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#120 輸入車にはすぐに飛びつくべからず

VWポロ 1.2TSIコンフォートライン ~ 試乗インプレッション(2013.5)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 2009年11月、現行ポロが導入された直後、TSI採用前の1.4リッター版に試乗している。クルマとしての骨子ははっきりと理解できたし、VWの底辺域を担う実力派であることは確認した。しかしそれはあくまで暫定版でしかなかった。ポロの本命は1.2リッターTSIが積まれてからだと当時の原稿もそう結んでいる。遅ればせながらそのTSIコンフォートラインにしっかり試乗できたので印象を報告しよう。



エクステリア



 VWのトレンドとなっている角型ヘッドライトに控えめなグリル。中央に堂々とVWマーク。以前にも書いたことだがポロというクルマが持っていた合理性に対するこだわりはちょっと薄くなった観がある。





 以前のモデルはもっとキャビンを大きく四角く採っていた。キャビンを前進なさしめないのはひとえに衝突安全のためだろう。





 シンプルなリアデザインだがポロであると一目にわかる。灯火類の細工もそれに効いている。




視界・扱いやすさ




 充分な運転視界に明快な操作類。VWの文法どおりの仕上げになっている。ドアグリップなどに施していた、時間が経つとベトベトになる樹脂の仕上げをやめているのは賢明。パワーウインドウは全席ワンタッチ。ラチェット式のシートリフターとダイアル式バックレスト調整、チルト/テレスコピックステアリングも備わる。




 左Aピラー方向視界。フロントガラスは立っているが、サイドウインドウのラインはかなり傾斜している。こうしてピラーの強度を稼いでいるのだろう。




 左斜め後方視界。シックスライトが効いて、よく見えているほう。



インテリア・ラゲッジ



 黒一色の、良く言えば落ち着いて無難な、悪く言えば暗いイメージのインテリア。しかしこれもドイツ車のカラーというものだ。汚れは目立たないし、テキスタイルもザックリとした平織りでフィット性、通気性も優れる。前席のかけ心地は硬めだが時間と共に身体に馴染みサイドサポートも充分。尻と腰に当たる位置の硬さのバランスがよく快適。サイズはちょっと小ぶり。もうすこし後傾角があるとなおよし。

前席頭上空間/こぶし1つ+アルファ


 後席の唯一の不満はスペース。足元も頭上も空間はミニマム。4m以内の全長に諸々を収め、そして対歩行者も考慮したボンネットから前の衝突安全基準を満たすには、ここにシワ寄せが来てしまったということか。

後席頭上空間/頭は支えないが髪が天井に触れる
後席膝前空間/こぶし1つ




 ラゲッジスペースに心なしか余裕があるのは後突対策? ラゲッジをもう少し犠牲にして後席にまわしてもいいような気もする。



エンジン・トランスミッション



 このクルマのハイライトはこのSOHC2バルブ、シングルチャージャーのTSIエンジン。パサートやシロッコでもこのシリーズの過給小排気量エンジンの実力を確認してきたが、このクルマにあってはその存在感はひときわ大きい。コンフォートラインというグレードはいうなればベースグレードだが、エンジンのパフォーマンスには余裕どころか力強さも加わって、まるでスポーツグレードのようにキビキビと、また伸びやかに走ってくれる。これは2009年に乗った1.4とは比べ物にならない。またTSIにはアイドリングストップシステムが備わり、これのレスポンスもまったく不満はなかった。




 街中の流れに沿って走ると1速ギアはすぐに2速に上がって、それでもそこからの加速は余裕たっぷり。特濃トルクがグイグイと前へクルマを押し出してくれる。トップギア7速/70km/hで2000rpmを下回るクルージング状態からでもそのままのギアを保って走行車線から追い越し車線への移行をスムーズに行なえる。DSGの洗練度もかなり上がっていて、乾式クラッチを感じさせる発進時以外はまったくスムーズで変速動作も非常に速く、ワインディングロード等ではブレーキングとマニュアル操作によるダウンシフトをダブらせるなどして小気味良いスポーティな走りを楽しめる。



 市街地5:高速3:ワインディング2、おおよその割合で走った試乗燃費は13.5km/Lであった。



足廻り

 サスペンションストロークが短めで、姿勢はバネの硬さで保つタイプ。故にゴツゴツした印象になるのはなにもこのクルマに限ったことではないドイツ車の常である。ロールセンターが低めでしかもロールスピードもちょっと速いから思ったよりグラッと来る印象もある。そんな時、シートのサイドサポートの有効性を感じるのだ。2009年の1.4はソフトライドでかつフラット、新境地かと思わせたが、このクルマに乗って、「ああ、やっぱり元の硬いのが評判なんだな」と感じたしだい。高速域でタイアがバタつく、言い換えれば靴がやや重いような印象があった。185/60サイズのタイアが標準だが、ワンサイズ細いものに履き換えることで改善するかもしれない。




 ハンドルは電動油圧ポンプを用いたパワーステアリングで、適度にどっしりとした手応えと充分なインフォメーションを手のひらに伝える。この点でも2009年の1.4との違いを感じる。ハンドルの径はちょっと大きめで、しかもハンドルの操作力は軽い方ではないからこの点はやや流行に逆らっているか。個人的にはポロのような仕立てのほうを好む。



結論

 輸入車の年次改良というのは思った以上に大幅なものになっていることが多い。今回は以前乗った2009年登録車との比較で3年半のブランクがあるからその違いがはっきりと見えた。だから輸入車は新型が出たからといって慌てて飛びつかないに限る。2009年のポロは、やはりどこか出たてのためかいまひとつ考えがまとまっていないようなところがあったし、ハードウェアの面でもまだまだ煮詰め不足と感じられたところ(主にエンジン・トランスミッション)もあった。それが年を経るにつれて顧客からの声も反映されるなどしてクルマとして完成形に近づいていく。まさしく最新のポロはその状態にある。




 また、輸入エコカーという側面で、前回試乗したイプシロンとの比較も面白い。あちらは900cc2気筒まで削っているが、ポロの現代的にスムーズで静か、洗練された乗り味なのに対して、イプシロンはバタバタブルブルとエンジンの鼓動を感じさせ、トランスミッションもシングルクラッチの比較的世代の古いものだ。しかしそれはそれで乗って面白いし、退屈させない。洗練と楽しさ、ここにもゲルマンとラテンの違いがはっきりと見えてくる。どちらがより良いかというより、どちらもそれぞれに魅力があり、国情を少なからず反映している。舶来品としての色や香りの違いを見極めて、その上で決めればまた輸入車の楽しさが広がるというものだ。 



10項目採点評価

基本ポリシー >>> 9
スタイル/インテリア >>> 7
エンジン/トランスミッション >>>10
NVH >>> 7
ドライバビリティ >>> 9
スペース >>> 7
気配り度 >>> 8
先見性 >>> 9
完成度 >>> 9
バリューフォーマネー >>> 8



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試乗データ
試乗日:2013年5月23日
試乗車:ポロ 1.2TSIコンフォートライン(車両本体価格:2,190,000円)
型式:DBA-6RCBZ
エンジン:CBZ
トランスミッション:7段AT(乾式ツインクラッチDSG)
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:3995×1685×1475mm
ホイールベース:2470mm
最小回転半径:4.9m
車両重量:1100kg
タイア:185/60R15
JC08モード:21.2km/L
ボディタイプ:5ドアハッチバック
ボディ色:フレッシュレッド(D8)
内装色:チタンブラック(HX)/ファブリック





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メーカーサイト




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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。
前田恵祐



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