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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#148 ファンが多かったのも頷ける


 日産プリメーラ 1.8Ci Lセレクション 平成5年型 試乗インプレッション (2014.10)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 もはやプリメーラというブランドが消滅してかなりの時間が経過し、プリメーラという名のクルマ自体、世の中から忘れ去られている感もある。事実中古車市場でもマトモな個体を選べるのは最終モデルのP12型でしかなく、それ以前のプリメーラはもはや絶無である。筆者は初代P10プリメーラを運転したことが無かった。最初の愛車を選ぶときに候補に入れておきながらハンドルを握ったことは無かった。それはちょっとだけ心残りだったのだが、整備中の我が家の愛車の代車としてなんとP10プリメーラがやってきた。おとなしい方の1.8リッター、しかしマルチポイントインジェクションにアップデートされた後期型である。



 エクステリア



 しっかりと全高を取りながらもツルリとした空力重視のデザイン。ウインカーレンズがアンバー色になったところ、1.8でありながらホイールが14インチであるところ、またリアのライセンスプレート部のブラックアウト化などが、1992年一次改良時の数少ない概観の変更点。




 この時代のヨーロッパスタンダード的なフォルム。




 一言に、味も素っ気も無いデザイン。しかしバブル景気に沸いて高級で豪奢なクルマが幅を利かせていた中、飾り立てることより内容で勝負するのだというスタンスがむしろユーザーのハートを捕らえたのかもしれない。



 視界・扱いやすさ



 やはりというか、今見ても洒落っ気のない、事務的なインテリア。当時としてもスイッチの数の少なさや配列は機能的で、余計なことに気持ちを奪われない、そういうブレのなさにポリシーを感じる。ハンドルはチルトのみ。パワーウインドウは運転席のみワンタッチでそのスイッチは前席ドアにそれぞれ分割されているのと、後席と助手席のスイッチはハンドブレーキレバーの脇にまとめてあるのが独特。エアコン操作は、温度がレバーで噴出し口選択がボタン。今のスマホ式よりずっと明快でブラインド操作も可能。エルゴノミックデザインの、この時代の日産車が皆採用していたATレバーは手になじむが、セレクターの動作はもう少し節度があったほうがいい。2からDに戻すときにNまで行過ぎてしまうこともあった。ま、ヤレかもしれない。




 パワーウインドウスイッチはこんな感じ。




 当時でも「寝ている」と言われたAピラー、しかし今見ると随分立っているように見える。太さも細い。まだ断面積確保に躍起になっていないころで、フロントガラスへの映り込みにも配慮が見える。




 Cピラーも細いし、薄い。全体的に窓の下端が今のクルマよりずっと低く、明るい室内。全方向、視界は本当に良く、それだけで運転しやすい。しかし、衝突安全を求められる現代のクルマでは実現不可能だろう。



 インテリア・ラゲッジ



 運転席はぎっちりアンコの詰まったコシのあるシート。腰も背中も尻もがっちり支えてくれる心強いかけ心地。残念なのはシートリフターがシートバックも連動するタイプでなく、ヒップポイント調整とともに腰の当たる位置がズレてしまうこと(とはいえ、腰部のサポートはいいので痛痒は感じないけれど)と、シートバックの高さが足りていないこと。見てごらん、リクライニングもダイアル調整。

・前席頭上空間/こぶし1つ




 後席は座面の長さがやや足りないと感じるものの、ヒップポイントは一段高いヨーロッパ流儀で視界良好。後席にヘッドレストを備えていることでLセレクションと判別できる。このあと、時を経るごとにコストのかかる後席ヘッドレストは姿を消す方向に向かう。復活したのは後突にうるさくなった最近のことだ。プリメーラパッケージと謳っていたわりに頭上空間はミニマム。前席シートバックポケットはマチ付の手の込んだもの。今のものは伸縮性のある布を使っており、モノを入れすぎるとだらしなく緩んで伸びてしまう。

・後席頭上空間/手のひらが入らない
・後席膝前空間/こぶし1つ




 5ナンバーボディでもこれだけのスペースを稼ぎ出すことが出来る。じつに広いトランクルーム。




 国内ではこのP10プリメーラで初めて見た外付けダブルヒンジ支持のトランクフード。



 エンジン・トランスミッション



 SR18DE型。前期型のシングルポイントインジェクションからマルチポイントインジェクションへ、またスロットルが4連化されながらも、N14型パルサー1.8GTIとは異なりレギュラーガソリン仕様とされ、出力トルクは125馬力/16.0Kg・m。P10プリメーラというと動力性能のより高い2リッター版の人気が高かった。筆者も1.8はおとなしい仕様と認識して乗り込んだのだが・・・とんでもない。


 ストレスなく実に良く回り、レスポンスが心地よい。マニュアルシフトしているとあっという間にレッドゾーンに飛び込んでしまう。またそうさせる要因として、音や振動に不快感がなく、回り方が気持ちよいことと、確かに喧しくはなるがトップエンドまで馬力が落ち込むことなく、フルに使いきれる出力特性によっている部分が大きいと思う。つまり、一言で言うとクルマが「回せ」と言ってくるし、ややローギアードなATともあいまって、積極的にマニュアルシフトしてトバしたくなるのである。


 こいつは確かにマニュアルギアボックスがほしくなるが、しかしATでも充分以上にスポーティだ。特に日常的に追い越し加速などでよく使う3500rpmから4500rpm付近の威勢のよいサウンドとレスポンスは、積極的にそこを使いたくさせるに充分なだけのものがある。かといって、おとなしく走ってダメかというとそんなことはなく、低速から充分なトルクを発し、軽快なピックアップと上述ローギアードなAT、そして低回転域での静粛性も高く、実に快適だ。


 自動変速に任せたときのシフトスケジュールとロックアップも効果的で、まず、シフトショックが少ないことと、スロットルひとつでの速度調整、微妙なサジ加減にも過剰にキックダウンを誘発することなくきちんと応えてくれるだけでなく、反面クイックに走ろうと思えば素早く反応してくれる・・・そうした細かい部分の煮詰め、洗練度が高い。2リッター版は電子制御だがこちらはそうではない。しかし良く出来た4段AT、細部に神は宿るとはまさにこのことだ。



 足廻り



 P10プリメーラの見所のひとつ足廻り。この個体、10万キロ目前とあって、ステアリングラックブッシュのへたりからか、ややセンターの甘さはあったもののさすが前輪マルチリンクサスペンションは伊達ではなく、微小舵角から切り込んだ時の手応えやインフォメーションの正確さ、保舵力とヨー発生プロセスのリニアさは見事で、評するならスポーツカーのそれだ。


 フロントの確かな接地感とリアのしなやかな追従をもってどのコーナーにも自信を持って飛び込めるし、トラクション、ブレーキング、どの運転操作にもきれいに、かつ正確に応えてくれる。だからクリッピングポイントにあと何センチ深く突っ込めるかという、細やかで頭脳的なドライビングになっていく。ブレーキングもただ止まればいいというだけのものではなく、いかに踏力をコントロールし、綺麗に止まれるか、とクルマの側から考えることを求めてくる。そのため運転者は運転操作に注意深く、かつ意欲的になれる。理屈っぽいと言えば理屈っぽいが、それが当時のドイツ的ともいえる。


 20年以上、10万キロを目前としてややボディのヘタリを感じないではないが、それでも強固な殻に包まれている安心感、ソリッドな動作で忠実に仕事をするサスペンション。同時に充分なリーチを持つサスペンションアームなどから、荒れた路面での身のこなしもじつに鷹揚としており、フラットかつ良質なマナーをもって切り抜けてくれた。



 結論

 このクルマは、現代のクルマが失ったものすべてを備えている。正確で頼りがいのあるハンドル、ブレーキ、よく回り素直で気持ちのよいエンジン、トランスミッション。また適正なサイズと室内空間。シートのすわり心地・・・どれも運転を楽しくさせる、あるいは積極的にさせるものばかりだ。


 高速道路を走っていて遅いクルマに出くわす。そんな時「追い越そうかな、でもやめておくか、燃費にも悪いし」となるのが今のクルマだが、このクルマはといえば、事前にオーバードライブを外しておいて、きちんとミラーチェックをししかるべきタイミングでウインカーを上げ充分な加速とともにレーンチェンジして追い越しを完了し、また元のレーンに戻る、というクルマだ。運転操作とそれに応えるクルマの反応が正確で気持ちよく、それが楽しいから、バンバン走りたくなる。しかも下品に爆走するのではなく、正しく緊張し、弛緩することのない精神を持って前向きに走れる。






 例えば、素晴らしく調律された楽器の演奏とは、きっとこんな感じなんではないだろうか。こんなクルマ、日本車の中でお目にかかったことがない。当時から人気が高かったのも頷ける。


 それも、デザインが地味だったというところが大きいのだろう。いい走りに派手なデザイン、より、地味なのにいい走り、そのことに静かに喜べるという日本人の心理にマッチしたのだと思う。P10プリメーラは時代に名を刻むほどの名車ではないかもしれない。しかし運転者を覚醒させ、元気にさせてくれる屈指の「ドライバーズカー」であることは疑いようがない。


 マトモな個体が絶滅していくなかで、今改めてこのクルマを試すことができて本当によかった。昔の教科書を読み返したときに忘れかけていた大事なものに気づかされたような、今はそんな気持ちだ。クルマを追っかけているとこういうことがあるからやめられない。
中古車としてのこの個体



 10万キロを目前にした21年落ち。しかし90年代以降の国産車の耐久性は高く、こんな距離数でもバリッとしていた。不具合はラジオアンテナの収納とオーディオの音が右から出てこないこと。ヘッドユニットの故障ではないかな。直せます。




 ワイパーのつや消し黒が10年くらいで飛んでハゲてしまうのは日産病。上はプレジデントから下はマーチまで、みんなこうなる。塗りなおして乗りましょう。




 わかりにくいですが、ドアノブは白っぽく変色しています。これも日産病。パワーウインドウスイッチのチリも合っていませんね。きっと周囲が変形しているのでしょう。このほか、エア噴出し口の周囲のダッシュボードもやや変形あり。こういうところ、やはりトヨタは強い。




 ワイパー、ウインカーのコラムレバー。この個体はそうでもないですが、この頃の日産のコラムレバーの白濁化はオヤクソク。S13シルビア/180SX、A31セフィーロ、C33ローレル、後期のY31、ナドナド。けれど、この個体は代車としてショップにやってくるまではワンオーナーだったそうだから、ある意味ヘタリは少なかったかもしれない。クセの異なる複数のドライバーが所有すると、クルマの劣化はより激しくなります。しかし、不景気の昨今にあってワンオーナーの中古車、率としてかなり低くなっていますね。




 10項目採点評価

ポリシー >>> 9
スタイル・インテリア >>> 7
エンジン・トランスミッション >>> 9
NVH >>> 8
ドライバビリティ >>> 10
スペース >>> 9
気配り度 >>> 9
先見性 >>> 8
完成度 >>> 10
バリューフォーマネー >>> 9




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 試乗データ

試乗日:2014年10月15日
試乗車:日産 プリメーラ 1.8Ci Lセレクション
登録年月:平成5年6月
走行距離:96800km
車輌本体価格:1,894,000円/平成5年5月当時
型式:E-P10
エンジン:SR18DE(直列4気筒DOHC1838cc)
トランスミッション:4段オートマチック
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4400×1695×1385mm
ホイールベース:2550mm
車輌重量:1190kg(車検証記載)
最小回転半径:5.2m
タイア:185/65R14
10/15モード燃費:11.4km/L
燃料タンク容量:60L(レギュラーガソリン)
ボディタイプ:4ドアセダン
ボディ色:#TH1 ダークブルーパール
内装色/素材:グレー/モケット
装着されていたオプション:ABS、CDプレーヤー






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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は製造年により予告なく改良されている場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。











前田恵祐



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