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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#041 背広のようなもの

トヨタ・マークX 250G Sパッケージ リラックスセレクション 試乗インプレッション(2010.1)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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概観

 マークIIの時代から、この系譜はある一定の年齢に達した社会人にとって、紺のブレザーのようなアイテムの一つだった。それは、このクルマに乗っていれば概ねの社会的属性は一目で理解認識され、何の説明も要らないほど、つまり日本の社会構造の一部に組み込まれていることを意味した。トヨタの中核を成す車種はカローラからクラウンやマジェスタに到るまで皆同様である。そのラインナップのほぼ中間にあるのがマークX。「男の真ん中でいたいじゃないか」とはうまく言ったものである。




 顔の好みはさておいて、これだけホリが深いのになんらイヤミになっておらず、物議をかもすでもなし、わりと抵抗なく受け入れられているというところが凄い。このブランドの信頼とはそういうものなのだ。築き上げてきたものの大きさを感じる。




 基本的にはオーソドックスなサルーンの形で、実は顔ほどに全体の雰囲気に特徴という特徴はなく、風景に溶け込めるだけのものになっている。それでいいし、それを求められてもいる。充分にそれを認識し、応えてもいる。





インテリア

 普通のセダンにしては"凝った"つくりのインパネ。ウッド調もたくさん貼られていて、それは一目で"調"とわかるものではあるが、全体を通した雰囲気に適度な格調と質感とが満たされていて、大人の男の持ち物として相応しい雰囲気を持っている。Sパッケージのインテリアは黒基調。ウッドも黒になってメルセデスのアヴァンギャルドのよう。そのあたりは色や雰囲気の好みで選ぶまで。他のグレードにはベージュやブラウン系(ウッドも茶系)のものが用意されている。




 ナビなしでもサマになるデザインは好ましい。なにがなんでもナビ付きで売る、そういうふうにデザインする、という某社とは違い、こうした対応も細やかなのがトヨタ。世の中にはナビは無くとも旅は出来る、という人だっているのだ。




 シートもなかなか秀逸。縦横奥行きどの方向にも余裕があり、剛性もある。硬めの坐り心地でドイツ的。長時間は試していないからなんともいえないが、第一印象はかなりよかった。ショルダーのサポートも適度で安心感もある。





 Sパッケージ系のリアシートにもリクライニング機構が備わるが左右ヘッドレストは固定式。グレードによって調整式と固定式を使い分けている。このあたりちょっと不可解。保安部品なのだから調整式を全車標準とすべきではないだろうか。ちなみにこの黒系内装だと250G・Sパッケージ・リラックスセレクション、350Sで選択できる本革シートでは調整式になる。基本的なシートのサイズや角度などの設えに不満は無い。




 トランクルームはこんな具合。6:4分割可倒によるトランクスルーも備える。



エンジン・トランスミッション 


 今回から2.5リッターV6がレギュラーガソリン仕様になったのが注目点。現時点でエコカー減税にも対応している(グレード別)。敢えて言うとトヨタのエンジンは基本、存在感を誇示するというより黒子に徹して"いい仕事"をすることを目的に仕立てられている。そのあたりBMW的にエンジンの存在感が大きい日産よりメルセデス的である。静々と回り、粛々と能率的に仕事をこなすV6エンジンと6段オートマチック。充分に滑らかで静か、イヤなクセもなく誰もが違和感なくドライブできるだろう。




 馬力は充分で、これになぜさらに3.5が必要かな、と思えるくらい。税金だって高いし、ガソリンも多少は食うだろう。かつてのツインターボのように速さでスポーツカーとタメを張るわけでもなく、小さな見栄は捨て、ここは素直に2.5の経済性の恩恵を受けるべし。





足廻り

 佐藤浩市サンがハンドルを握るコマーシャルは伊達ではない?。重厚な印象の乗り心地。2.5にはオプションの18インチタイアを得ながら以前ほどゴツゴツ感を伝えず、角が丸まって洗練された。音も振動もうまく押さえ込んでいる。たしかにクラウンほどではない。でもそれで充分以上。




 ハンドルの太さや握り心地はメルセデスのよう。ステアリングの正確さはそれほどでもないが、といってヒトの意思に対して反応に遅れが出るわけでなし、旋回を始めれば18インチタイアを得ているなりに路面の感触を伝えながら、ほどほどにスポーティな気持ちでカーブを行く。リラックスしてクルージングするもよし、それでいて時にヤル気を出しても過不足なく応えてくれるであろう懐の深さ。メルセデスやBMWのハンドリングにはドイツ人の理屈っぽさを感じさせて時々ウザくなるが、このクルマはその点余計なことを考えさせない。



まとめ

 紺のブレザーは社会人にとってなくてはならない。それと同じこと。求められる要素を適切に満たしているという点において、このクルマは満点だ。機械として、クルマとして見て、さらに高い理想を追求することは出来るだろう。しかし目立ちすぎないのも重要。この程度で充分。大人は腹八分がいい。




 ましてや240万円を切る本体価格から選べる。これだけの質感、これだけの完成度。これを必要とする人にとってこれ以外考えられないという説得力。ただし、その説得に素直に応じるのは、いわゆるボクのようなマニアックな人ではないだろうな、とは思うけれど。ちなみにこのクルマ、不思議なことに今のところ紺色の設定がない。念のため。


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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。






前田恵祐


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