忍者ブログ
前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

ニオイ与信



 平成12年春から翌年のゴールデンウイークまでの約一年、売ったクルマの台数は、数えていないけれど、ざっと100台くらい。だけど、売れなかった場合もあるわけで、それを合わせると、商談、接客の数は膨大なものになっていくわけです。


 もちろん、査定したクルマの数も、数知れず。中古車をユーザーの側として見る眼はそれなりに養っていたつもりだけど、でも、実際に査定という業務に入ってみると難しいものがあって、最初は事故車を見抜けなくて危ういこともあったなあ。


 そうして、数々の商談、接客、査定を通じて、人、クルマと相対する場面を多く踏んでいくことになる僕のセールスマンとしてのキャリア。もちろん、大いに、とは言わないけれど、稼がせてもらったし、会社にも貢献できたという意味で、業務成績として誇るべき内容をもつ約一年間だったとは思う。でも、得たものはそれだけではなかったわけですね。


 クルマを査定していて、一番気になるのは「ヤニ」です。「脂」。わかりやすいところでは、喫煙者による「タバコ」の「ヤニ」。煙の匂いでイッパツでわかってしまうのと、車内にこびりついた茶色い煤、というか、ヤニが、これが大変厄介で、買取、下取りで入庫したとして、これを除去するのに難儀しますから、それだけで、査定はマイナス加点しなければならない。


 タバコというのは、いうなれば「わかっちゃいるけどヤメラレナイ」の代表的なモノですよね。やめたほうが健康の観点からも、お金の観点からも、いいはずなのに、わかっているのに、でもやめられない、ということは、やはりこれは依存性という病気の一種なわけです。ま、今では「禁煙外来」なる診療科もあるくらいだから、やっぱり、ビョウキなんでしょうね。ええとね、追記しておくと、これ、タバコだけじゃなく、ペットも同じ扱いだと思ってください。ペットのヤニ、ペット依存、というたぐいの。


 タバコを吸っている人のクルマでも、その中でも、程度というものがある。以前書いた、 高柳さん のように、普段は喫煙でも、車内では吸わない人もいれば、内装のあらゆるところを焦げ跡だらけにしてしまうような、どうしようもない依存性、あるいは、吸っているけれど、そうとは気がつかないくらいの人。クルマを見るだけでその人のタバコ依存度というものがわかってしまう。


 先に、「わかりやすいところでは」と書きましたが、ほかにもあります。依存性のバロメーター。たとえば、食べ物が極端に肉食に偏っていて、しかもそれがきちんと体内で消化できていないような人は、やはり特有のニオイを発しているし、車内にも「ヤニ」を残しますよね。同じ肉食でも、ちゃんと消化できている人なら、ヤニにはならない。気にならない。たとえば逆に、無理して菜食主義を標榜しているような人で、身体はそれを消化できていなかったりすると、そういう匂いをメッチャ発しますよね。


 ニオイとか、ヤニって、人間の健康状態のバロメーターであるという説を僕は査定と接客の実体験から、大いに支持出来るだけのサンプルを得たと思っています。


 ニオイを発している、ヤニを残す、そういう生活習慣をしている人というのは、やはり依存性というべきだし、もっとわかりやすくいうと、いろいろな面で「無理」をしながら、あるいは、自分や他人に無理を「強い」ながら生きている人が多いですよね。だから様々な面でバランスが悪いし、不健康。一言で言うと、逆に、無理なくバランスの良い人は、「ニオイ」や「ヤニ」を発しません。きわめて清潔で清廉な空気をまとっている。


 不健康、不健全な生き方をしている人はニオイでわかるし、もっというと、それを安モノのオーデコロンで誤魔化そうとしている、もっと「イタイ」人、というのもイッパツでわかる。たとえば、健康、健全な人が同じオーデコロンをつけても、漂う香りが違う。同じものでも、不健康、不健全な人がつけると、それなりのニオイにしかならない。むしろ、オエッ!って感じになってしまう。誤魔化そうとしてさらにたくさん振りかけても恥の上塗りみたいなモノでどんどんダメなニオイにしかなっていかない。


 で。


 そういうタイプの人っておおよそ会って5分と要さずに僕は見抜けるし、そして、そういう人は大抵、クレジットが真っ黒だったりするわけです。自分の身体をバランスよく保つことのできない人は、お金の管理もきちんとできないというパターンを、僕はもうイヤというほど見てきた。


 とはいえ、人間、こうして現世に生きている以上、何らかのニオイをまとって生きているものだとは思います。だから、体臭のある人が全員ダメだとはいわない。だけど、モノサシにはなると僕は思っています。たとえば、ニオイがするからといって、「コイツはクルマ買えねえよ」なんていう結論は早計なんであって。この人にこの値段のセルシオは無理だな、とか、一つ下のクラウンなら行けるんじゃないか、いや、マーク2も無理でしょ、、、というような。


 それをわかりやすく言葉に置き換えるなら、「身の丈」ということになるんじゃないかな。


 もっと厄介なのが、大抵、不健康、不健全で、自己管理のできていない人というのは、その、身の丈をわかっていない。おおむね、自分の買える能力以上のクルマを買おうとするんだよね。それを俗に「背伸び」とか言ったりするわけで。で、背伸びが、かりに上手く出来たとしても、優良な中古車にはありつけない。どこか問題のある、粉飾のあるクルマにしかたどり着けない、というのが「摂理」というもので。


 だから、そういう人の身につけるモノ、身につけられるモノというのは「二流品」以下なんだよね。たとえば僕のいた店の優良セルシオより二割も安い値段のセルシオがマトモなモノであろうはずがない。事故しているか、メーター戻しているか、水没か、なにやら問題のあるモノにしかありつけない。しかも騙された挙句に。


 さらに言うなら、その手の人というのはブランド品に異常に執着するのも明確な特徴だけど、正規のブランド品なんか買えないわけ。というか、ブランド品というのは一定のお金を支払ってホンモノを手にすることに意味があるのに、値段の安さの方に目が行ってしまうのが、そういうザンネンな人の思考回路なんであって。だから、ニセモノとかパチもんなんかを平気で掴まされちゃうわけ。やはり簡単に騙された挙句に。


 こういうのって、ナニが原因とかそういうことではなくて、食べ物を変えてタバコをやめれば一点突破で解決できるかというとそういうことではないと思うのね。


 でも、言えるのは、「まずは、クルマを綺麗に乗る努力から始めてみたらどうですか」ということ。


 たとえば、少なくとも車内にニオイやヤニを残さないために、じゃあ、タバコをやめる、食べ物を変える、それでダメならジムにでも通って代謝を上げるとかね。むろんそれだけじゃダメなんで、ハンドルをテラテラにさせないためには手洗いをマメにするのは大事だし、ドアノブ周辺に傷を残さないために爪の手入れをちゃんとしなければならない。シートのサイドサポートをこするのは腰が痛いとか身体のバランスが悪いからなのであって、ならば、やはりダイエットするとか運動をするというのは、こういうところにも響く・・・


・・・という具合に。


 で、そういうことができるようになるということは、つまり、規則正しい生活ができるようになる、ということでしょう?自己管理って、つまりそういうことなんですわ。ただ、自己管理というのはあくまでも手段でしかなくて、目的ではないと。より生活の質を高めること、よりよいモノやヒトやクルマと出会えるようになること、そして、本物だけにしか備わらない、深い満足に到達すること。


 クルマを軸にして、心身のエクササイズ、みたいな(笑)


 なんてことが、ちゃんとわかっている人は、そもそもクレジットの世話になんかならないわけです。必要な資金は必要なだけ確保しながら生きているし、「身の丈」というものを弁えている。無理して金借りてまで背伸びしてクルマなんか買おうと思ったりしない。世の中、クレジット会社とか銀行とか、金貸しがいなければ回らないようなところがあるけれど、でも、そういう会社の世話にならずに回せている人がたくさんいることも、僕は知っています。


 自己管理もままならず、健康管理もオザナリで、自分の発するニオイやヤニのコントロールもままならない人は、いうなれば「無知なる人」です。そしてそういう人間の無知につけ込んで金を貸して膨大な搾取を生んでいるのが金融業界だと思ってください。


 僕はそうして、人をニオイから判断するという能力を、セールスをやっている期間で習得したような気がします。なにせ、僕による「ニオイ与信」は、クレジット会社の与信と同じかそれ以上に正確でしたから。クレジットでOKが出て成約になっても、結局支払い不能になるというお客様を何人も見てきた。僕のお客様じゃないけどね。まあ、クレジット会社の当時の与信なんてA4紙一枚のFAXだけですから、それでニンゲンの何がわかるというのか。


 ということなので、これを読んだ読者におかれましては、クルマとか、高額な、クレジットの世話になるような買い物の時には、せいぜい風呂に入ってお出かけくださいな、とだけ申し上げて、今日は筆を置くことにしましょうか。





2017.12.19
前田恵祐

拍手[15回]

PR