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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#186 相変わらず地味だが、そこがいい

 
 スバル インプレッサ スポーツ 1.6i-L EyeSight 試乗インプレッション (2017.2)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 2016-2017日本カーオブザイヤーを受賞したインプレッサ。多数決式に投票してその年を代表するに相応しいクルマを選出するという同賞だがその理由は・・・

「新開発のスバルグローバルプラットフォームなどにより質の高い走行性能を持つとともに、国産車初の歩行者保護エアバッグ、運転支援システムのアイサイトをはじめとする多くの安全装備を標準装着するなど世界トップレベルの安全性能も実現したことは見事。さらに200万円を切る手頃な価格からラインナップしたことも高く評価した。」

・・・とある。

 しかし自動車で一番大事なのは運転した印象、身体で感じたフィーリングだと個人的に思う。いかに予防的あるいは受動的安全性が高く、新しいプラットフォームを用いたと言葉で説明したところで、乗って走った印象が良くなければ始まらない。最近の自動車業界と自動車マスコミはその観点をすっかりオミットしているようにしか見えないのだが、いかがか。



 エクステリア



 デザインは従来型から同じ考え方を踏襲している。ほどほどに使い勝手のいい5ドアハッチバックをソツなく形作るとこうなります、というあまり突出した部分のない、オーソドックスな印象。




 履いているホイールは16インチ。それも小さく見えてしまうほどボリュームがあるということ。全長4460mm、全幅1775mm。そろそろこの大型化には歯止めをかけたほうがいいんじゃなかろうか。




 5ドアハッチバックというより、ショートワゴンに近いシルエットは歴代共通。これをベースにレヴォーグを作るのだろうから、このクルマはもう少しオリジナリティのあるデザインで、個性的に作ってもいいような気もする、が、このおとなしさこそ今の日本人の感覚にマッチするのだろう。



 運転環境



 ハンドルは手動チルトとテレスコピックで調整幅は大きい。ハンドルそのものはグリップが太く、同時にスポークも厚ぼったくて個人的にあまりすっきりと握れない感じが馴染めない。さらにいうと外径も小さすぎる。そのかわりスポーク上のスイッチは大きめ。運転席のアジャストは手動の前後スライドにリクライン、そしてラチェット式の高さ調整だが、その調整幅は大きく身長や体型への許容度が広い。メーター、ナビ、ドラコンの位置関係と表示の大きさのバランスもいい。エアコンの操作系は明快なダイアル。駐車ブレーキは電気式スイッチ。パワーウインドウは前2席のみがワンタッチ。広い全幅のおかげで左右方向に余裕があり、両肘が窮屈でない。




 Aピラー方向の視界。ピラーは細いがフロントガラスに大映し。ザンネン無念。せめて黒く塗ってあれば。そのかわりに三角窓は有効に視界を稼ぎ左右折時、歩行者等の早期視認に寄与する。ドアミラーもいたずらに厚ぼったくなく、また鏡面の形状もデザインのために削り落とされることなくしかもそのサイズ自体も大きめ。ただし、ややミラーの位置そのものが後ろ寄りで、意識的に首を振らないとミラーが見えないという印象もある。




 運転席からの斜め後方目視視界。リアサイドガラスをもう少し拡げられると目視確認派にはうれしいはず。



 インテリア・ラゲッジ



 スバルのインテリアは、代を重ねるごとにデザインが垢抜けていく。もう「北関東デザイン」とは誰にも言わせないくらいのものにはなっているのではないだろうか。しかし依然としてそのカラリングは地味な黒系しかない。スバルのようなブランドは、他がやらないようなこころみを、こういう部分にも施すことが大事。多少高くなっても注文色があと2色あるといい。どうせ在庫販売はしないのだから、色を選ぶ楽しみくらい与えて欲しい。




 新型インプレッサの前席シートはここ数年あらゆる国産車のシートを経験してきた中でベストと言っていい仕上がり。大きさは座面、背もたれともたっぷりとしており、パッド類の硬さはやや硬めながらフィット感もすこぶる良い。とくに大きくしっかりとした座面と腰、背中のS字ラインを絶妙にフォローする背もたれのコンビネーションがすばらしい。おおらかに、しかもがっしりとした安心感、確実感とともに身体を受け止めてくれる。従来型からの飛躍の幅は大きい。これだけでも新型にする値打ちがあると思う。

前席頭上空間:こぶし2つ




 後席もまたいい。気になるのはヘッドレストがこんなに小さくて大丈夫だろうか、ということくらいで、背中の高い位置までフォローする背もたれ、大きめの座面、そしてそれぞれの厚みとストローク、硬さのチューニングがもたらす豊かな着座感。座面の後傾角もいい。スペース的にはここに座ると車体の断面が真四角に近いことを意識させられる。頭上、あるいは頭の周囲に余裕があり、視野も開けている。ついでに着座位置の設定もやや高めで見通しがいい。

後席頭上空間:こぶし1つ
後席膝前空間:こぶし2つ




 なんとしてでもフラットな床を、と無理をせず、シートや座面が分厚い分の段差は多少生じることを許すラゲッジスペース。それでいいと思う。どれだけの頻度で後席を倒してまで荷物を積むのかを考えれば、後席を手厚く作ったほうが乗車中の満足度は高い、という判断が見て取れる。リアサスペンションはダブルウイッシュボーン式だが室内への侵食は少ない。そのかわりあまり豊かなストロークは確保できていない模様(後述)。



 エンジン・トランスミッション



 アイドリングストップ付き1.6リッターNAエンジン。振動も少なくスムーズに力を発揮するいいエンジンだと思うが、もう少し透過音のチューニングはしたほうがいいと思う。耳当たりの優しさとか、心地よさのようなものを「作る」という技術も現在はあるのだから、活用すべし。現状では中途半端にガサガサしているだけ、という印象。この他にも2リッターNAもあるが、むしろレヴォーグ用の1.6リッターターボを与えた快速グレードがあるとこのクルマの個性をより強めると思うのだが、いかがか。


 トランスミッションはリニアトロニックと呼ぶCVT。スバルはCVTのパイオニアだからこだわりもあるのかもしれないが、個人的には7段くらいのDCTのほうが合っているように思える。そのほうがなんといってもファントゥドライブをより色濃く演出できるだろうし、なにより、スバルが作ったDCTがあったとするならそれはどんな出来になるだろうかと期待感も抱く。ちなみに現状のリニアトロニック、チューニングはもう一歩。とくに極低速時の駆動力の断続がスムーズでなく、慣れないとややぎこちない動きになる。




 試乗は、一般道のみで15Kmほど走った。ただし試乗途中、ブツ撮りの最中にもエンジンをかけたままだったためやや燃費には不利に働いたと思うが、それでも意識せずに走って10Km/Lを超える。



 足廻り

 走り始めてまず感じるのは適度な重厚感。しっかりとした強度や厚みを持った鉄板で強固な骨格を構築し、そこにエンジン、駆動系、足廻りを適切な取り付け強度とともに組み上げた、という印象が強い。日本車特有の華奢な印象とは無縁だ。基本的に堅めの足廻りでフラットな姿勢を基本とするが、路面からの入力に対しては適切にストロークし、不快な突き上げや音、振動を乗員に伝えない。個人的にはこれであともう少し後輪のストロークを伸ばしてあげるとさらに豊かな乗り味になるのに、と思う。しかし昨今のトレンドはまたストロークを短くする傾向にある模様。




 上述したハンドルの外径が小さすぎると思う理由は、ほんの少しの力加減でもクルマが反応してしまうことのデメリットを感じるから。言い方を変えればクイックであると言うことはできるが、しかし人間の腕力との関係性からいってコントロールのしやすさを重視してさらに煮詰める余地があると思う。もう少し穏やかに反応するようにチューニングしないと長時間ドライブでは疲労の原因になってしまう。例えばまっすぐ高速道路を走っていても、クルマというのはつねに直進を乱されながら走っていて、ドライバーは無意識のうちに微小な修正を加えながら運転する。そうしたときに、クルマの反応が過敏だと気疲れしてしまう。センター付近の遊びを嫌うならせめてハンドルの外径がもう少し大きければ腕力のコントロールもしやすいし、クルマの側も五感に忠実な反応をしやすくなる。テストコースのような場所では現状でもいいかもしれないが、凸凹や轍も深い一般道ではクイックで正確な反応ばかりが能ではない。ましてやクルマの運転はテレビゲームでもない。



 結論

 各種安全デバイスなどを声高に宣伝するまでもなく、新型インプレッサというクルマは、乗れば日本車離れしたシッカリ感がもたらす安心、あるいはクォリティの高さを味わうことのできる、スバルならではの魅力が込められた秀作だ。乗ればわかる良さを携えてはいるものの、現代のユーザーはそんなものより、言葉による説明や宣伝の方に強く反応するし、それが購買動機に直結してもいるようだから、乗った印象よりもスバルとしては安全装備を強く宣伝する。




 しかし、四輪自動車を自ら運転することで獲得する移動空間や時間、あるいはそこから得られる充足とは何かと考えたとき、やはり言葉でもたらされた、あるいは植えつけられた知識よりも、クルマを操ることで体感する気持ちよさや満足感のほうがじつは重要である。エコだったり安全だったり、それぞれに現代の自動車にとって重要なファクターだが、それと同時にファントゥドライブという要素を忘れてしまうと、クルマは単なる飾り物になってしまう。ドライバーの意思でもって走らせてこそ自動車なのだから。


 新型インプレッサには、乗って体感できるクルマとしての操る楽しみがあり、積極的にドライブを楽しみたい運転好きを満足させるだけの素性を持っている。エコや安全にかまけてドライブフィールが疎かになっているクルマは多いが、そこはそれ、スバルらしくドライバーズカーとして、ぬかりなく仕上げられているところが、当たり前のようでいてじつに気持ち良い、新型インプレッサとはそういうクルマだ。


 インプレッサという名前ほどにインプレッシヴではなく(WRXを除けば歴代そうだ)、むしろちょっと地味だが、そこが良さでもある。輸入ブランドのような派手さはないが、控えめながらモノの良さをじっくり味わいたいホンモノ志向のドライバーには、検討の余地がある一台だと思う。





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 10項目採点評価

ポリシー >>> 8
デザイン >>> 7
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 8
走りの調律 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 9
ヒトへの優しさ >>> 9
先進性 >>> 7
完成度 >>> 9
バリューフォーマネー >>> 8





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 試乗データ

試乗日:2017年2月3日
試乗車:スバル インプレッサ スポーツ 1.6i-L EyeSight
車輌本体価格:1,922,400円(OP別)
型式:DBA-GT2
エンジン:FB16 [1599cc水冷水平対向4気筒DOHC]
トランスミッション:リニアトロニック
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4460×1775×1480mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1300kg
最小回転半径:5.3m
タイア:前後205/55R16 91V(BS/TURANZA・T001)
JC08モード燃費:18.2Km/L
燃料タンク容量:50L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:5ドアハッチバック
ボディ色:ピュアレッド
内装色/シート素材:オフブラック/トリコット
装着されていたオプション:
     パナソニックビルトインナビゲーション(247,321円)
     ナビ取付キット(4,795円)
     リアビューカメラ(23,760円)
     用品接続ボックス(18,360円)
     ETC2.0車載器キット(DSRC)(パナソニック)(36,504円)
     ETC2.0セットアップ(3,240円)
     ベースキット(121,500円)
      ・ナンバープレートベース
      ・ナンバープレートロック
      ・センターコンソールトレー
      ・ドアバイザー(SPORT)
      ・フロアカーペット(SPORT)
      ・トノカバー
      ・LEDアクセサリーライナー
      ・ホイールロックセット
      ・スプラッシュボード





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 メーカーサイト

http://www.subaru.jp/impreza





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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。





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2017.2.3
前田恵祐

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