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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#023 EVとしてのみならぬ魅力

三菱・ i -MiEV 試乗インプレッション(2009.8)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 軽自動車としての理想を追求した三菱 i に、それでもこの先まだまだ伸びしろがあるなと感じたのはまだ出たてのころ。当初の3気筒ターボエンジンに4速オートマチックのみというパワートレインは、とても新しいと感じたパッケージングに対してやや保守的だったからだろう。早くから、電気自動車を開発すると言ってきた三菱だが、いよいよ今年に入って i-MiVEの市販化にこぎつけた。早速乗せていただく貴重な機会を得たのだ。


(注・2009.8現時点では主に法人向け販売のみで個人向けは2010年以降予定)



 概観



 ワンモーション、一筆書きに、一思いに弧を描くデザインは誰もが考えつく「未来の自動車像」だがそれも堂に入っている。全高1.6メートルを越えるため都市部の立体駐車場では入場できない場合がある。細かいことだが、バンパー下部は本来ブラックアウトされている部分。墨入れをケチるというコストダウンはいただけない。




 i-MiEV専用のデコレーションもあり、通常のモデルとの差別もなされているが、この手法も考え物で、後述する「使い心地」からしても、もっとこのクルマ特有の値打ちを表現するものでなければならないだろう。個人向け販売時にはもうすこし考えてもらいたい。



インテリア

 お金がかかっているな、と感じさせるこのクルマの他の部分に対して、明らかにコストダウンを感じるかもしれない。デザインも通り一遍だし、素材も明らかに安っぽく、いかにも「軽自動車です」といわんばかりだ。




 シートのすわり心地もよく頑張っているほうだと思うがどうにも平板で、「これはちょいのりまでだな」と思わせる。ま、 i-MiEVの航続距離には丁度いいかもしれない。しばらくは小まめに休憩をしながら、人も車も充電しながら旅をするべし。




 質感などが頑張れないならせめて色のバリエーションだけでも、シートの布の種類だけでも、顧客の好みを反映しやすく多めに用意するなど「工夫の跡」をもうすこし感じたい。



エンジン/トランスミッション

 正確には、内燃機関、エンジンは無い。




 マフラーもありません。


 どうせ遊園地のゴーカート程度のものだろうと思っているならそれはこのクルマに失礼だ。力感として率直にガソリンエンジンの2リッターないしは2.4リッターくらいの余裕がある。モーターはエンジンと違って最初から最後までフラットに力を発揮する。それは想像以上の運転のしやすさにつながっていて、レスポンスに優れ馬力を取り出しやすい。少なくとも街中を普通に走る限り余裕を持って流れに乗り、時にはリードすることさえ許すだろう。ノイズ、バイブレーションの少なさは言うに及ばず。しかも高級車のようにしっとりと走る。


 過去や排ガスをばら撒いている旧い車たちを、確かにそう簡単に置き去りには出来ないが、しかし「気持ちの上」では置き去りのブッチギリだ。音もなく一直線にビューーーッと。風のように、風と共に、しかも風を汚さずに去っていく。すばらしい。


 残暑厳しく炎天下での試乗だったがエアコンはよく効き、アクセルを強く踏み込んでも思ったよりメーターの針はECOの側からあまり動こうとしない。問題は巡航距離だが、やはり今のところは旅行をするにも日帰りか、出先で充電させてもらうことが前提となる。急速充電器を使用することで約30分で8割がたの充電が可能だという。それならスーパーの駐車場に充電設備を、と思っていたら早くも設置し始めるチェーン店も出てきているらしい。




 これら使い勝手は、充電設備の拡充とともに充電池の性能向上が伴うことで、おそらくは時間の問題でかなり早いうちに改善するはずである。



足回り

 1.1トンまで重量が嵩んだせいか、乗り心地はややマイルドになった。というよりむしろ敢えてそう設えてあるようだ。i のガソリンエンジン車も軽自動車として充分にフラットで質の高い乗り味を持っているが、 i-MiEVはそれに輪をかけて、はっきりと「上質」。凹凸をおおらかにいなし、しなやかな所作や余韻さえも残しながら、その立ちふるまいは鷹揚ですらある。動力系のノイズが低くなり相対的に高まるロードノイズをかなり注意深く対処しているはずで、おおいに静かでバイブレーションも少なく極めてなめらか。




 i のハンドリングは、リアに駆動系を配置するため重量配分に優れることから元来コーナーリング時のバランスがよくスポーティに駆け抜けることが出来るが、 i-MiEVはさらにしっとりとした、しなやかさ、静かさも加わり、まるでよく出来たプレミアムスポーツを思わせる仕上がりなのだ。この点でもまた i -MiEVは高級車だ。



まとめ

 筆者は試乗中、「250(万円)なら売れる」と直感した。少なくとも走りの質感は明らかに250万円以上。まるで小さなプレミアムカーのように仕立てられている。それだけに安っぽい内装が残念だし、車幅ももうすこしあればより走安性のバランスも取れるだろうにと欲も出る。






 よくよく説明を聞くと国や自治体からの補助を受けて今このクルマを購入するとだいたい250万円程度になるのだという。ただ、それも今後の政局、政策次第で状況は変わってくるかもしれない。もしこのクルマが250万円で買えるとするなら、これは相当な競争力だ。純粋に、乗り物としての使い心地、乗り味、完成度、そして最善の環境貢献度を持つ次世代車を手にする所有満足度からいってもハイブリッドの比ではない。


 人間は、ガソリンエンジンを失っても当面はそれまでと殆んど変わることなく、自動車で移動することの楽しみや恩恵を受け続けることが出来る、そう確信させるだけのものがこのクルマには備わっていた。

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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。






前田恵祐


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