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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#187 背筋が伸びる清々しい出来

 
 スズキ スイフト RSt 試乗インプレッション (2017.2)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 四代目スイフト。6年4ヶ月ぶりのモデルチェンジ。二代目以降同様のコンセプトを踏襲し、その時々に適応した新しい技術で適切にブラッシュアップをはかり、しかもそれらを適価でユーザーに提供しようという、現代の自動車づくりとしてはきわめて誠実感のあるやりかたでここまで来た。適度な値段で買えるエコノミーでちょっとヨーロッパを感じさせる小型車、ベーシックなグレードも、スポーティなグレードもそれぞれに支持する層があり、堅実に売れている。



 エクステリア



 先代より10mm短くなっているという。スタイリングは基本的に二代目からのコンセプトを踏襲。あれこれとブレずに、ひと目でスイフトとわかるアイデンティティを持っていることは大事なことだと思う。良いと思うなら大きく変える必要はない。あるいは、コロコロとデザインを着せかえてユーザーを幻惑するようなところもない。自信と見識がよく現れている。




 ホイールベースは20mm延長。リアのドアハンドルが後席窓の後方に移動しているなどの変更があったり、ウエストラインはちょっとふくよかなイメージになったりと手が加えられている。現代のクルマとして異例なほどAピラーが立っておりそれが室内空間の確保や運転視野に寄与するなど、スタイリングコンセプトと実用が融合している、「意味のあるデザイン」。




 このスタイリングコンセプトになった二代目の尻があまりにペッタンコで少年の尻みたいだと思ったものだが、代を重ねるごとにうまく処理できるようになってきた。今回は適度に絞って小尻にした。ちょっとキュートな印象も得ていると思う。



 運転環境



 ハンドルは手動チルトとテレスコピック調整が可能。ハンドルには例によってスイッチ類がありスポークも太いが、できるだけすっきり握れて握力をコントロールしやすいような配慮を感じる。外径も小さいがステアリングのギアレシオや中立の正確性とのバランスもよく違和感なし。運転席のアジャストは手動の前後スライドにリクライン、ラチェット式の高さ調整。メーターの文字はもう少し大きいと年配者に優しいだろう。ナビはタッチスクリーンのタイプ、というだけで筆者はいじろうという気が失せる。エアコンの操作パネルは簡潔なダイアルと最小限のスイッチでまとめてある。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。このグレードには運転席に肘掛が備わるが、個人的にやや位置が高いと思った。




 この画像は日陰で撮ったから映り込みの証明にはなりにくいが、Aピラーは立っており、まず圧迫感が少ないのと、ガラス自体が前席乗員よりかなり前方にある感じがして広々感にもつながる。Aピラーそのものの存在感もあまり気にならず、角度もいいからピラー内張りがフロントガラスに大映し、ということにはなりにくい。ダッシュボードは画像からもわかるように、うっすら映り込むがあまり気にはならない。サイドミラーはサッシ前方より、ドアパネルからステーを伸ばすタイプにしたほうがより斜め前方視界を稼げると思うがどうか。鏡面そのものは大きく見やすいが、これもシェイプの少ない長方形により近いほうが望ましい。




 運転席からの斜め後方目視視界。リアドアの外側ノブをドアガラス後部に移してしまったものだから、こうなる。ああ、数少ない残念、デザインの弊害。



 インテリア・ラゲッジ



 スズキのインテリアは合理的。無駄な造形が少なく機能もちゃんと果たしており、デザイナーの遊びに決して付き合わない高い見識がそこにはあるのだと思う。安く作る、ということが彼らの大事な部分だから、例えば滅多なことがないと色のバリエーションは増やさない。それはそれでいいと思う。そこを納得して選ぶクルマだ。しかしだからといって過度に安っぽいということもなく、限られた予算の中でやることはきちんとやってデザインを仕上げている感がある。




 前席のつくりに関しては、先日のインプレッサと比べてもいい勝負、という出来。たっぷりサイズという感じでこそないが、全体的に堅めにまとめられており、腰、尻へのがっしりとした支持感が安心感を高め、背中のラインを適切にフォローする背もたれがリラックスをもたらす。横方向のサポートも適切で、最近のドイツ車のそれよりずっとドイツ車的な座り心地。どうやらこのシートは今のところグレードを問わず同じものを使っているようだから、仮に安いグレードを買ってもこのシートが手に入る。良心的。

前席頭上空間:こぶし1つ半




 後席は以前のセンベイ座布団みたいな、イヤんなっちゃう座り心地からは隔世の感。やや堅めで、ちょっと平板な気もするが沈み込んだり底突きしたりすることもなく、適切に身体を受け止める。大きめなヘッドレストもいい。着座位置の高さはスタイリングの問題からも高くできないのだろう、前方の見渡し感はあまりよくないし、サイドウインドウからの視野もあまり広くはない。広さ的に不満はないものの、居心地がもうひとつ。ファミリーカーというより、ちょっとスポーティなパーソナルカーと理解する。

後席頭上空間:手のひら2枚
後席膝前空間:こぶし1つ半




 ラゲッジスペースはこのサイズのクルマとしては平均的、といったところ。むろんこれより広いクルマも存在するが、後席の居住性やスタイリングなどのバランスを鑑みた上でならこれで納得できるのではないだろうか。



 エンジン・トランスミッション



 1リッター3気筒の直噴ターボでアイドリングストップは無し。低い回転域から太いトルクを発揮し、グイグイと車体を前へ押し出す頼もしさがある。動力系の音や振動はかなり抑えられている。3気筒エンジン特有の振動は見事に姿を消しており、3気筒エンジンを搭載していると言われてもにわかに信じがたいくらいのレベルになっている。音質はややくぐもった感じで爽快感はないし、回して愉しい伸びやかさのようなものもなく、完全な実用エンジンという性格付けを感じる。


 6段オートマチックも適切に高めのギアを選択し、このエンジンの得意とする領域で走らせようという躾けも徹底している。パドルシフトを使ってマニュアルシフトしてもいいが、加速時にはトランスミッションの判断に任せてしまっていいくらいうまく立ち回ってくれるし、あるとしたら任意でエンジンブレーキを使用したいときに一つパドルを引く、その程度。シフトショックもあまり感じられず、黒子に徹したなかなかの完成度。


 トヨタ・タンクで味わった3気筒ターボは、実用エンジンであることには違いないが、それでもドライバーに心地よく、あるいは愉しくドライブを満喫して欲しい、という意思が感じられた。それと比べると、このスズキの3気筒ターボは、決して悪くはないしいい出来だと思うが、ちょっと地味な印象。個人的に、フィーリングにおいてはトヨタ/ダイハツ連合が僅差で上回っていると思う。




 試乗は、一般道のみで約10Kmほど走行。ブツ撮り中はエンジン停止。アップダウンやコーナーリングを楽しめるエリア、速度の乗る幹線道路にノロノロ運転も含めとくにエコランを意識せずに走って最終的に15.3Km/Lをドラコンは示した。実用燃費はかなりいい方だと思う。後述、軽量化の影響は小さくないのだろう。燃料はレギュラーガソリン。



 足廻り

 まず今回のスイフトで特筆すべきは、120キログラムという大幅な軽量化である。大型車でさえこのような大規模なダイエットは難しいのに、言うなれば自重の10パーセント以上もの軽量化を果たすというのは並大抵のことではない。以前も軽自動車のスペーシアや現行アルトでライバルより大幅に軽く作ってみせて、筆者は感心したが、今回、スイフトRStが普通に走ってカルく15Km/L台をマークする実用燃費の「実力」を持つのは、この軽量化によるところ大であろう。軽く作ることの意味を、スズキは深く理解している。


 しかし、軽量化をおこなうとその弊害というものが発生する。それはどうしても手薄になってしまう音、振動の処理であったり、ぶつかってみないとわからないが衝突安全性の部分だ。後者はここで試しようがないが、音、振動に関しては、実際に走ってみると一点だけ、もう一歩がんばれなかったかな、という部分がある。タイア(BSエコピアEP150)との相性もありそうだが、路面が荒れてくるとゴーというロードノイズと同時に細かな振動が乗員に伝わってくる。今後の改善に期待したいところだが、頑張って軽くつくることに注力したのだから、大目にみてもいいか、という判断もあると思う。




 いわゆる剛性「感」の面では、車体にはしっかり感が、ライバルと比しても十分なくらいにあるし、ワナワナとたわんだりねじれたりするイヤなところは全くないから、やや固められたバネ、ダンパーによるシャッキリ感のあるハンドリングや乗り心地も、むしろ心地よく「若々しい」という印象を与える。最近のクルマにしては珍しいくらい、はっきりと「硬い」と感じさせるが、それもこのクルマ(このグレード)のキャラクターというものだろう。


 軽さが身上、ひらりひらりと軽快に立ち回る。上述、出来のいいシートとともに、積極的にハンドルを握りたいと思わせてくれる仕上がりだ。



 結論

 「消費者の立場になって価値ある製品を作ろう」を、誠実に実行しているクルマ。姑息な手を使って「うしろめたいコストダウン」に走るのではなく、確かな見識を持ち、あるいはポリシーを貫いて真面目に、しかも歴代ブレずに堂々とやってきているところが気持ち良い。


 今回は、軽くつくる、新しいエンジン技術を載せる、あるいは安全デバイスを充実するなどの、「実りあるアップデート」を小手先の誤魔化しなどでユーザーを幻惑させることなくしかと盛り込んで、直球勝負で仕上げてきた、という印象がある。




 決してクルマ好きが熱狂するような魅力、というか「エロさ」のようなものはないが、太い柱が一本貫いているかのような清々しさ。あるいは地に足のついた見識。安いのにちゃんとしている、その理由を、実車に触れ、探せば探すほど、気持ち良いほどに答えが明瞭に見えてくるクルマというのは、ちょっと他にはない。


 このクルマを知ると他の日本車(の、とくにポリシー)が軟弱に思えてくるようなところがある。その意味でスイフトは日本車離れしている。このクルマを、他より安く買えるから、という理由で選ぶユーザーもいるかもしれないが、だからといって製品として、自動車として二流やそれ以下では断じて、無い。こういうクルマを作れるメーカーが日本に在るというのは喜ぶべきことではないだろうか。あるいは、こういうクルマを作れる「日本人」がまだいるということに安堵を覚える。





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 10項目採点評価

ポリシー >>> 10
デザイン >>> 8
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 7
走りの調律 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ >>> 8
先進性 >>> 8
完成度 >>> 9
バリューフォーマネー >>> 10





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 試乗データ

試乗日:2017年2月6日
試乗車:スズキ スイフト RSt セーフティパッケージ装着車
車輌本体価格:1,800,360円(OP別)
型式:DBA-ZC13S
エンジン:K10C [996cc水冷直列3気筒DOHC直噴ターボ]
トランスミッション:トルコン式6段AT
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:3840×1695×1500mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:930kg
最小回転半径:4.8m
タイア:前後185/55R16 83V(BSエコピアEP150)
JC08モード燃費:20.0Km/L
燃料タンク容量:37L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:5ドアハッチバック
ボディ色:ピュアホワイトパール(ZVR)
内装色/シート素材:ブラック/RS専用シート表皮(シルバーステッチ)
装着されていたオプション:
     ピュアホワイトパール(21,600円)
     全方位モニター付メモリーナビゲーション(142,560円)
     フロアマット(ジュータン)(14,526円)
     ETC2.0対応車載器(41,958円)
     ビルトインDSRC取付キット(3,240円)
     ETCセットアップ(2,700円)





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 メーカーサイト

http://www.suzuki.co.jp/car/swift/





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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。





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2017.2.7
前田恵祐

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