ランチア・テージス 試乗インプレッション(2006試乗、2009.7再上梓)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください
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ランチア車が放つオーラを言葉で説明するのは難しい。テーマに長く付き合い、長らくランチアとは何なのかと考え続けてきたが答えはまだ見当たらない。ただ一ついえることは、物質的な富や名誉がもたらす充足でない、ということである。
■ 概観
テージスのエクステリアは90年代終盤にランチアが提唱したディアロゴスというネオクラシックなコンセプトカーの考え方をベースとしている。やや枯れた、哀愁を思わせる雰囲気や表情をもち、明らかに高い年齢層をターゲットとしていることがわかる。
賛否あるところだと思うが、例えばテーマは30歳代からでも着こなせるだけのものがあって、しかしそれは30歳代でも大人の価値観を着こなすことを要求されることでもあった。幅は広いがスキルは高い。そう考えるとテージスはさらに、相当絞り込んでいると思う。
地味ながらも洗練されており、細部に神の宿るデザイン。クロムの使い方や細かな仕上げや表情、作りこみなど、安っぽいところが一切ない。しかしそれでいて我が我がとしゃしゃり出てくるおこがましさもない。気品に溢れ、清らか、それでいて一点の曇りもない明快さもある。その成熟した精神性こそランチアの「高級」なのかもしれない。
■ インテリア
各部のデザインはむしろ控えめで、一見どこにでもありそうなものだが、例えば優しいカーブを描く削り出しの木目を観察してみればローズウッド本来の風合いを生かした野性味と熟練工の繊細なワークを偲ばせる造形とフィニッシュがあり、あるいはポルトローナフラウの赤みがかった茶色の絶妙なカラーに心落ち着かせながらも、それは革の滑らかな表面処理と、これでなければ得られないと思わせる優しい線形でカーブする革自体の「しなり」がもたらすものだということにも気がつく。


彼は徹底して「目に見えないモノ」で勝負している。
■ 動力性能
アルファロメオ製V6、3.2リッターエンジンは、例えばアルファ156GTAと同じと聞けばテージスには似合わぬ豪快さを想像させられるだろうが実際にはまったく異なった性格を持つ。具体的には、声色はずっと穏やかで充分に静粛だが負荷を与えたときの切れ味やそのときにだけ覗かせる野性味。この異なった性質を同時に具有することがランチアらしいところだ。
5段オートマチックは日本のアイシン製だがシフトスケジュールなどのプログラミングは現地仕様となっている。しかしその信頼性だけでも日本製をチョイスした意味があるはずだ。マニュアル操作などへのレスポンスは平凡。だがそれで充分。
■ 足回り
支点までの距離が長いアームを持つ足回りの設えは依然として素晴らしく、重力や遠心力を受け容れながらも車体のブレや振動を極力吸収しフラットで滑らかな乗り心地を実現させている。また、ゆったりとした立ち振る舞いや細かな所作や余韻に至るまでもとにかく上品で、凹凸を乗り越えたり、交差点を曲がったりするだけでこのクルマの何たるかを理解できるはずだ。
同時にステアリングは軽く正確であり、ドライバーの意思に背くことなく応答し続けるが、クルマの側からは常にランチアの名に恥じぬワークを要求され、それはいついかなる時にも紳士であれという啓示のようなものである。そして暫くステアリングを握り続ければいつしかこのクルマの色に自分が染まっていくのがわかる。
■ まとめ
このクルマに点数で評価を与えるのは難しいし、適さない方式だと思う。他者と比較してどうのこうのという器の小さい話ではないということだ。高級車として、例えば何が装備されているか、あるいはいかに自慢でき他者からの賛美を受けられるか、というありていな満足がいかに低俗なものであるかと感じさせる。
そんなクルマは他に何処を探しても見つからない。それだけでこのクルマ、あるいはランチアというブランドの存在意義は明白だ。
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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。
前田恵祐
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