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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#182 1+1=2


 アバルト124スパイダー 6段マニュアル 試乗インプレッション (2016.10)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 イタリア車は、イタリア車ではなくなってしまったのかもしれないシリーズ第二弾。最初はこのクルマ、新しいアルファスパイダーとして出てくると言われていたが、紆余曲折ののちフィアット/アバルトブランドのクルマとして出てくることになった。サスガのイタリア人も、アルファ・ロメオが東洋の島国で作られることに抵抗があったのかもしれない。ま、フィアットだったらどこ製でもいいのか、っていう話でもあるのだけれど。



 エクステリア



 かつての124スパイダーを模した、現代のクルマとしてはややエッジの立った野趣を感じさせる佇まい。個性的でこれも悪くないと思うが、しかし、500シリーズも然り、古いクルマに似せればウケるという感覚はあまりにもチンケじゃないか。




 ロングノーズが強調され、サイドのクビレもほどよく、バランスの良いプロポーションも、そもそもはマツダ・ロードスター(以下メンド臭いのでロドスタと略します)あってのもの。




 しかしうまく「ロドスタ」を包み隠して別のクルマにしているあたりはサスガというべきか。ロドスタのデザイン、マツダのデザインとその宣伝がハナに突くという向きには、このクルマ、というチョイスもアリかも知れない。



 運転環境



 ステアリングはチルトの手動調整のみ。パワーウインドウは両席ワンタッチ作動。ナビやエアコン類の操作ロドスタと基本的に同じ。そのまま違和感なく乗り換えられる。ちなみにウインカーレバーの位置も日本車らしく右側にしてある。コクンコクンと小気味よいシフトレバーや駐車ブレーキの位置関係、ペダル配置などもぬかりなく調整してあるあたりもロドスタ同様。フェラーリみたいに赤く塗ってあるタコメーターは伊達ではない、といちおう言っておく。




 シートを含め、内装関係の部品は外装以上にロドスタを踏襲している模様。よって視界関係も同じこと。日本車らしくすんなり馴染める。



 インテリア・ラゲッジ



 日本に入ってくるのは当面アバルトだけということなので、こうした基調のちょっとヤル気っぽいカラーリングになるが、本来このクルマ、もう少し穏やかでセンスの良いカラーリングや素材を用いて、大人っぽく乗りこなしたいクルマでもある。お値段も少し上がるわけだし。




 シートの中身はどうやらロドスタと同じものを使いまわしている模様。この種のスポーツカーとしてはサイドサポートのユルさと腰のあたりの抑えの足りなさがやや気になる、という感想もロドスタと同じ。

前席頭上空間:幌を立てて、こぶし1つ




 トランクフロアにあるのは展示用ナンバープレート。トランクルーム、ここもロドスタと同じ。二人用としては充分ではないだろうか。



 エンジン・トランスミッション



 500Xもそうだが、他メーカーと車台を共有しつつも、やはりエンジンだけは譲れなかったということなのか、この124スパイダーのエンジンもフィアット製でしかも500Xと同じ1.4リッターのターボエンジン170馬力。わざわざイタリアで作ったものを、海を越え日本に運んで積み込んでいるらしい。


 このエンジン、500Xのインプレッションでも書いたように、じつにもって「イタリア」を感じさせる、いいエンジンである。


 ましてやダイレクトなマニュアル車で駆るとなればより一層キャラクターも鮮明になる。低速域のマナーの良さ、中速域の艶やかでさえあるトルク、高速域におけるシャープさや爆発力など、どの領域でもドライバーに寄り添い、それでいて楽しませる要素が十二分に詰まっている。ターボエンジン好きにはビビッと来るものがあるんじゃないだろうか。それでいて刺激一辺倒というわけでもなく、適度にマイルドなところもあったりしてちょっとオトナっぽいのでもある。


 そもそも車体のベースとなったロドスタ自体も、イタ車かと思うくらいエンジンとトランスミッションの出来、楽しさのレベルは高かった。そこへ、モノホンのイタリア製エンジンを積み込んでさらに楽しくならないわけがない。


 見事、1+1=2、という公式が当てはまるパターンだ。


 これでシフトフィーリングまでもが、イタリア車らしい「ナマクラ感」のある例のあの感じに仕上がっていたらなあ、という要望は贅沢だろうか。


 ドラコン上、リセットせずの燃費は7.0Km/Lを示していた。



 足廻り



 個人的にはロドスタよりナチュラルで、タイアグリップにあまり依存しないタイプと感じた。いちおうロドスタとはセッティングが異なるようで、「より固くしてある」と説明も受けたが、こと固さに関してならあまり変わらないと思う。それよりロドスタから改善されていない小さなピッチングや素直さのない伸び縮みなど、「イタリアだったらこうはならないのに」と思わせるポイントもいくつかある。



 結論

 旧車のアイデアそのまんまの、つまり現代デザインとしてはいかにもノーアイデアな姿カタチを一旦横に置いておくとするなら、そもそものマツダ・ロードスターの出来の良さや楽しさをそのまま継承し、そこにイタリアらしい元気の良いエンジンをブチ込んだアバルト124スパイダーというクルマ、混血車としてはキレイに「イイトコ取り」が出来ている、良い例ではないだろうか。388.8万円という車輌本体価格も数々のオプションを含んだ上でのものだし、あのエンジンの「渡航費用」を勘案すれば、まずまずのところに落ち着いたお値段とは言えないだろうか。






 イタ車は楽しいが壊れる。だから日本で作ったらどうなるだろう、という思いはイタ車に痛めつけられたかつてのユーザーたちの中にあるはず。それを実際にやってみました、というのがこのアバルト124スパイダーということになるが、様々なハードルを乗り越えてひとつのカタチになったこの日本製イタリア車に、ひとまずモンクを言ってはいけないような気がする。そして、比較的気軽に、まるでロドスタを楽しむかのように、イタリアのアジ(特にエンジン)を楽しめることに今は喜ぶべきだと、かつてイタ車に泣かされた一人である筆者は、個人的に思うわけである。





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 10項目採点評価

ポリシー >>> 8
デザイン >>> 6
エンジン・トランスミッション >>> 10
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ >>> 8
先進性 >>> 8
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 8





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 試乗データ

試乗日:2016年10月7日
試乗車:アバルト124スパイダー
車輌本体価格:3,888,000円(税込/OP別)
型式:CBA-NF2EK
エンジン:3268(1368cc直列4気筒マルチエア16バルブ インタークーラー付ターボ)
トランスミッション:3ペダル6段マニュアル
駆動方式:FR
全長×全幅×全高:4070×1740×1240mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1130kg
最小回転半径: -
タイア:前後205/45R17 (BSポテンザRE050A)
JC08モード燃費:13.8Km/L
燃料タンク容量:45L(無鉛プレミアムガソリン)
ボディタイプ:2ドアオープン
ボディ色:ビアンコ・チュリニ1975(163)
内装色/シート素材:ブラック・レッド/レザー(515)
装着されていたオプション:
     レザーシート/ナビパッケージ(216,000円)





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 メーカーサイト

http://abarth.jp/124spider/





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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。





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2016.10.8
前田恵祐

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