日産 フーガ ハイブリッド 試乗インプレッション(2011.5)
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この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください
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エコカーの試乗記は難しい。一番の興味の的である実用燃費を調べるにはよほどなコネを使って丸一日でも車両を借り出さなければいけない。あるいは、レンタカー。ディーラー試乗では限界があるのははっきりしているが、出来ることがあるとするなら、例えば燃費を重視したがために失われたものはあるのか、どのように違和感を処理しているのか、といった部分になる。そのあたりご理解いただければ幸いです。
■ エクステリア
流れるようなラインと豊かで力強いボリューム感。形は違うがいにしえのY31シーマを思い出す。鼻が長くみえるようにAピラーを後退させているようで全体的にクラシック。有機的なデザイン。オーガニック?ともいうか。
リアは先代のやや重厚な印象を反省して絞込みを強くしたとの由。
■ 視界・扱いやすさ
メーターのサイズは大きく見やすい。やや大きすぎるかなとも以前は思ったが、改めて乗ってみるとこれはこれでとても良いものだと思った。もしかすると筆者の視力の衰えがここ数年で進行しているからかも知れない。ドライバーズシートからはボンネットを視野に入れることが出来て狭い道でも心強い。こうした気の利かせ方は昨今の日産デザインの優れたところだ。
ダッシュボード全体のデザインはもう少しシンプルにいきたいところだが、これは好みの領域。メーターを大きくした理由が高齢ドライバー対策なら、ナビの使い勝手はまだ研究を進める余地がある。ちなみにナビの操作スイッチ付近はやや傾斜して斜め上を向いておりボタンを上から押す格好になる。垂直面のボタンを横方向から押すより力はコントロールしやすいが日光を浴びると白く光るのが難点。
■ インテリア・ラゲッジ
銀粉をコーティングした本木目パネルは独特の表情を持っていて、このクルマの内装をまるでコンテンポラリジャズのように不思議な空間にしている。職人の手作業となるこのパネル。思えば日産はこの種の手の込んだフィニッシャーがお好きのようだ。インフィニティQ45のココンインスト(漆塗り)然り、最近ではスカイラインの本アルミ然り。個人的にこうしたチャレンジ(常識を自ら外れようとする行為)は嫌いじゃない。
セミアニリン本革は柔らかくスムーズな手触り。革自体のしなやかさで身体にフィットするシートのかけ心地にも高級感があると思う。ただ、バックレストや座面のステッチが斜めに入っており、薄着だとこれがちょっと気になる。
後席も、たしかに快適にしつらえてあるが、例えばクラウンほどには重視されていないように思う。しかしそれでいい。このクルマはオーナードライブの高級車なのだから。あくまでも後席を重要視する=社用車を外せないクラウン、とは違って、このクルマはやはり自分で所有し自分でハンドルを握る人のためにある。その点でもY31セド/グロ、シーマを思い出させる。
バッテリーが奥に搭載されている関係でトランクルームにゴルフバッグは2つまで。積載方法もシールで貼ってある。フル乗車+人数分のゴルフバッグを積んでゴルフに行くのはクラウンにお任せ。そう割り切っている、そういう生き方のクルマ。
■ エンジン・トランスミッション
ディーラー試乗なので長期的燃費の計測はもちろん不可能。後から出た強みもあってクラウンハイブリッドより良い値を示す、らしい。走った印象にまったく違和感はない。思った以上にEV=電気のみで走る時間が長い。また、これはバッテリーの性質もあると思うが、蓄電量の減りも早ければ充電も早いようで、モニターしていると電池の残量が忙しく増減する。印象としては基本的にEVで走り、蓄電量や加速力が不足するといよいよエンジンのお出ましといったところ。しかもスッと出てきてスッと消える。モード切替を備えるが、ノーマルモードで充分だし、自然。試乗中の燃費計はおおむね10km/Lを超えていました。
7段ATだが、ガソリン2.5の時の印象よりずっと洗練されており、有段AT車とは思えない程滑らか。上述のとおり電気とエンジンの切り替わりにも段つきがない。それにしてもVQエンジン18年目。将来こうしてモーターと絶妙のコラボを演じることを、あの頃想像しただろうか。希望を言えばもう少し低い排気量、せめてラインナップにもある2.5で留めたい。エンジンはただの発電機に成り下がるのがハイブリッドの理想形なのだから。しかしそれでも3.5リッターエンジンなのは、コスト高を価格に反映せざるを得ないからだろう。2.5に下げたところでコストは大して変わらないだろうし、そうなれば、2.5でこの値段か、という声が出てくるだろうと想像はできる。
■ 足廻り
日産の、いまやフラグシップ車種であるフーガのさらに最上級車種とあって、足回りの印象も一段と洗練されている。ハンドルは軽いがしっかりと手のひらに路面の印象を伝える。もうすこし反力があってもいいような気はするが、直進性は落ち着いている。ハンドルのリムを木目とのコンビにしないのは一つの見識。安全上の観点からもハンドル表面と手のひらとの摩擦係数、手触りは、どこを握っても一定であることが望ましい。電動倍力、回生協調などハイブリッド独特のブレーキもそれと聞かされるまで気がつかないほど自然。
長いストロークをゆったりと使い、微小突起を感じさせないフラットさはダンパーの動作精度の高さによるもの。それと共に、不意にバウンドすると少しだけ優しい余韻というか、所作のようなものを残すあたりが上品。これは闇雲に余韻を残しすぎて反復する前にきちんと収束をコントロールできているから良い後味だけが残る。しっとり感、ゆったり感がいい。ガソリン2.5のコンフォートサスペンションは、それでもけっこうソリッドな印象でスポーティだったが、こちらは軽やかであると同時にしなやかな乗り心地。タイアも比較的剛性の高い銘柄が採用されていたが当たりはまろやか。ついでに静粛性もワンランク上。
■ 結論
フーガは個性的でパーソナルな高級車だ。これには、よりパブリックをイメージさせるクラウンの存在があって初めて引き立つものだと思う。この構図はセド/グロ時代から続く長い歴史の中でも何度か起きている現象で、本文の中でも度々Y31を引き合いに出した。あの頃を知る者として、このフーガにはどこか懐かしさを感じるのだ。ライバルに惑わされず主張がはっきりとある。今の日産車の中でもっとも日産純度が高い一台ということが出来るのではないだろうか。フラグシップはこうありたい。
ハイブリッドの完成度はとても高い。違和感のなさ、とくに通常のエンジン車と比べて走り味でまったく遜色がなく自然で、走りの楽しさを実感できることが大きい。そのあたりも日産らしい。例えばBMW5シリーズの6気筒車などと比べても走り味で遜色はないと思う。むしろハイブリッドであること、燃費がいいことにおいてはこちらのほうが、日本で使用する分には優位性があるといっていいだろう。
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■ 5段階評価/★★★★☆
より排気量の低いエンジンで行きたいですね(-1)
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■ 試乗データ
試乗日:2011年5月18日
試乗車:フーガ ハイブリッド(OP含む車両本体価格:6,415,500円)
型式:DAA-HY51
エンジン:VQ35HR+YM34(ハイブリッド)
トランスミッション:マニュアルモード付き7段AT
駆動方式:FR
全長×全幅×全高:4945×1845×1500mm
ホイールベース:2900mm
最小回転半径:5.6m
車両重量:1860kg
ボディタイプ:4ドアセダン
ボディ色:ブリリアントシルバー(M)<#K23 スクラッチシールド>
内装色:ブラウン/セミアニリン本革<P>(メーカーOP)
装着されていたメーカーオプション:
プレミアムインテリアパッケージ+BOSEサウンドシステム(640,500円)
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■ メーカーサイト
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ご留意ください
この試乗記は貴方の試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をしてよくお確かめください。
前田恵祐
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