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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

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#018 いくらなんでもアシが硬い

ホンダ・シビック TYPE-R 試乗インプレッション(2007試乗、2009再上梓)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 現在のホンダのラインナップ切ってのスポーツモデル。しかしスポーツモデルが4ドアセダンというのはどうなんだろうかな、という疑問はさておき、このクルマはそのままサーキットに持ち込んでスポーツ走行を味わうことができる仕立てなのだ。



 概観

 背が高く幅も広い。まるでオデッセイがセダンになったようなスタイルである。機敏な印象は薄いし、ルックスはあまり良いほうだとは思えない。そこにエアロパーツを付加してスポーツライクな仕立てにしているわけだが、いちおうそれらは機能と根拠に基づいたもので、おかざりではないらしい。





 インテリア

 乗り込むとますますオデッセイ。奥行きの広いダッシュボードに面積の大きなフロントガラスなどからの眺め、また高い着座位置もパノラマ感を増幅しており、観光列車の最前列のような眺めである。




 そこにレブインジケーターが並んでいたりするのがどうにもミスマッチ。このクルマの考えからするともっと簡素に行きたいところだろうが、元がふつうのサルーンだけに限界はある。




 一見レカロに見えなくもないバケット形状の純正シートは優れたサポートと快適性を両立した優れもので、これならあえてレカロを求める理由も見当たらない。




 後席は非常に広く、床も平らだから足を組むことさえ可能だろう。視界も開けていて、ベース車のセダンとしての資質の高さを感じる。天井も高く、頭上にこぶし一つ以上。




 トランクルーム。



エンジン/トランスミッション

 2リッター4気筒V-TECは非常に鋭くまた柔軟性も両立している。ふつうに乗用車として走ることも可能なら、箱根でブン回してカッ飛ぶのも可能なのがウリ。




 しかしエンジンの、本当においしい部分を享受しようとすると、回転計は常にリミット近くを指す必要があり、それは2速で100キロに到達せんとする領域なのだ。したがって日常的に、ちょっと踏んだくらいではこのクルマの凄さを思い知ることは出来ない。合法的にやるなら東名高速にいくか鈴鹿サーキットにでも持ち込むしかないのだ。


 そういう性質のクルマだからそれでいいのだが、もうすこし日々使いで片鱗だけでも見せてくれないとむしろストレスになる。また、後述の足回りもきわめて硬く、街中では我慢我慢の連続だからそれに拍車をかける。



足回り

 スポーツカーといえども日常性を持ち合わせていなければ支持されない時代である。それに、普段使いでは荒れた路面やあらゆるコンディションに遭遇するわけで、それらの出来るだけ多くの場面で最良のパフォーマンスを発揮できなければならない。


 そう考えると、シビック・タイプRの足は完全にサーキット路面向けで、きわめて限定的だ。市販車としては異例なほど硬く、一般道の荒れた路面をほとんど考慮していない。常に突っ張っており、凸凹をしなやかに吸収するということは考えていない。延々揺すられ続け、簡単に跳ねて安定感も損なう。鏡のように滑らかな路面であることが前提のセッティングなのだ。




 百歩譲ってこうしたセッティングもあっていい。しかしそれはユーザーが任意で選ぶオプションにすべきだ。タイプRユーザーがすべからくサーキットランを、しかも恒常的におこなうわけではないだろう。むしろ、4ドアだし、嫁さんも納得するだろう、と思って買う大人のほうが多いんではないだろうか。ましてやディーラーに試乗車の配備も少ない車種だから、納車されてから「アレッ!?」と気がつくパターンも想像に難くない。そう考えるともう少しマイルドなほうがいいように思うのだが、いかがだろう。


 レーシングカーの世界でも足のしなやかさで勝利するパターンもある。91年、92年のF1、ウイリアムズ・ルノーFW14系の勝因は強力なエンジンやマシーンバランス、空力はもちろんのこと、路面の凹凸をしなやかに吸収して安定した姿勢を維持できる足が大きな要素を占めていた。対するライバルのマクラーレン・ホンダMP4/6~7は、エンジンは強力だが空力が弱く、足も良路ではいいが凹凸を吸収せず、荒れるととたんにグリップが下がりパフォーマンスが悪化するという代物。それでもいくらか勝てたのはセナというドライバーに拠るところが大きかったわけだ。このクルマに乗ってあの頃のマクラーレン・ホンダを思い起こした。ガチガチに固めるばかりが能ではないのだ。



まとめ

 スポーツカー=サーキットになってしまう、その「視野の狭さ」がちょっと気になる。しかし実際には街も走るし家族も乗せるというユーザーが大半だ。このクルマはその実情に即しているとは言いがたい。またベース車としてこの型のシビックが適当であったかという議論もあるだろう。もっと小さく軽いクルマ(例えばフィット)のほうが適任ではなかったか。


 例えばこの気持ちよく回るエンジンだけ欲しい、という声があってもおかしくない。あとは普通のシビックでいいですよ、という考えだ。あるいはもっと贅沢で快適な仕様があってもいい。かつてのEG6あたりのSiRを思い出して欲しい。今のままでは選択肢が狭すぎて一部のストイックな「きわめて走り好き」のユーザーしか対象になりえていない。確かに量販できる車種ではないが、こうした「楽しむためのクルマ」をより理解しやすく紐解くのもメーカーの手腕次第なのではないだろうか。



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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。








前田恵祐


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