットも短くしたい。つまり皆同じような形になってしまいがちである。しかしこのクルマ、フロントマスクの愛らしさといったら他にない。ツリ目で他を威嚇するような”面構え”が横行する国産車のデザイントレンドの中で、この、良い意味での”間抜け”にホッとさせられる。もちろん顔だけでなく、キャビンに向かってキャラクターをつけたりしながら特徴を与えようとする痕跡が見て取れる。その努力が買える。




 やはりスイフトのラインがベースなのかな。




 意外とホリも深いサイドの造形がわかる。



インテリア

 明るいアイボリーの色使いはちょっと汚れが気になるかもしれない。デザインそのものは素っ気無いが、例えばダッシュボードに掘られた小物置場や充分なサイズのドリンクホルダー、ドアにも小さいながらちゃんと肘置きがあったり、そこに布が張られていたり(グレードによる)と気配りも欠かしていない。




 筆者のような、人から立派といわれるような体格の男であってもしっかり自分のポジションを取ることの出来る調整幅のあるシート。その部分は大いに褒められることだが、いかんせん(筆者には)サイズが小さい。街乗りでせいぜい30分の移動、しかも小柄な女性ユーザーがメイン、という想定がここから見て取れる。後述する機械の出来がいいのに自らターゲットを絞り込むのは勿体無いこと。




 リアドアは80度まで開く。


 そして、運転席を筆者のポジションのままにした後席のスペース。これだけ足元に余裕があれば充分。しかしやはりここもシートのかけ心地とサイズがチープで、お子様席かチャイルドシート席になってしまいそうだ。後席ヘッドレストも上級グレードのみ。スズキは合理的なメーカーで、とにかく無駄を省くことを美徳としているようなところがあり、必要とされないならシートは最小限で良し、ということなのだろうが、ここを良くするだけで国際的な競争力にも相当磨きがかかるとは強く感じた。




 昨今の安全志向からウエストラインやスカットルがせり上がる傾向にあるが、アルトはこのように前に向かって見切りを下げて開放感と実質的運転視界の確保に努めている。




 ちょっと針が短く目盛りと数字も離れていて一発の視認性はもう一歩。




 後席の広さ含め、これだけあればワゴンRでなくても・・・



エンジン/トランスミッション

 以前のアルトは普通のモデルでも8000rpmくらいまわって凄かったが、それもいまや昔。違和感の取り除かれたCVTに対しても柔軟性のある大人っぽい対応の3気筒エンジン。静かで振動も少なくなった。このあたり、代が変わり、乗るたびに良くなっていく。




 短時間の試乗では燃費を測れなかったのが残念だが、メーターパネル内の瞬間燃費計は、筆者なりに相当踏み込んでも15km/Lを割ることは少なく、普通に流せば常に20km/L台を示している。




 CVTは違和感がないだけでなく車速とエンジン回転のシンクロ感も自然で、ギクシャクもせず、まして巡航モードに入るとアイドル+アルファで難なく走り、必要とあらばエンジンブレーキを強くしたりもできる。操作ロジックも明快。



足回り

 驚いたのは足さばき。路面との当たりがしなやかなだけでなく、限りあるサスペンションストロークをうまく使って出来る限りゆったりと穏やかに走らせることを意図していることがわかる。特にスズキ独自のリアサスペンションの動きが良く、トーションビームに類するものとしてこの落ち着き、このしなやかさ。暴れずしっかり接地する。ノイズやバイブレーションの遮断はちょっと軽自動車のレベルではない。ましてや骨っぽいまでは行かないにしろ、路面からのインプットもしっかり受け止める車体。ブルブルワナワナしない。巧い。




 これでハンドルがもうすこししゃっきりとしたらまるでフランス車だ、と言ってしまうとオーバーだろうか。しかしそれくらい洗練されていて、そして恐らくや長時間ドライブ向きの資質を持ち合わせていると想像もできる。故にシートの出来、見切りが残念なのだ。



まとめ

 こんなに洗練されていていいんだろうか。クルマから降りた第一印象。これは昨年乗った新型ポロでも感じたこと。これが今後の小型車の乗り味の方向性ということなのだろうか。小さくても質感の高い走り、我慢の少ない使い心地、とあらば、ダウンサイジングにも拍車をかけるかも知れない。気だけは若い筆者にとれば、これだけ資質の高いクルマなのだから、ちょっと元気な仕様があってもバチはあたらぬだろうて、と思い描く。もちろん、大人が乗っても恥ずかしくない仕立てでお願いしたい。




 それはともかく、やはり、基本中の基本となるクルマだけにスズキも手を抜けないところ、実際にそのことは乗ればわかるだけのものがある。以前のように、安い代わりに、小さいだけに、と、我慢や妥協を乗る側に強いていたところがほとんどなくなり、これ一台あれば充分だよな、と思わせるだけの仕上がり。まして、スタイルも個性的で、このかわいい顔が気に入って買うという人があってもおかしくない。その点でも昨今ワゴンR等に押され気味で影の薄かったアルトだが、ここでようやく本分を取り戻したようだ。





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メーカーサイト
http://www.suzuki.co.jp/car/alto/


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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。








前田恵祐


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