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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#174 あとを引く調律


 日産マーチ ニスモ S 5段マニュアル 試乗インプレッション(2016.2)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 出た順番は以前乗ったノートニスモよりこちらのほうが先。マーチのニスモだからサイズも手頃で街中やワインディングをちょこまかと走るにはこちらのほうが好都合かも知れない。車重も1トンを少し超えたくらい。いわゆるホットハッチとしての資質はノートよりもこちらであろうと考えるのが自然ではないか。


 エクステリア



 エアロバンパーやサイドスカートを備えているが、それほど押しの強くないエクステリア。やりすぎていないほどほどのところで抑えが利いているあたりにバランス感覚を見る。




 ホイールは16インチ。それなりに高さ方向のボリューム感があって腰高ではあるが、頑張って低くしようとか低く見せようとイキんでいないぶん自然。




 リアアンダースポイラーはディフューザー形状。どれほどの効果があるのかは不明。ターゲット年齢層はそれなりに高めのはずで、オアソビがすぎない配慮も。



 運転環境



 ハンドルはチルトのみ。例によってアルカンターラとのコンビとなっている。ま、このあたりは好みが分かれるでしょう。距離が進んだ個体を見てもさほどアルカンターラ部分はヤレていないようなので、触感面でも長続きはしてくれそう。円形にまとめられたエアコン操作部を操作するのにはやや慣れが必要。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。運転席にはラチェット式高さ調整あり。速度計は220キロメートルスケール。




 フットレストを備えるがスペース的にはミニマム。ややブレーキとアクセルの高低差が大きいように思えた。ヒールアンドトゥ向きではない。




 Aピラーは角度太さとも及第点で、フロントガラスへの映り込みも少なく存在感も大きすぎず視界の妨げになりにくい。ドアミラーはややなで肩だがそれでも上下に大きく広範囲を捉えられる形状を確保している。



 インテリア・ラゲッジ



 黒一色にレッドのステッチが目を引くインテリア。スポーツモデルとしてのド定番といった印象の設え。もうすこし遊び心を、とはこうした車種に触れると毎度思う。




 見た目は掘りも深く拘束されそうな感じのシートだが実際にはそうでもなくて、おおらかに受け止め、同時にしっかり支える、といった印象のかけ心地。表皮のチョイスもよく考えられていて滑りにくさと、適度な滑りやすさのバランスがとてもいい。着座感が極めて自然、かつ快適、でいてスポーティ。レカロでなくていい。
 
・前席頭上空間/こぶし1つ半




 中央席のヘッドレストが備わらないのは残念。左右石のヘッドレストはステーを伸ばしてもちゃんと後頭部をカバーできる高さまで来てくれるから安心。広さは驚く程ではなく、狭くて困るというものでも当然なく、この種のコンパクトハッチとしては常識的なところ。左右の窓が大きくて視界が良いのはプラス。

・後席頭上空間/こぶし1つ
・後席膝前空間/こぶし1つ



 ラゲッジスペースはスクエアな空間が確保され、この種のものとしては奥行も余裕のある方だと言えるのではないだろうか。



 エンジン・トランスミッション



 ノートニスモ同様、エンジンは外見上大人しいなんの変哲もないエンジン。「まあ乗ってみてくれよ」ということなのでしょう。で、実際に乗ってみると、下からなんのストレスもなくタコメーターのスケールギリギリまで使い切ることになる軽快さと爽快なサウンド。それでいて、ボトムエンドでも十分にフレキシブルでアイドリング+アルファでクラッチミートさせるようなシーンでもまったくイヤがらない。


 ノートの1.6よりもはっきりと軽く、輪をかけてビュンビュン回るスポーツエンジン。スペックも見た目同様地味だし、パフォーマンスとしてタイムや数値を誇るタイプではあきらかにない。そこがホンダあたりが血まなこになってしまうようなところと、日産の大人のバランス感覚の違いとでも言うべきだろうか。このクルマ、あるいはシリーズはタイプRと同列ではない。以前も書いたが激辛というよりピリ辛であり、日常的なシーンでも爽快感を味わえるようなしつらえこそこのニスモシリーズの持ち味。その意味で間口が広い。


 試乗中の燃費は計測しなかったが、試乗車のトータル燃費は11Km/Lを示していた。試乗車の使用条件を考えると十分健闘している値ではないだろうか。



 足廻り



 ハンドルはクイックかつダイレクトで切った分だけ素直に向きを変えてくれ、直進性も信頼できる。なかなかのステアリングフィール。乗り心地ははっきりと堅く、上下動もある。だけど受け止める側の車体やシートとのバランスが取れていてまったく不快でない。この種のクルマは、たとえば週末夜な夜な仕事終わりに連れ出して箱根を目指す、なんていう使い方も想定できる。そんなとき、やはり無視できないのは快適性とのバランスなのである。


 先にも記したとおりこのクルマ、シートが望外によろしい。欲しい時にはきちんと横方向のサポートを発揮しながらリラックスしたい時にはおおらかな掛け心地で受け止めてくれる。サイズにも不満はなく、なんなら長時間の腰のサポートにも威力を発揮してくれよう身体にフィットした形状のバックレストをもっている。


 箱根にたどり着くまではリラックスしたドライブを楽しみ、やがて道が険しくステアリングへのキックバックを程よく感じ始めるころには気を引き締めてクルマと一つになる、というのが理想的なストーリーだ。さらに言えば山を降り、またドライブモードに戻った時には適度な疲労と余韻を良い後味で味わえるのが一番いい。


 マーチニスモSのハンドリングと乗り心地、シートの出来と快適性のバランスを見ていると、そんなシーンでこそもっとも威力を発揮してくれるタイプのような気がする。



 結論

 ホットハッチ、というとどうしても若々しい、時に子供っぽい印象がつきまといがちだが、このマーチニスモS、ある程度作る側が手馴れている感じがしてとても大人っぽいバランス点で仕上がっているように見受ける。ピーキーすぎず爽快で、適度な運動とともにほどよい余韻を残してくれる、それらすべてのプロデュースが見事にできあがっている。






 マーチというクルマそのものは、もはや世間に埋もれかかっているようなところがあるけれど、このクルマに乗ってみれば日産、ニスモのチューニングセンスの良さを感じ取ることができるはず。スポーティーカーも含め、世の中のクルマは皆退屈だという人も多いが、下手にスペックで塗り固められた頭でっかちより、こうして高度に、きちんと調律を受けたクルマで、ドライビングの実体験から得られる動的な楽しさを、もう一度味わうべきだと言っておきたい。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 8
デザイン >>> 6
エンジン・トランスミッション >>> 9
音・振動の処理 >>> 8
走りの調律度 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ度 >>> 8
卓見度 >>> 8
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 9






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 試乗データ

試乗日:2016年2月25日
試乗車:日産マーチ ニスモ S 5段マニュアル
車輌本体価格:1,842,480円
型式:DBA-K13改
エンジン:1498cc直列4気筒DOHC[HR15DE]
トランスミッション:3ペダル5段マニュアル
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:3870×1690×1495mm
ホイールベース:2450mm
車輌重量:1010kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前後205/45R16 87V  [BSポテンザRE-11]
JC08モード燃費:-
燃料タンク容量:41L(無鉛プレミアムガソリン)
ボディタイプ:5ドア/5人乗りハッチバック
ボディ色:ピュアブラックPM<#G42>
内装色/素材:ブラック<G>
装着されていたオプション:
     日産オリジナルナビゲーションシステム
     





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 メーカーサイト

http://www.nissan.co.jp/MARCH/nismo.html








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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」を見つけるのはあなた自身の仕事です。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。






2016.2.26
前田恵祐

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