この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください
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100パーセント電気自動車の普及にはどうやら腐心しているご様子。充電インフラの拡充問題や航続距離の短さなど、正直言ってガソリン車やハイブリッド車と同じ使い勝手には、まだ至っていないと思う。例えばこのNV200を電気自動車にする意味は、主に導入した企業のイメージアップといったところだろう。そんな事情や背景を鑑みつつ、今回は「乗り物」としてどうなのか、いつもの試乗フォーマットで確かめてみる。
■ エクステリア
いわゆるハナ付きのワンボックスカー。このツマラナいデザインがこのクルマの用途を狭めているのではないだろうか。もう少し朗らかだったり優しい”表情”を与えるだけでも、ビジネスバンとしてのみならず、個人ユースでも受け入れられる素質というものが生まれる。そしてそれは、既存のワゴングレードのような「メッキパーツ」によるお化粧ではないことを知るべきだ。おトモダチのルノーが出しているカングーを見てみたまえ。
それ以前に、この種の、街中に数多くバラ撒かれる車種のデザインにはちょっとした工夫を加えるだけで印象が変わる。ユニークだったりファニーだったりすることで、街の景色が変わるというのもあるし、それを作っているメーカーに対する好印象というものも醸成される。そう考えるとこのデザインは本当にアイソもなにもない。楽しくもなんともない。せめて顔つきだけでもなんとかなればなあ。
へんにプレスを入れたりしなければ、たとえば木目を貼ってみたりという”お遊び”ができる可能性だって広がる。ちなみにスライドドアのレールの下のパネル、独立の一枚ではなくレールの上と一体の模様。ここはよく擦ったり凹ませたりする場所なので単一パネルとして分割しておいたほうが補修のしやすさは上がると思う。
たとえば、ガソリンエンジンのグレードで3列シートの最上級モデルを選んでも、NV200なら230万円台、総額300万円でお釣りが来る。そこへいくとセレナというクルマは昨今総額400万円クラスのクルマ。そんな高いクルマを買うお金なんて無いわよパパ、という家庭だってそれはあるだろう。それでも使い倒された中古のミニバンはイヤだし、むしろシンプルで使いやすく、明るくセンスが良くてしかも安い、そういうファミリーカーを欲する層は確実にいると思う。そう、や・は・り、ルノー・カングーのようなものを欲する人たちだ。
既存の商品ラインナップからでは見えていないような顧客層を、掘り起こせていない、あるいは客はいるのに提案できていないだけだと私は思う。既存のバリエーションでお仕着せして顧客を平準化しようとしてはいけない。新しい、今まで見えていなかった購買層の可能性を見出すのも、商品企画の大事な仕事だ・・・というようなことをここで口酸っぱく申し上げているのには理由がある。(後述)
■ 運転環境
ハンドルは手動チルトのみ。ハンドルはいたずらに小径化されておらず個人的にはこれくらいがちょうどいい。バンなのに革巻仕上げでしかもヒーターも内蔵する。シフトレバーは他の日産EV系と同じに見えて、操作ロジックはエンジン車に近い。駐車ブレーキは従来のフロアから映えるレバー式。エアコンはオート、操作部は簡潔。やはりこの種の”熱源”を持たないクルマにとって暖房は苦労の種のようで、なかなか暖まらない暖房よりも、電熱のシートヒーターをご利用ください、ということのようだ。パワーウインドウは運転席のみワンタッチで、後席サイドウインドウは開かない。
Aピラーはそれなりにシェイプされているが三角窓はあまり有効に視界を確保していない。心理的安心程度。そのピラーはフロントガラスにはあまり写りこまない。天候も良くなかったので検証に良い条件ではなかったが、ダッシュボードの映り込みも気にならなかった。ドアミラーはデザイン不在のおかげでよく見える。ボンネットは視認できないが四角いクルマなので車両感覚は掴み易い。
運転席からの斜め後方目視視界。各窓は小さい。ガラスは重たいからあまりガラス面積を増やしたくないというのもわかるし、あくまでもビジネスカーだから最小限の司会が確保されていればいい、という認識なのだろう。
■ インテリア・ラゲッジ
すっきりまとまっていて機能的。しかも安っぽくもなく、さらにはよくある乗用ミニバンのようにデザインの無駄なお遊びに付き合わされている感もなく、非常に好ましい雰囲気だと思う。エクステリアの項で書いたように、個人向けグレードを考えるなら、シートのファブリックとそのカラーリングをカジュアルでポップな印象にするだけでずいぶん雰囲気は変わると思う。プレミアムだなんだと、見栄っ張りな安物モケットなどではなく、ザックリとした感じの織物で、日産で言うところなら現行キューブの「フェザーグレー」のようなカラーにちょっとしたパステルのアクセント・・・ま、ルノーと被るからガイジンのお偉いさんから止められそうだけど。
はっきり言って、乗用車のシートというものがいかにマヤカシであるかを思い知らされるe-NV200のシート。平板で堅いが、腰と背中のカーブのフォローと確実な支持、また座面のガッシリとした着座感は思わず長時間、長距離座ってみたくなるタイプ。これだけでも十分以上に運転に身が入り、ドライバーを覚醒させる力があると思う。それにしても、どうして乗用車のシートはあんなにダラシないのだろうか。仕事でこのクルマに乗って、家に帰ると乗用車やミニバンに乗るユーザーはたくさんいるはずで、そういう人たちから、乗用車にもこういうシートを付けて欲しいという声は出てこないのだろうか。黙殺しているのか。あるいはこのe-NV200というクルマ、生産がヨーロッパ拠点なだけに、こういうシートになっているのか。
前席頭上空間:こぶし2つ
5人乗りとは言えバンなので後席はこういうつくり。3列シート人乗りのワゴングレードもあるが、100万円近く高い400万円台。やはり現実的にはガソリンエンジンのモデルということになろうか。
後席頭上空間:こぶし2つ
後席膝前空間:こぶし2つ
バッテリーは前側床下にあるため、荷室はほぼ影響なし。
■ エンジン・トランスミッション
率直言ってリーフの時に感じたような、意外性のある速さはないし、馬力も必要十分というレベルに留まっているが、それは1570キログラムという決して軽くはない車両重量も影響しているだろう。音もなく(多少はするが)スムーズに走り、回生ブレーキも適度に効くからスロットルだけのコントロールで車速を調整しやすく、その意味でもストレスが少ない。
試乗にはほぼいつものルートで15Kmほど、高速、一般道、山坂道と走った。リーフと比べるとやはり電費は不利で、半分くらいしか走らないとの由。
■ 足廻り
タクシーで後席に乗車したことがあった、それくらいの経験しかないNV200だったが、e-NV200の乗り味は明らかにエンジン車とは異なるものがあった。
まず感じるのは重厚感。これは上述のとおりバッテリーなどで重くなったことが作用しているものと考えられる。またそれに加えてエンジン車よりもシッカリ感がかなりあるように思う。それもそのはずで、EV化に当たって車体の剛性を向上させているという説明があった。だからバンなのに、アシがカタいのに、跳ねない。非常に心地よい、按配の良い堅さで、それはまるでがっしりとした骨格と筋肉を思わせ、安心感や信頼感にもつながる。
さらにいうと、感心したのがハンドルの素直さと正確さで、スポーツカーほどではないものの路面からのフィードバックがしっかりとあり、操舵感もしっとりとしていて、ノーズもキレイに向きを変えてくれる。一言で言うと運転するのがイヤでない。バッテリーが床下に収まっていたりして重心を下げることにも寄与していると思われることと、ロールセンターの設定も考えられていて、山道を走ってもつんのめるようなロールとも無縁。けっこう楽しめる。そしてこの点でもやはりヨーロッパ生産であることが影響しているのだろうか。日産車体生産の個体(ガソリン車)も確かめたほうがいいかも知れない。
ただし、やっぱりバンなので、ロードノイズはかなり侵入する。昔のバネットのように共振共鳴の嵐、ということはないけれど。
■ 結論
このような商用タイプのクルマで、ハンドルを握るのがイヤにならない、退屈しない、時として楽しめる、というクルマはけっこうある。マイナー前のプロボックスなどもまたハンドルを握るのが望外に楽しいと、一部のユーザーから人気のあるクルマだ。やはり業務環境を改善するという意味で、疲れさせない、退屈させない、あるいは、眠くさせない、というのは重要な項目なのだと思う。運転が楽しければ、クルマがストレスなく動いてくれれば運転行為に積極的になれる。e-NV200というクルマの走りとはそういう仕上がり。
その点、世の乗用車、とくにミニバンのハンドルを握ると家族サービスのことばかりで頭が満たされてしまうようなところがある。運転という行為からもたらされるべき「ドライバーへのサービス」が希薄なのだ。e-NV200(と多分NV200も)のようなシャキッと動いてくれる、反応してくれるクルマを知ると、世のミニバンが皆、自ら運転するクルマとしてはマヤカシでしかないということに気がつける。
何度も言うが、低価格で使いやすいミニバンを欲する層はいるはずだ。その層のニーズに応える、あるいは見えていなかったニーズを発掘するために、ましてや動的資質の高いこのNV200シリーズを使ってもっと実験的なことをやってみたらいいのにと思う。
内装をおしゃれなものに変えてみるとか、ボディカラーにポップなものを用意してみたりとか、いわゆるメッキ加飾のような見栄っ張り系でない、ナチュラルメイク系で飾らない、肩の力の抜けるような、あるいは若々しい、若いファミリーが思わず子供を連れてバーベキューやピクニックに出かけたくなってしまうような、そんな雰囲気を安価に提案するのも、今の家庭における厳しい財政事情を鑑みると、必要なのではないだろうか。
つまり、そういうバリエーション展開の可能性を考えてしまいたくなるほど、このクルマの「走り」や「機能」の部分はよくできているという証拠と思っていただいていい。
ちょっとした遊び心、ちょっとした心のゆとり、そんなものが垣間見れるだけで自動車メーカーの印象というのはガラリと変わって見えるものなのに、こういうところで妙に杓子定規で世知辛い、というあたりが某ガイジン社長(最近変わったようですが)の性格というものだったのかもしれないですね。
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■ 10項目採点評価
ポリシー >>> 7
デザイン >>> 5
エンジン・トランスミッション >>> 9
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律 >>> 9
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ >>> 8
先進性 >>> 9
完成度 >>> 9
バリューフォーマネー >>> 6
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■ 試乗データ
試乗日:2017年3月6日
試乗車:日産e-NV200 バンGX
車輌本体価格:3,741,120円(OP別)
型式:ニッサンMI ZAB-VME0
原動機:EM57
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4560×1755×1855mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1570kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前後185/65R15 92H XL(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
JC08モード交流電力量消費率:142Wh/Km
一充電走行距離:188Km
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池/総電圧360V/総電力量24kWh
ボディタイプ:5ドアバン
ボディ色:ホワイト #QM1
内装色/シート素材:ブラック・グレー<W>/ファブリック
装着されていたオプション:
日産オリジナルナビゲーション+バックカメラ(最新型でない)
フロアマット(SBR製)フロントシート用(5,452円)
フロアマット(SBR製)セカンドシート用(5,452円)
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■ メーカーサイト
http://www.nissan.co.jp/ENV200/index.html
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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。
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2017.3.6記
2017.4.22掲出
前田恵祐