この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください
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CLSクラスがデビューした10年前、「ああやっぱりトヨタは見る目があったんだな、カリーナEDは先見の明だったんだな」と感心した。4ドアでも屋根を低くして流線型を採る”カッコつけ”を欲するのはなにも日本人だけではなかった。そういう意味ではトヨタというより、日本人の美意識が先を行っていた、ということか。CLAはつまりCLSの小型版。FFのシャシをもつAクラスやBクラスの亜種。2013年にデビューしているが、アジア市場ではほとんどが中国向けの割り当てとなり、日本ではあまり積極的なマーケティングが行われていなかったという。
■ エクステリア
現行W205系Cクラスはこれとほぼ同じテイストのデザイン。サイズもCクラスとほぼ同じ。その割には屋根が低い分狭いし、しかも格下感の否めないFFベース。ましてや決定的にこちらのほうが格好いいというわけでもなく、イマイチ中途半端。
FRのCクラスのほうがずっと伸び伸びとデザインされている。CLSは屋根だけが低くてアンバランス。
FFの寸詰まりの採寸に流線型のフォルム、造形を押し込んだ印象。どう考えても無理矢理縮尺をイジらなければならなかったわけで、なんともイビツな出来上がりになってしまう。CLSのミニチュアとしてはやや消化不良。
■ 運転環境
ステアリングコラム右側から生えているシフトレバーは慣れると極めてイージー。駐車ブレーキは右膝あたりのダッシュボード下面に位置しており、いわゆる電気式。したがってセンターコンソールは物入れとナビのコマンダーがあるのみだが、イマイチ新しい空間性の提案はない。メーターパネルは文字盤がシルバーでやや目に煩い。オーディオの操作系はスイッチの形状がどれも同じでわかりにくい。逆にエアコン操作は簡潔。操作系はCクラスの方が熟れている。全席ワンタッチのパワーウインドウ。
Aピラーはフロントガラスへの角度と黒の着色で映り込みは最小限。運転席からはボンネットを視野に収めることができ、取り回しのしやすさに寄与する。さすがこういうところはちゃんとしている。
開口面積はリアガラス、リアドアとも小さく、しかも後席ヘッドレストは固定式の大型タイプできわめて「実用的」だから、すなわち斜め後方目視確認時の視界は限られている。
■ インテリア・ラゲッジ
Aクラスと基本的に同じ構成のダッシュボード。それは不問としても、せっかくのカッコつけ用のボディなのだから内装のトリムなど、もっと選択肢があってもいいのに。黒のコンビ革とフルレザー、180にのみブラウンのレザーがあるだけというのは、割高な車両代金を支払うことに疑問を抱く材料になるのではないだろうか。
前席は一体型ハイバックタイプ。サイズ形状ともまず不満はないが特別感動する出来でもない。トヨタ車よりはマシかなというレベルに留まり、かつてのように心を豊かにしてくれるような座り心地には程遠い。
・前席頭上空間/こぶし1つ
後席のシートサイズ、形状、角度、座り心地とも特に不満はない。ヘッドレストも固定式だがちゃんと実用レベル。カッコつけボディ故に後席スペースはかなり犠牲になっている。エクステリアの項でも触れたが、同じテイストでサイズもほぼ同じ、しかもより熟れた(こなれた)デザインをもち室内も充分に広く、値段もCLAを考えるなら手が届かないわけではない現行W205系Cクラスの方がお得ではないか。
・後席頭上空間/屋根に髪が触れる
・後席膝前空間/こぶし1つ
トランクスペースは全方向にゆとりがあり、なぜか広い。後席はあれだけ割りを食っているのに、トランクはこんなに・・・という感じ。
■ エンジン・トランスミッション
ああ天下のメルセデスもツッカエ棒でボンネットを支えるようになったか。2リッター4気筒直噴ターボに7段DCTという組み合わせ。静かでトルクがあり、トランスミッションのレスポンスもいいから、情熱的でこそないがお望みのままに走る。変速動作と変速ショック、また振動騒音のコントロールは行き届いており、同じ横置き前輪駆動のフォルクスワーゲンあたりとは格の違いを見せ付けられる思い。
ほとんど市街地走行、ストップアンドゴーの連続だとメーター読み7.3Km/L。しかしこれはブツ撮り時にもアイドリングしたままだったからでもある。実質9Km/Lには届きそうな雰囲気。
■ 足廻り
CLAは”カッコつけボディ”だから全車18インチホイール標準。試乗車はコンチネンタル・スポーツコンタクトSSRを履いており剛性感が高く、ややゴツゴツした印象が残った。しかしさすがにボディコントロールには長けており、大きなうねりや凹凸にもアシが綺麗に動いて上屋は安定しており、例えば高速コーナーリング中の鋭い入力にもまるで姿勢や進路を乱す素振りも見せない、そんなしたたかさとしなやかさを持ち合わせる。洗練された、いわゆるメルセデスの走りで、以前乗ったBクラスよりレベルは高い。
■ 結論
率直言って、もう少し安くないと説得力は薄いかなと思うが、特に足回りの洗練度は実際に安いモデルより洗練されているし、ただ安易にFFベースのコストダウン式”カッコつけボディ”をこしらえた、というわけではなさそうだ。しかしベーシックな何もついていないCLA180(1.6直4ターボ、344万円)はともかく、CLA180でベーシックPKG+AMGラインのオプション(62万円)を選択するとベーシックなC180(1.6直4ターボ、419万円)に迫るし、試乗したCLA250(2リッター直4ターボ、486万円)の価格はC180アバンギャルド(1.6直4ターボ、467万円)を超える。だったらケチケチせずに後輪駆動の、メルセデスの本道ともいうべきクルマ作りであるところのCクラスを気前よく買ってしまいたい。
というわけで、販売戦略上自ら難しい選択肢をユーザーに与えてしまっている気がする。昔のように、メルセデスとしてこのクラス、この価格なら「コレです」という迷いのない堂々とした商売になっていない。AやBよりアシは洗練されてますとか、ちょっと狭いけどカッコイイですとか、そういう細かい話は面倒くさい。そういう面倒くさい話を昔のメルセデスはしなかった。ただ一点言えるのは、やっぱりホンのちょっと今回のCLAよりは高いですが、Cクラスの方がのちのちの下取りは有利じゃないでしょうか、ということですね。
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■ 10項目採点評価
ポリシー >>> 6
デザイン >>> 5
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律度 >>> 9
運転環境と室内空間 >>> 7
ヒトへの優しさ度 >>> 7
卓見度 >>> 5
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 5
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■ 試乗データ
試乗日:2015年2月4日
試乗車:メルセデス・ベンツCLA250
車輌本体価格:4,860,000円
型式:DBA-117344
エンジン:1991cc直列4気筒DOHCターボ
トランスミッション:7G-DCT
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4685×1780×1430mm
ホイールベース:2700mm
車輌重量:1500kg
最小回転半径:5.1m
タイア:前後225/40R18(コンチネンタル・スポーツコンタクト)
JC08モード燃費:16.6km/L
燃料タンク容量:50L(無鉛プレミアムガソリン)
ボディタイプ:4ドアクーペ
ボディ色:650 カルサイトホワイト
内装色/素材:ブラック/レザーDINAMICA(レッドステッチ入り)
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■ メーカーサイト
メルセデス・ベンツ日本 CLAクラス公式ページ
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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。
前田恵祐
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