ガソリン車には7人乗り仕様もあるがこのハイブリッドはバッテリー搭載のためそれは不可能なうえ、ややラゲッジルームはかさ上げされている。ま、でもこれだけあれば十分でしょう。昔のハイブリッドカーに比べたら隔世の感。これからも技術革新は進み、デメリットは少なくなっていくはず。
■ エンジン・トランスミッション
既存のMR20DDエンジンにモーターを組み合わせたシステム。以前から感じていたことだが、日産のハイブリッドの走りは気持ちがいい。これもエンジン走行とEV走行の境目がほんとうにわからない。走行中、気が付くと頻繁にエンジンが止まっているし、しかもアウトプットがじつにスムーズ、なめらかで、どこかの某ハイブリッドのように加速中にギクギクしない。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。それくらい洗練度が高く、それは机上のシミュレーションに頼らない、走行実験による感性評価を重んじている結果だと思う。あるいはコンピュータシミュレーションでこれをやっているのだとしたら、なおさらスゴい。いずれにせよ、やっぱりこういうところは「さすが日産だねえ」と感心させられる。「技術の日産」にノウハウあり。
しかもそれでいて、市街地走行100%の試乗中の燃費はメーター読みで18.6Km/Lを記録する。1630kgの車両重量や4WDシステムを抱えた駆動系のロスを考えればこれは十分に満足すべき成果。こいつなかなかヤる。
■ 足廻り
基本的にハンドルは軽めでインフォメーションもそこそこなのは現代のトレンドとも言えるところだが、転舵以降のリニアさやなめらかさ、その時のロール運動の発生とその速度のチェックなど、じつによく調整され、振動騒音の減衰も行き届いている。誰もが驚くようなものではないが、一言で言うとナチュラルで素直、違和感なく気持ちよくドライブできる。目立った特徴はないが、このストレスのなさ、静かさ、スムーズさは長距離ドライブの疲労軽減に大きくモノをいう。運転していてイヤにならない。
またルノー系のプラットフォームの恩恵もあってか、車体やフレームといったクルマとしての骨格や土台をきっちり強靭に作りこんでおいて、その上でブッシュに頼ることなくバネやダンパー系をキレイに作動させることでフラットな乗り心地を得ているあたりも、ごまかしのない真摯な態度でこのクルマが仕立てられているひとつの証左となろう。ただし、タイアはやや燃費寄りチョイスになっているようだから、微振動、微小突起の処理にご不満な向きには多少燃費に目をつむって快適性重視のものに替えてしまうのも一興。さらによくなること請け合い。
■ 結論
クルマとしては、久々に日産の矜持を見せつけられたような、じつに正しい姿勢をもって丁寧に手間を惜しまずに作り上げられたいいクルマだ。デザインも個人的にはいいと思うし、運転環境、シート、内装の作りやデザイン、ハイブリッドシステム、足廻りに至るまで、ビシッと意思統一の図られた清々しい仕上がり。ここまで死角のない日産車は最近ではちょっと珍しい。営業・企画と設計・開発、そしてなによりそこに「実験」が噛み合うと、日産はじつは敵がいない。ただ、それらを取りまとめ、調整できる管理職が弱いだけ、という気がする・・・
・・・で、なぜこのクルマに「エクストレイル」の名を与えなければならなかったのか。はっきりいって、このクルマは従前のガサツなエクストレイルではもはやない。あれがよかった人にとってはモノ足りないだろうし、逆に出来の良い乗用車として色眼鏡なしにこのクルマを認識できている人にとっては、あの防水シートなんかには妙に違和感を感じたりしているのではないか。このへんのやや迷いのあるオペレーションが今の日産の、というか、日産は昔からそういうワケのわからないオペレーションを行なうのだけれど、とにかくその辺がやや足を引っ張っている。
このクルマの出来、この内容なら内装をもっと贅沢に、本革内装を奢ったり、カラーバリエーションももっと明るく贅沢な印象のものを与えたり、変にゴツイ金属調の化粧パネルではなく木目の方がしっくりくるんじゃないか、と思わせるような、そういう仕上がりと資質を持ったクルマだ。
例えばハリアーなんかよりずっと真面目で仕上がりも洗練されており、またハイブリッドもこちらのほうがはるかに出来がいい。ハリアーにぶつけてKO勝ちできるようなタマになっているのに、そう扱えていない、あくまでも従前の「エクストレイル」的なものに未練があるように思えて、そうしたあたりがビミョーにザンネン。でも、おおいににおすすめできる良い出来のクルマです。オプションの布シートで乗りましょう。ま、防水シートもこのクルマでなら本革っぽく見えてそれはそれで悪くない気もするけれど。
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■ 10項目採点評価
ポリシー >>> 9
デザイン >>> 8
エンジン・トランスミッション >>> 10
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律度 >>> 9
運転環境と室内空間 >>> 9
ヒトへの優しさ度 >>> 8
卓見度 >>> 7
完成度 >>> 9
バリューフォーマネー >>> 7
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■ 試乗データ
試乗日:2015年5月28日
試乗車:日産・エクストレイル 20Xハイブリッド エマージェンシーブレーキパッケージ
車輌本体価格:3,011,040円(OP含まず)
型式:DAA-HNT32
エンジン:1997cc直列4気筒DOHC直噴(MR20DD)+交流同期電動機(RM31)
トランスミッション:エクストロニックCVT
駆動方式:4WD
全長×全幅×全高:4640×1820×1715mm
ホイールベース:2705mm
車輌重量:1630kg
最小回転半径:5.6m
タイア:前後225/65R17
JC08モード燃費:20.0km/L
燃料タンク容量:60L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:4ヒンジドア+テールゲートのSUV
ボディ色:ブリリアントホワイトパール/特別塗装色/3P/#QAB
内装色/素材:ブラック/防水シート(セルクロス/フレーザークロス/パートナー)
装着されていたオプション:
特別塗装色(43,200円)
メモリータイプナビゲーションシステム(MP314D-W)(210,158円)
バックビューモニター(36,823円)
ETCユニット(26,050円)
デュアルカーペット(33,331円)
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■ メーカーサイト

http://www2.nissan.co.jp/X-TRAIL/
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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに「正解」を示しているつもりは全くありません。
製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。
前田恵祐
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