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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#056 舶来マーチの実力は・・・

日産 マーチ 12G 試乗インプレッション(2010.8)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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エクステリア

 あれだけ街に溢れ返ると特徴もなにもなくなってしまうが、旧マーチはとてもデザインに力を入れたクルマだった。安いクルマのデザインがいい、というのは気持ちがいい。安いからといって気を抜いたところがなく作る側の心意気が伝わる。旧マーチにはそうした快さがあった。




 8年前にデビューした旧マーチを基本的に引き継いで各部手直しをしたというのが新型マーチのデザインと考えていいだろう。キープコンセプト。というか、今回はデザインよりもとにかくコストがかからないことが大命題だから、デザインや質感は最重要ではないようだ。よく観察すると旧型よりプレスワークに凝っていない。




 グリーンハウス上辺は弧を描いているが、ルーフはしっかり真っ直ぐ後ろまで伸びている。つまりリアヘッドルーム対策きっちり。




 顔と後ろはちょっと普通になった。いくらか気にして観察してみたが、タイ製になったからといって塗装が大幅に悪いということもないし建て付けやドアの閉まりが安っぽいこともない。すくなくとも新車状態ではまったく遜色ない。



視界・扱いやすさ

 いたずらに長きすぎない、広すぎない、クルマが身体の延長上にあるという感覚。小型車の特権だ。視界のよさ、見切り易さ、視点の位置、すべて当たり前のように揃っている好要素だがじつはなかなか得がたいこと。歴代マーチの伝統。ウエストラインは低くサイドミラーは大きく見やすい。前輪の切れ角も大きくもう一歩切り込みたいときにきっちり応えてくれる。小回り性は充分以上。





インテリア

 ダッシュボードの配置やデザイン、配色など、外観のそれと歩調を合わせるようにややフツウになってしまった。これもコストとの兼ね合いということなのだろう。made in Thailand になったことで目に見えて品質が下がった印象は室内にもなく、個人的にはそういわれなければわからないレベルだと思う。ただし、素材の耐久性は5年や10年、使ってみないと結論は出ない。




 シートのサイズは旧型より大きく感じられる坐り心地、とはいえ例えばキューブのようにリッチなしなやかさがあるわけでなし、ごく当たり前に疲労を和らげ身体を支えるという目的を一番に仕立てられている。運転席のセンターアームレストはやや位置が高い。




 リアシート。率直に言って絶対的スペースでは躍起になって広く作っている軽自動車は手強い存在。価格競争ゆえに自ら軽自動車に近寄って行き過ぎるのも危険ではないかなという気もする。センターに3点ベルトは備えるがヘッドレストはない。



エンジン・トランスミッション

 1.2リッター3気筒+CVT1本。トヨタのダイハツ製3気筒もよくできているなと感じたが、このクルマを前にするとややかすんでしまう。1リッター以上の稼動回転部品の質量が大きくなる(=振動が出やすい)3気筒エンジンと考えるときわめてスムーズで静か。いい仕事をする。軽の3気筒とも格が違う。・・・と思えばバランスシャフト付でしたか。




 アイドリングストップはハンドル操作でもリスタートセンサーが働き、レスポンス良く例えば右折時にも不安は少ない。信号待ちで周囲のクルマのアイドリング音が聞こえてくると”ECO”な自分に小さな優越感。そのうちこれが当たり前になるのだろう。ハイブリッドでこそないが、できることからやるのが大事。ただしこのシステムが備わるのは現状FF車の12X、12Gに限られ、ベースグレードや4WDにはオプションでも選べない。



足廻り

 ハンドルは軽くアシも柔らかめ。例えばフランス車のような柔らかくもユッタリとした味を出すにはダンパーにカネがかかる。完全にそれを再現しているわけではない。昨日シトロエンに乗った後だからなおさらタイミングが悪かった。それでも国産車にしてはしなやかに設えてある方。パッソと比べるとノイズや振動は少なく洗練されておりすこし上質。フツウに走る分にはおおむねストレスの少ないシャシ。それで充分。そうそう、ブレーキの効き味、あいかわらず、ここ最近の日産車の例に漏れず剛性感があってよろしい。





結論

 マーチは歴代「下駄グルマ」であるからそもそも多くは望まない。多少安っぽくともストレスなく走りそこそこ便利に使えれば個人的には文句はない。3気筒エンジンにアイドルストップという今なりの技術は携えた。しかしこのクルマが例えばあと8年生き残れるか(マーチは歴代、概ね8年周期でFMC)と問われればやや不安もある。より”進んで”いる必要もあったのではなかったか。常識的だが進歩的でない面がどこか消極的に感じられる。もっとも、これから磨きがかかり”進化”していく、とも取れるのだが。


 試乗した12Gグレードで140万円台半ば、150万円に届く車両本体価格。個人的には劇的に安いとは感じない。このことから見えてくるタイ生産へスイッチした真意とは、日産が保有する資産を整理することによる効率経営や安定供給体制確保にあり、販売価格を下げるというよりあくまで会社内部の都合。乱暴に言えば、日産は一人で喜んでいるだけである。ましてや国内生産でなくなったというだけでただでさえ厳しい国内雇用情勢をさらに圧迫する。実際のところこの施策でどれだけの人が”影響”を被ったのか詳しくは知らないが、新マーチのキーワードの一つである”高効率・低コスト化”の裏側にはもう一つ”リストラ”という文字が存在するのもまた事実である。クルマ本体のみならず、社会情勢にも深くかかわる新マーチの立ち位置。自動車産業とは元来そうした側面もあるものだが、折角の新車なのにどこか素直に喜べないのは私も雇われて勤め、会社の都合で”簡単に左右されうる側”にいるからだろう。






 最後に珍しくベストバイを私見で。最安の12S(本体価格、以下同999,600円)でも充分な装備を持ちこれ以上は贅沢というくらいだが、肝心のアイドリングストップ機構を持たない。OPでも選択不可能。となると、12X(1,229,550円)となるだろうか。最上級12Gのオートエアコン、オートライトは、庶民(私)には贅沢品。庶民は横着はしないのだ。唯一12Gの装備群でほしくなるカーテンエアバッグは全グレードでOP展開しており、良心的。でも折角後席中央のシートベルトは用意したのだからヘッドレストくらい端折らないでください。タイ製、しかしくりかえすが、”新車状態”での品質になんら不満はない。



 最後にもう一つだけ。12SRのようなクルマも、ヨロシク。



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5段階評価:★★★
☆☆




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試乗データ

試乗日:2010年8月19日
試乗車:日産マーチ12G(車両本体価格:1,468,950円・OP含まず)
型式:ニッサンMT DBA-K13
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:3780×1665×1515mm
ホイールベース:2450mm
最小回転半径:4.5m
車両重量:960kg
トランスミッション:エクストロニックCVT
ボディタイプ:5ドアハッチバック
ボディ色:クリスタルライラック(TPM) <#KAS・特別塗装色>
内装色:ブラック/アイボリー
装着されていたオプション:
 日産オリジナルナビゲーション(HDDタイプ)
 フロアマット



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メーカーサイト
http://www2.nissan.co.jp/MARCH/


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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。









前田恵祐


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