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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#048 贅沢なパーソナルクーペ

メルセデス・ベンツ E350クーペ 試乗インプレッション(2010.5)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 Eクラスとしてのクーペは124以来ではあるが、その実この新Eクラスクーペは従前のCLKと同様Cクラスのプラットフォームをベースとしており、CLKの後継機種と考えたほうがよさそうだ。一回り小さくスポーティかつエレガントな2ドアクーペを成立させるやりかたは合理的。仕立てはEクラスそのもの。モデルコードはセダン・ワゴンの212とは異なる"207"。



 エクステリア

 昨今のメルセデス・デザインはちょっとオリエンタルな雰囲気を表現している。エッジが立っておりヘッドライトも角型になった。昨今「これみよがし」なデザインが目に付く中、大きすぎず適度に控えめ、大胆なラインとともに繊細さと上品さも併せ持つ。この洗練された雰囲気は同時に知的であり、それは「高級」であるためにもっとも重要な項目。メルセデスが持つ所有感や乗り味を連想させる優れたデザインだと思う。




 少しだけメルセデスの威厳を取り戻したやに見える角型ヘッドライト。




 しなやかに弧を描くルーフラインにセンターピラーレスのクリーンな視界。優雅なフォルム。テールを短く切り詰めてグラスエリアを強調したデザインは挑戦的で一見アンバランスだが美しくまとめ上げている。




 比較的横長のテールレンズは昨今のメルセデスの特徴。前も後ろも過度につり目でなくおとなしいがむしろ上品でその穏やかさがメルセデスらしい。



視界・扱いやすさ

 全長4.7メートル、全幅は1.78メートル。日本の道にはちょうどいいサイズ。持て余さない適切な大きさに留める節度を言い換えるなら知性。ボンネットはほぼ視認できないがピラーの位置関係やミラーの視野などが適切で視界が優れ、車幅感覚もつかみ易い。




 スイッチ類の数は多いが整理されており、筆者のようなイチゲン客でもまごつかない。ウッドの仕上げは美しいが個人的には握る場所によって摩擦係数の異なる"コンビステアリング"は好みに非ず。計器盤はやや装飾過多で情報量ももう少し整理したほうが速読性は向上する。



インテリア

 適度にタイトなのはまさしくこのクルマがCクラスをベースにしているからでもあるのだが、同時にスポーティでパーソナルな空間、雰囲気作りに一役買っていることはいうまでもない。単身者、ないしは子供のいない、もしく子供の手が離れた夫婦というオーナー像が見えてくる。




 前席のサイズはたっぷりとしていて革の張りもしなやか。しかし以前のメルセデスのようにクッションの厚みやストロークがたっぷりとしている印象はない。だからといって優れていないというわけではなく、考え方を変えたのだろう。要点をしっかりと押さえてくれ、よくフィットする。調整幅も大きく身体や運転スタイルに合わせやすい。




 後席はほどほど。筆者が前席でポジションを決めて後席に乗り込んで、坐れないわけじゃないが広々としているわけではない。前席優先。パーソナルカーだからそれでいい。そう考えれば充分。シートの作りも目的以上に立派。




 奥行き十分のトランク。プライベートな旅行にも使える容量も必要だかそこは満たしている。



エンジン・トランスミッション

 3.5リッターV6エンジンはこのシャシには少々リッチ。それもまた高級パーソナルカーの条件のひとつだ。静々と上品に立ち振る舞うがいつだって機敏にもなれる。7段オートマチックは滑らかで継ぎ目を意識させず、完成度の高い動力系。




 しかしもはや世代の古いエンジンと考えるべきだ。小排気量エンジンやハイブリッドなど、メルセデスはもっと新しいことを視野に入れている。



足廻り

 Cクラスをベースにしていると考えると大幅にアップデートした走り。特にステアリング系の動作精度向上がはっきりとわかる。雑な振動やキックバックがさらに丁寧に取り除かれきわめて滑らかになった操舵感、それでいて必要な情報だけが厳選されて手のひらに伝わる。同時に飛ばしても不安が少ない。おおいに高級。じつに洗練されている。




 スパンの長いアームが常にフラット、時に鷹揚とした立ち回りを披露するのはメルセデスの基本として、アームやその組み付け剛性の高さが「柔」の中に確実に存在する絶大なる「剛」を印象付けている。しなやかにしてしたたか。真似の出来ない手練。唯一気になったのはBSポテンザブランドのタイア踏面が硬めなこと。ピレリP7あたりとなら相性が良さそう。



総評

 機械的な完成度や味付け、優れたデザインや雰囲気作りなど、メルセデスの作るパーソナルクーペとして、文句ない仕上がり。ただ上品なだけではなく内に秘めた精神性の豊かさを表現したデザイン、ただしなやかなだけではなく同時に骨太で心から信頼を置ける足さばき、最新ではなかったが滑らかで力強い動力系...クルマを降りてすぐには当たり前に「良く出来ているクルマ」でしかなかったが、言葉にすればするほど、どの部分を切り取っても高いレベルであることがわかる。






 優れた製品には相応の品位や精神性や哲学があり、それに深く共感できる自分がいて、初めて所有する意味や値打ちが発生する。誰もが所有できるわけではないメルセデスではあるが、それだけに、深く共感できる人にこそ相応しい。



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試乗データ

試乗日:2010年5月12日
試乗車:メルセデスベンツE350クーペ (車両本体価格:8,600,000円、OP別)
型式:DBA-207356
駆動方式:FR
全長×全幅×全高:4705×1785×1395mm
ホイールベース:2760mm
車両重量:1670kg
トランスミッション:電子制御7速AT・ティップシフト付"7G-TRONIC"
ボディタイプ:センターピラーレス3ボックス2ドアクーペ
ボディ色:オブシディアンブラック
内装色:ブラック/本革
装着されていたオプション:ラグジュアリーパッケージ (300,000円、下記含む)
                本革巻ウッドステアリング&シフトノブ
                マルチコントロールシートバック(前席)
                シートベンチレータ(前席)
                パドルシフト



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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。








前田恵祐


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