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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#167 地味な衣装に知的な頭脳


 ホンダ レジェンド ハイブリッドEX 試乗インプレッション(2015.8)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 1985年に国内では初のFFアッパーミドルカーとしてスタートしたレジェンド。ホンダのFFこそ善とする思想に基づきFFを長らく貫きながら、いやFRになるのか、ならないのか、という諸々の噂が飛び交う中、先代モデルからエンジン横置きベースのAWDとなった。いまやFRでなければ高級乗用車が作れないという時代でもなく、また技術的にもまるで問題にならないレベルだが、やはり根強くFR最善論はあり続けている。その意味で、やはり今回もエンジン横置きベースでハイブリッドAWDとしてきたレジェンドは高級乗用車の本流にはない、ということなのか。



 エクステリア



 デカいアコード・・・とは、初代から揶揄されていた表現。しかし、レクサスを代表としてややデコラティブにすぎる主張過多なデザインが鼻に突く筆者の個人的な感想としては、「これは控えめでむしろ好ましい」となる。他とは異なる価値観、高級の表現、あるいは精神世界というものがある。これ見よがしでなく、地味で控えめ、でも品質感、クォリティを感じさせるというのはなかなか成熟したモノの考え方ではなかろうか。




 堂々たるプロポーションもじつはこう見えて5メートル以内の全長。あれこれとうねったり凹ませたりせず、穏やかな印象でまとめている。緑ナンバー方面にも需要がありそうな雰囲気。じつに大人っぽくフォーマルな佇まい。




 テールランプの形状をもうすこしおとなしくできていれば何も言うことはない外観。とはいえ余計な加飾も施さず、わざとらしいところがない高級車は久しぶりだ。



 運転環境



 ハンドルは電動チルトとテレスコピック。シートは当然の本革張りのフルパワーシートでドライビングポジションは満足に設定できる。シートベンチレーション、ヒーターを備える。ハンドルはややグリップが太くこのクラスとしては径の小さめのもの。ナビとは別にエアコン/オーディオ系のタッチパネルを備えモニターを二段構えとするのはもはやトレンドとなった観もあるが、エアコンの温度設定など使用頻度の高い操作系統は判別のしやすいスイッチとしている。ただ、説明を受けるまでオーディオのボリューム調整がわからなかった。そうした部分は説明書を読まなくてもわかるようでなければダメ。メーターパネルの加飾は控えめで見やすさを重視しているあたりが好ましい。パワーウインドウは当然、全席ワンタッチ。




 このクルマ独特のトランスミッションと駐車ブレーキの操作部。慣れるとじつに簡潔でなかなか具合がよろしい。マニュアルシフトはステアリングのパドルで行う。それもまたレスポンス良く、またスムーズに決まる。木目調パネルはそれ自体美しく仕上げてあるが、しかし歴代採用されレジェンド、あるいはホンダの木目パネルといえば「天童木工」だったものが、あっさりと今回は却下されてしまった。実にもって残念。日産の漆塗りパネルもよかったが、レジェンドといえば天童木工というイメージがあり、それがレジェンドというクルマの象徴的な部分だと個人的には思っていただけに・・・。




 Aピラーはねじれ角などもよく考慮されていて、フロントガラスへの反射は控えめ。でも黒く塗っておけば更に目立たない。ポジションによってはドアミラーの下端がちょっとだけ見切れてしまう。なお運転席からはボンネットを視認することができ、とくに運転席側のフェンダーの稜線を確認することが可能。これで助手席側も、なら、なお良かったのだが一歩及ばず。




 リアドアガラスがやや後ろに回り込んでいるのは明らかに目視視界確保のための策と思われる。またピラー自体もできるだけ邪魔にならないような形状を採っており、ミラーやカメラによる補正的な視界に任せるという考え方から一歩距離を置いている観がある。リアトレイ部とCピラーがやや反射しているのは光線の強さのためでもあるが、しかしここはもう一歩対策の余地はありそう。



 インテリア・ラゲッジ



 前のレジェンドのあの大胆に木目を張り巡らせたものから考えればずっと地味になったインパネ。しかしこれは外観の印象と同じで、なにも地味になったことが高級でなくなったこととイコールにはならない。目立たずとも質感がある、あるいは充足感があるというのは、ひとつの成熟したモノの考え方だ。レジェンドのデザインの印象からは内外装ともに、今時の高級乗用車としては珍しいくらい「成熟感」が伝わってくる。




 試乗車は無難に黒革のインテリアだが、渋いタバコ色や明るいウォームグレーなどを揃えているあたり、台数の出ないであろうこのクルマとしては頑張った設定だと思う。前席は少しだけバックレストの高さが足りていないのと、ちょうど背中や尻の当たる部分の表皮が突っ張っている感じがするのが惜しい。また少し時間がたつとわかってくるのが、振動や上下動の減衰そのものの性能は満たしているものの、やはり着座「感」としての豊かな印象、簡単に言うとアンコの厚みを肌で感じられないあたりが残念無念。これは先の突っ張り感とともに、表皮の革の特性にも依っているような気がする。
 
・前席頭上空間/こぶし1つ




 プロペラシャフトが伸びているわけではないがセンタートンネルはしっかりとある。とはいえむしろ前席より豊かな着座感をもつ後席。座面背もたれともにサイズは充分で適度な拘束感とともに快適性は高い。ヘッドレストは調整できるが、ヘッドレストそのもののサイズはややケチな印象。小型車でももっと大きいものを備えたクルマもある。

・後席頭上空間/こぶし横に1つ
・後席膝前空間/こぶし2つ



 まあこれはサンプルが積んである、と思ってください。やや奥行きが浅くリアウインドウ下端付近で隔壁になってしまうが、ゴルフバッグはちゃんと4つ積載することが可能との由。間口も広く使い勝手は良さそう。



 エンジン・トランスミッション



 このエンジンはJNBという名称を与えられているが、原則として従前から使用されているJ35/J37系と共通性の高いものと認識してよさそうだ。カムの駆動はタイミングベルト。とはいえ、街中を走るかぎりほとんどモーターで発進し、思い出したようにエンジンが始動しアシスト、充電を行うとソソクサと停止してしまうという働きぶりだから、エンジンのフィーリングに関しては二の次という感じ。


 発進時はリアモーターを使用し、後輪駆動的な加速に、実際なるし、例えばタイトターン時に深くアクセルを踏み込んでも、リアの2モーターが適切に差動をコントロールして同時にクルマを前へ押し出してくれる力強さ、スムーズさも両立していて、なかなかポテンシャルの高いシステムとお見受けする。ま、ややヘビーな条件、例えば雨の轍深い東名を飛ばすとか、そうしたシーンでないとこのクルマの真価を推し量ることは難しいかも知れない。しかし思っていたより遥かに違和感がなく、スムーズにパワーを分配し頭脳的に走る。


 これはこれで一つの「高級」の在り方だろう。レジェンドは先代からこの「機能」とその「洗練」で「高級」を表現しているが、それは最新のレジェンドにおいても成功していると思う。先入観を捨てて、何も考えずに乗り込んでも「モノ」の良さは理解できるはず。


 先にも記したが、7段DCTとパドルシフトのコンビネーションはレスポンシブでなかなか具合がよろしい。例えばとっさにエンジンブレーキが欲しい時にカチカチと操作すれば即座に反応し、同時にその時、ショックや違和感とは無縁でいられる。基本的に完成度の高いトランスミッション。輸入車のDCTがなべて「ダイレクト」であることを旨としていることに対して、あくまでも日本的にスムーズさを重視し、黒子に徹した「いい仕事」をしていて、普通に走っている分にはDCTであることを忘れていられる。




 100%市街地走行。これは試乗の途中20分程度走って、そしてブツ撮り直前の値。やや良い数値の時に撮ってしまったが、しかしこれくらいの燃費は簡単に記録する。平均的には12~13Km/Lあたりで推移。指定燃料は無鉛プレミアムガソリン。



 足廻り



 とくにエアサスでも無ければ電子制御でもない、「アコースティック」なバネとダンパーをもつレジェンドの足廻り。しかしまるでエアサスのようなしなやかさと、Gがかかった時のしたたかな踏ん張り、また純正採用のミシュランがややコツコツとショックを伝えてくる傾向があるもののロールの発生とその速度、またピッチングの制御とその余韻のコントロールなど、じつに堂に入ったもので、例えば他の国産ブランドや欧州車と並べても何ら遜色がないどころか、アコースティック、コンベンショナルな構成でこの乗り味、この「成熟感」を実現しているというのはちょっとしたものだ。


 走行中一点だけ気になったところがあったとするなら、ハンドルの操舵感、主にはパワーステアリングのセッティング。オヤクソクの電動パワステで、さほど大きな問題ではないものの、操舵時の反力の「演出」が、足回りに比べて「アコースティック」でない。もうすこし自然な操舵感とできれば路面からのフィードバックももう少し素直に伝えたほうがドライバーズカーとしての資質はグンと高まるだろう。また個人的な好みを言えば、ハンドルの径はもう少し大きめにしたほうがより上品な運転操作ができると思う。



 結論

 思えばホンダはリーマンショックの影響で高級ブランド「アキュラ」の日本国内展開を中止するなどして、結果としてしばらくの間レジェンドというクルマは置き去り状態だった。ただ、旧型の時代から他の「これ見よがし」な高級ブランドに対してアンチ感情を抱くユーザーの、地味ながらも着実な支持を得ていたことは確か。そう考えると、レジェンドの現在の客層のマインドにマッチしたクルマ作りとして、この「成熟感」というキーワードは非常に重要な要素かも知れないし、それを強く意識して作られているようにも思える。






 3モーターによるAWDとその巧みで知的なコントロールによるスムーズで力強く、また電子デバイスやエアサスに頼らないコンベンショナルなアシによるアコースティックな走り味の魅力。本来ハイテクカーをうたうならサスにも電子補正を行ってしまうようなところ、そうしなかったあたりが面白さだとは思うが、結果として、一台の高級乗用車としての完成度、機能や性能の洗練熟成度は充分に高い。ましてや、やや押しの弱いくらいの控えめな衣装に身を包んだハイテクカーというのは、見方を変えれば現代版「羊の皮を被った狼」かもしれない。地味だけど乗ると良い、乗ると凄い、というのはちょっと知的な大人でなければ理解できない「領域」。他にはない、なかなか魅力的な高級乗用車だ。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 10
デザイン >>> 8
エンジン・トランスミッション >>> 10
音・振動の処理 >>> 10
走りの調律度 >>> 10
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ度 >>> 8
卓見度 >>> 9
完成度 >>> 10
バリューフォーマネー >>> 7






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 試乗データ

試乗日:2015年8月6日
試乗車:ホンダ・レジェンド ハイブリッドEX
車輌本体価格:6,800,000円(OP含まず)
型式:DAA-KC2
エンジン:3471ccV型6気筒SOHC直噴i-VTEC+交流同期電動機[前H2×1,後H3×2]
トランスミッション:7段DCT+パドルシフト
駆動方式:SH-AWD
全長×全幅×全高:4995×1890×1480mm
ホイールベース:2850mm
車輌重量:1980kg
最小回転半径:6.0m
タイア:前後245/40R19 94Y
JC08モード燃費:16.8km/L
燃料タンク容量:72L(無鉛プレミアムガソリン)
ボディタイプ:4ドア/5人乗りセダン
ボディ色:クリスタルブラック・パール
内装色/素材:ブラック/本革
装着されていたオプション:フロアマット(65,772円)






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 メーカーサイト

http://www.honda.co.jp/LEGEND/








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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」を見つけるのはあなた自身の仕事です。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。






前田恵祐
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