忍者ブログ
前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#149 マツダの難しい立ち位置を示している


 マツダ デミオ XD Touring 試乗インプレッション (2014.11)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 手堅い小型ワゴンで二世代、さらに縮小してパーソナルカーとしての資質を上げた先代、そして最新型デミオは先代の延長線上でデビューした。マツダ2の名でヨーロッパに出るクルマだが全長は4メートルを超え全幅は5ナンバー枠ギリギリまで拡大している。コンパクトカーと呼んでいいのだろうか。



 エクステリア



 まず個人的にこの顔が馴染めない。さして美形でもないし、といってありていに釣り目で攻撃性丸出しという安易さもハナに突く。ヨーロッパの”GTI”に倣ってグリルに赤い線を入れる、というのもなんだか独自性がない。




 先代は端正なよさがあり、時にキュートでエレガンスでもあったと思うが、サイドビューにその面影を残している。ま、悪く言うと焼き直し。というか、全長が伸びた分引き締まった印象は薄れているわけで、改悪マスク等含めた差し引きではむしろ後退。




 リアビューはさらに先代の印象を色濃く残している。だが全体的に先代を肯定しているように見えて、先代のよさをあらかたすっ飛ばして先代の仮面を被ったまるで別物。といって新しい提案はない。



 運転環境



 XD Touringはタコメーターを真ん中に据えたメーター配列。タコメーターが踊りデジタルの速度計が冷徹に速度を知らせるというこの方式は実用的だと思う。オートライトのポジションはOFFの次。ダイアル式のエアコン操作は視認が最小限で運転中もやりやすい。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。ナビの操作性は手元のコマンダーで遠隔操作が基本となるが、慣れないとダメ。走り出す前に設定を終えましょう。このグレードにはヘッドアップディスプレイが備わるが、個人的には不要と感じた。




 マツダのATにおけるマニュアルーモードの操作は前に押してシフトダウン。




 ミラーの厚みはもう少し削りたい。Aピラーもお構いなく太い。色も濃く塗りましょう。



 インテリア・ラゲッジ



 ゴテゴテとした、ともすると暑苦しいインパネが横行するなか、上面をさっぱりとさせて機能を集約し明快な印象を与えるダッシュボード。しかしノッペリとした面がそのまま太陽光線を反射するため日なたに出ると傾斜したフロントガラスに大写しになってしまうのが玉に瑕。内装色は黒と本革のオフホワイト。XDのスポーティ=赤のラインというセンスはもう古くて古くて。




 マツダ車のシートの出来には車種によってバラつきがある。アクセラでは全体に統一感のある引き締まった着座感があったかと思うと、CX-5では全体的にブヨブヨとした気の抜けた着座感があったりもする。昔からマツダのシートは全体的にイマイチ、イマニという感じ。デミオのシートは背もたれは比較的タイトに拘束し腰のサポートも積極的かと思うと、座面がやや頼りなく垂直に沈み込む傾向があり、長時間長距離利用時にはやや心配か。背もたれをやや倒し気味にして体圧を分散させても回避できなかった。

・前席頭上空間/こぶし2つ




 後席は空間的にほどほどで、さして広さを追求するでもなく、むしろ広くないながらも収まった時に不快なところが無いようにと配慮された空間という印象。座面は先代より一段高くされているように感じる。よって前方は少しだけ見通しが良くなった。反面ルーフは相変わらず低いから、座高の高い筆者の場合頭上空間は手のひら一枚も入らない。座高90センチが限界である。

・後席頭上空間/手のひら1枚以下
・後席膝前空間/手のひら2枚




 ラゲッジルームは先代よりも稼げているが、全長も伸びた結果だから当然といえば当然。そもそもパーソナルコンパクトなのだから、ラゲッジスペースを気にするより、スタイリング上、無駄に弛緩して間延びしてしまわないことの方が大事だと思うのだが。



 エンジン・トランスミッション



 オヤクソクのディーゼルエンジン。馬力があり豪快に加速するが燃費も良く、高価だが走り味においてはガソリンよりメリットが多いように思う。数少ないデメリットはエンジン重量増のためのハンドリングへの影響とガラガラとやかましいエンジンのガナり。トランスミッションは6段オートマチックだが、本当に6段も必要だろうか。1段あたりの守備範囲が狭くすぐに回転が上がってしまうから、せっかくのエンジンの良さを味わいにくい、即ち息の長い伸びやかな加速フィーリングを味わえないデメリットを感じた。もっとワイドレシオでいいような気がする。また、その反面ガソリン車のマニュアルは5段であり、ディーゼルと比較するとトルクの薄いガソリンのギアを細かく切ったほうが理屈には合っているのではないか。




 試乗中の燃費は19.3Km/L。ガソリン車13Sの6段オートマは同じように走って17.0Km/Lだった。燃費良し、力あり、ただしガナるディーゼルをどう評価するか。



 足廻り



 日本人の大好きなドイツ車を手本とした足回りの設定。ドシッと安定していてしっかり路面を捉える印象に多くのドライバーが安心感を覚えるのだろう。しかし細かくチェックしていくと、路面の不整や大きめの凹凸に対して、バネ系をあまり綺麗に動かせてはいないようで、タイアやブッシュの領域で多くを吸収しているように見て取れる。一定以上のショックが加わるとやや目立って上下動が発生するところから見てもそれは然り。ハンドルの反応と転舵以降のクルマ全体の反応もあまりしなやかとは言えず、その先はやはりというかタイアやブッシュへの依存といった印象。その点、ややフラット感では劣るものの、アシや関節が比較的綺麗に動き、クルマ全体が自然反応しているという点において、先代の方が個人的に好きだったりする。


 新型デミオのガソリン車とディーゼル車の走り味の違いは、基本的にエンジンの重量増=ハナ先の重さ対策にある。原則としてドッシリ感のある乗り心地、ハンドリングに違いはないが、ガソリンの方がおおよそ大人ふたり分負担が軽い分身のこなしにも余裕がある。かといってディーゼルがひどいアンダーステアでどうしようもないかというとそういうことではなく、こちらはこちらでうまく安定性重視の方向に躾けてある。そしてその差は、乗り比べてみないとわからないくらいだ。



 結論

 正直マツダが言うほど優れたデザインでもないし、ドライバーズカーにもなれていないと思う。他社に対する差別化として、広告戦略上、デザインと走りの良さで売っていくという政策を取っているに過ぎず、宣伝文句ほどのものには成りおおせてはいないように思う。ややエグいがアイコンにはなる顔つき、太いグリップ(=握った印象だけでガッシリ感が増幅)のステアリングホイールと近場を少し走る限りには安定感のあるアシ、またエコ性能と走行性能の高いエンジンという飛び道具(これは歓迎)で、一気に俗に走ったという印象がある。






 先代はたしかにやや線が細かったかもしれないが、素直に反応する軽快な身体能力、緊密感とエレガンスの両立があったスタイリングなど、他の国産車にはない、「俗」でない魅力を備えていたことは確かだ。ま、それだけでは他社のライバルに対して力不足だったということなのだろう。日本人はクルマに対してどんどん鈍くなっていく方向だから、そんな人々の気を引くには「わかりやすいアイコン」が無いと難しいというのもよくわかる。しかしマツダを見ている人は、実は日本人の中でもモノのわかった人たちでもあると思う。そういう層からの「信頼」にどう応えていくのか、というところも、マツダにとっての課題なのかな、と思った次第。





 10項目採点評価

ポリシー >>> 7
デザイン >>> 6
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 7
走りの調律度 >>> 6
運転環境と室内空間 >>> 7
ヒトへの優しさ度 >>> 6
卓見度 >>> 7
完成度 >>> 6
バリューフォーマネー >>> 6





--------------------------------------------------





 試乗データ

試乗日:2014年11月13日
試乗車:マツダ デミオ XD Touring (車輌本体価格:1,944,000円/OP別)
型式:LDA-DJ5FS
エンジン:S5-DPTS(直列4気筒1498cc直噴ターボディーゼル)
トランスミッション:トルコン式6段オートマチック
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4060×1695×1500mm
ホイールベース:2570mm
車輌重量:1130kg
最小回転半径:4.9m
タイア:185/60R16 86H(TOYO プロクセス)
JC08モード燃費:26.6km/L
燃料タンク容量:44L(軽油)
ボディタイプ:5ドアハッチバック
ボディ色:ダイナミックブルーマイカ
内装色/素材:パフォーマンスブラック/クロス
装着されていたオプション:
     セーフティパッケージ(86,400円)
     CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(32,400円)
     フロアマット(ラグジュアリー)消臭機能付(22,788円)

--------------------------------------------------





 メーカーサイト

http://www.demio.mazda.co.jp/

--------------------------------------------------






 協力店/マツダオートザム旭

http://www.mazda-autozamasahi.com/

--------------------------------------------------







ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。





前田恵祐



.

拍手[10回]

PR