トヨタ FJクルーザー ~ 試乗インプレッション(2012.5)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください
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2006年北米で販売開始。その頃から並行モノが一定の台数日本に入っていることを知っていたから、いまさらの観も無きにしも非ず。でもお遊びとしては面白い、かもしれないFJクルーザー。しかしその主たる顧客を北米と設定したがために、少なくともこの日本で取り扱うには少々障害がないではない。これがせめてひとまわりと言わずふたまわりは小さいRAV4がベースだったら、とはデビュー当時から感じていた。そうであったならこの手のモノを結構キライじゃないヨーロッパ向け横置き用ディーゼル等、それなりに品揃えのあるトヨタだけに、より「広範囲」で積極展開できただろうにな・・・と。
■ エクステリア
一見愛嬌のあるデザインだが実際は小山のような大きさ。ヨソの国では大いに流行っている「ヘリテイジ」モノとして、では日本車の中から何があるかと考えていた時に並行モノのこれを初めて見た。「そうか、この手があったか」と思った。ニュービートルのようなイージーな雰囲気やノリはヨシとして、しかしそれがアメリカンイージーだからなんせデカいのだ。
ドアはRX-8と同じような観音開き。基本的に2ドアなのであって、後述する後席スペースからいってもこのクルマはパーソナルカーという位置づけとわかる。
試乗車はソリッドレッド一色の「レッドカラーパッケージ」。これと入れ替わりで落とされた小豆色はちょっと古めかしくて気の効いた色あいだったのに。ルーフが白い標準仕様はかつてのランクルのルーフが樹脂製であったことをなぞらえたものだと聞いたが、この赤ならアイボリーとか、アルミシルバー、あるいは黒のようなルーフ色でも映えるのではないか。色々と想像をかきたてられる楽しさがある。・・・っていうか、もしかして消防署?(笑)。実際山奥の消防署向きかもしれない。気の効いたジョークにもなりそうだし、走破性もそこそこあるだろうから充分に役にも立ってくれよう。
■ 視界・扱いやすさ
平板に近く角度の起こされたフロントガラス越しの風景は独特。視点が高いのは言うまでもなく、ボンネットも視認出来るから、1900mm超えの全幅にして取り回しはそれほど億劫ではない。それにしても小さく見えるハンドル。室内幅が広いというものあるが、このへんもあえて現代化せず大径のものにしたらよかったのに。パワーウインドウは降りる時だけがオート。これはアメリカ式なんだそうな。しかしアベンシスのウインカーレバーの位置といい、これといい、最近のトヨタはきめ細かさが後退してやいまいか。
Aピラーはやはり今の車だからこれだけある、とはいえ、見てくれがイカガな代物のボンネットミラーなどで視界をフォローする。
■ インテリア・ラゲッジ
大ぶりな前席にゆったりと座る。かけ心地は柔らかく乗用車的。しかしまぁ、黒と赤を使うのはまだしも、色分けがこうも凡庸なのはどうなんだろう。当たり前じゃないコーディネートこそ、こういうクルマに必要だと思うのだがいかがか。エンジやモスグリーンなどのカラーで使い古したような処理を施したレザーなど、似合いそう。
前席ヘッドルーム:こぶし1つ+アルファ
後席。横方向のスペースはあるが、前席バックレストが迫って足元が狭い。空間的にはスクエアで視野的な圧迫感はないが足元だけが狭い。やはりパーソナルカー。
後席ヘッドルーム:こぶし1つ+アルファ/膝前:手のひら2枚
エクストレイルのようにウォッシャブルなラゲージ。後席よりラゲージ、というスペース配分。
■ エンジン・トランスミッション
4リッターV6エンジンは、系統的にクラウンやマークXと同じものだが印象はずいぶんと異なる。大味なフィーリングでブワーンと回る。昔からトヨタの四駆はこういう音がした。懐かしい。車輌重量に対してパワー、トルクは充分と見えて5段オートマがあまり慌しさを見せずに悠然と引っ張る。まさにクルーザー。これはこれで快適。レギュラーガソリンで走る。
でもこういうモノにこそ新技術としてクリーンディーゼルなどが載っていたりするとさらにポイントは高かったかもしれない。2006年に発売(海外)になって、細かな仕様変更はあったにしても大きな進歩がない、新たな見所がないというのはザンネン。
■ 足廻り
試乗車はノーマルサス。他に本格的なビルシュタイン仕様、4輪の対角線上に油圧系統を配し車体を水平に維持しようというシステムも選べる。走りはもっと"オフロードカー"をイメージさせるかと思っていたが、想像よりずっと乗用車的。オフロードを行くにはシャシやフレームの頑強さとともに、サスペンションパーツにある程度の遊びを与える方向で路面を柔軟に捉えようとするのだが、その弊害としてやたらブカブカな印象の足さばきになってしまうものだった。その点このクルマはスッキリと引き締まっていて、長いストロークによる鷹揚とした、大らかな良い部分だけを抽出している。普通に街で使う分にはこの種のものとして十二分に洗練された、快適なアシになっていると思う。
オフロードにおいても、ランクル系の評価の高いコンポーネンツを基本としているから、おそらくやキチンと走ってくれるのだろうが、でもあんまり道なき道を行くのも「自然破壊」に繋がりますからホドホドに。
■ 結論
機械としての洗練は現代のクルマの、一応の水準。オフロードでも走破性を発揮するだろう。しかし個性的なデザインその一点を理由にこれを買う、そういう買い方も充分アリ。ただ、個人的にはもう少しエンジンバリエーションが手厚かったりすると「オオッ、ヤル気だな」と一目置ける存在になったと思う。メーカーがきちんと日本仕様として売り出すからには、ただハンドルの位置を変えました、というだけではアピールが弱いのではないだろうか(もちろん変わったのはハンドル位置だけではない)。ま、あれこれやらなかった、そのおかげで買いやすい値段を実現した、という側面は確かにある。でなければ並行モノに対して強気になれる要素もないだろう。
そうして走り出した日本正規仕様のFJクルーザー。しかしイマイチこのクルマを正規販売する目的がわからないままなのだ。というか、クルマ好きとしてどうも腹に入らない。"レア物"として目敏く並行モノを乗り回すカッコ良さこそ、日本におけるこのクルマのありがたみというものだったのに、4年も遅れて開始した正規販売は"レア物"としてのカッコ良さ=値打ちを大幅に後退させているだけではないか。まだしも、"レア物"というカードを失うとFJクルーザーに2010年代の新車として残るカードがあまり多くないのもイタい。せめて「今回はやめにしておく」という自制心がないトヨタはやはり無粋というものだ。四季ある日本人はコトのほか「旬」に敏感である。そしてFJクルーザー(正規版)は明らかにその「旬」を逃していると私は思う。
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■ 5段階評価/★★☆☆☆
・メーカー自ら旬を逃した無粋(-2)
・もっと小さければ...(-1)
・エンジンバリエーション(-1)
・内容からすると買いやすい値段(+1)
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■ 試乗データ
試乗日:2012年5月30日
試乗車:FJクルーザー レッドカラーパッケージ(車両本体価格:3,240,000円)
型式:CBA-GSJ15W
エンジン:1GR-FE
トランスミッション:5段オートマチック
駆動方式:パートタイム4WD
全長×全幅×全高:4635×1905×1840mm
ホイールベース:2690mm
最小回転半径:6.2m
車両重量:1950kg
10・15モード:8.4km/L
ボディタイプ:5ドアSUV
ボディ色:レッド<3L5>
内装色:ダークグレー/レッド布
装着されていたオプション:
サイドステップ(31,500円)
アクティブトラクションコントロール(10,500円)
UVカットプライバシーガラス(リアドア・リアクォーター・バックドア)(15,750円)
リアワイパー(14,700円)
リモコン大型ドアミラー(ヒーター付)(5,250円)
フロアマット、カーペット(31,500円)
スマートナビ「NSZT-W62G」(179,550円)
バックモニター(28,350円)
ETC車載器(22,785円)
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■ メーカーサイト
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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。
前田恵祐
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