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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#193 トヨタ・カムリ ~ 試乗 〈2017.9〉


この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 カムリというクルマ 

 FFになって以降のカムリは実直にスペース効率を優先し、あまり世の中の求めや流行りに左右されることなく、つまりブレの少ない大型セダンとしての地位を築いたと思う。2017年にデビューした最新型は10代目で、トヨタが今推進しているTNGAを全面的に取り入れて、走行性能の分野を強化したとされている。セダン復権と言われて久しいが、しかしそんなにセダンは落ちてしまっているのだろうか。注目を浴びるためのキャッチコピーという気がしないでもない。





 外 装 

 先代カムリはミニバンやエコカーなどの、現代的な乗用車のデザインが多く出てきている中で堂々とセダンの本流を貫きつつハイブリッドという武器も手に入れて大きな支持を得た。その意味でやや保守的な印象を意図的に残したと思われるようなところもあった。




 新型もまたセダンとして、あるいは、現代的なフォーマルとしても通用するくらいの大人っぽさを残しつつ、でも顔だけは凝った造形に。顔というよりロアグリルが目を惹くようにしてあるとのこと。全体的に重心が高く見えてしまう現代のクルマゆえに、下方に印象を惹きつけることで効果的に低く見せる手法との由。写真で見ると目立ったが、実際に見るとそうでもなく、見慣れてしまう。




 側面から見ると、ややトランクを短く見せる手法はどことなく新しいレクサスLSにも通じる印象。過剰にプレスを加えておらず、今のクルマとしてはプレーンな印象さえある。そこがこのクルマを大人のクルマとか、ブレないクルマ、というようなイメージに結びつけているように思う。




 テールの印象もおとなしい。あれこれと、見せびらかすようなところがなく、シンプルに穏やかなラインを描くことでむしろこのクルマの個性を作り上げている。ちなみに、小さく見えるホイールはそれでも17インチ。


 運 転 席



 試乗グレードは”G”で運転席は8ウェイパワーシート。ステアリングコラムの調整は手動でチルトとテレスコピックが可能。シフトレバーは標準的なストレート式で駐車ブレーキは電気式のオート。エアコン、またメーカーオプションのナビは操作パネルをスマホのように仕上げながら大方の操作に関しては通常のボタンが備わるというもの。全てタッチパネルにしてしまうのはやはり自動車の操作環境としては無理があったのではないだろうか。ステアリングスイッチは例によっていろいろ操作できるが、要領を飲み込むのもたいへんだし、運転中の操作には相当なれてからでないと危ない気がする。パワーウインドウは全席ワンタッチ。運転席からボンネットを視認できる。またメーターパネルの表示やフォントはやや小さく、視力の落ちた年齢層には見づらいかも知れない。




 Aピラーは白くてガラスへの映り込みはこんな具合。ドアミラーは撫で肩形状でなく、比較的横方向に余裕のある面積を確保している。このミラーにトランク付近のエッジが見えるため車幅感覚を得る助けになる。ご覧のように内装のクロームの加飾がガラスに映りこんでいる。トヨタ車にはこうした例が多い。




 ペダル周りのスペースにも余裕があるのはさすが大型FF車。ブレーキとアクセルの高低差はもう少しあったほうが踏み間違いの防止にもつながるのではないだろうか。多少違和感があったほうが感覚的に今どちらを踏んでいるかを認識できるように思う。




 目視後方視界はご覧の感じ。Cピラーを太くせざるを得ないがガラスに沿ってやや削ってあり、厚ぼったい印象を避けている。


 内 装 



 できるだけ高さを抑えて圧迫感を与えないように考えられた造形。基本的にレイアウトや使い勝手は大きく違わないし迷わないという点では好ましいつくり。しかしトヨタはどうしても斜めの線とか流線型の造形をインパネに取り入れたいようで、このクルマも例外でない。そうなっている必要があまりない造形は無駄に感じるし、そうしたあたり、あまりあれこれ考えず、おとなしいながらも美しく質感あるデザインとすればより説得力が増すように思うのだけど。




 前席シートはサイズも大きく筆者の体型ならバックレストは肩口までフォローする。ヘッドレストも適切な高さにすることができる。シートの骨格ががっしりしており、身体を預けたときの安心感はこのクルマ特有のものかも知れない。座面やバックレストの凹凸は少なく、タイトにサポートするというより、おおらかに受け止めてくれる印象で、それはアメ車のシートの印象に近い。トヨタ車の中でも様々なかけ心地のシートがあり、作り分けがハッキリしている。

 前席頭上空間:こぶし2つ




 後席の座面はやや薄く見えるがこの下に燃料タンクと、移動してきたバッテリーが収まっているためこのようになっているが、座ってみてもクッションストロークはあるし、前席で感じたおおらかでゆったりした印象は後席もそのまま。前方の見晴らしも良好。

 後席頭上空間:こぶし1つ
 後席膝前空間:こぶし3つ(前席筆者着座位置設定時)




 トランクルーム前方からバッテリーがなくなり、そしてトランクスルーも復活。トランク容量も85L増えて525L。


 走 り



 新設のエンジンは従来と同じ2.5L。エンジンマウント類にも気を配って騒音振動の低減が施されており、その効果はたしかに従来型より静かになった室内で感じることはできると思う。力強さはあまり変わらない気がするし、低速域でのことではあるが、たまにエンジン出力とモーター出力が切り替わるタイミングで感じる境目(ショックとまではいかない)は以前からあった。そろそろ新しい考え方の、より電気優位のハイブリッドが見てみたい。




 上り坂の多い市街地と幹線道路を30分ほど走って17.3Km/Lの燃費表示。走り方はとくに燃費を意識せずに流れに乗った。




 走り出してまず感じるのはしっかりとした骨格と軽やかな動き。そこに作動のスムーズな足廻りが組み合わされ、フラットでしなやかな走り味を実現している。例えば凹凸を通過した際の余韻が少なく、柔らかいのにソリッドな印象。従来のトヨタ車のような、頼りなさを伴うものとは異なり、ハンドルを切った時の正確さもあるし、だらしない振動やねじれなどを感じることもなく、安心感が高い。トヨタ車特有のつま先立ったロール感も改められていて、安定して路面を捉えている感じがいい。TNGAの効果は確かにあるのだと思う。しかしそれは山坂道をガンガン飛ばせる、あるいは飛ばしたくなるようなタイプではない。でもそれでいいと思う。


 結 論 

 基本的には、やはりブレの少ない、あるいは安定感のあるコンセプトの新型ということはできると思う。しかし、このクルマに求められる課題をクリアし、目の肥えた大人のドライバーを納得させうるだけの内容を盛り込んでいる。妙に力んだところもなく、中年以上の人が落ち着いた気持ちで、安心感とともに、社会に溶け込めるセダンとして仕立てられている。それはかつてのクラウンやマーク2が行なっていた商品作りでもある。


 今、クラウンやマークXがやや迷走気味の中で、大人が乗って恥ずかしくないセダンというのは選択肢が少ない。先代からこのクルマが注目度を高め存在意義を確かなものにしつつあるのはある意味、必然的なことだったのかもしれない。例えば先代カムリがあったから、現行クラウンは冒険ができた、と見ることができるようにも思える。


 新型カムリがきわめて安定感のあるクルマ作りに徹している中で、クラウンやマークXが今後どのようになっていくか、興味の尽きないところだ。


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 筆者が感じたカムリの「良かった点」
・ブレが少ないコンセプト
・磨いてきた走りはその成果を感じることができる
・写真ほど顔がエグくない

 筆者が思うカムリの「良くして欲しい点」
・これ以上大きくなられると日本では困ると思う⇒なるべく小さく
・走行中、エンジンとモーターの出力の境目が時々気になる
・内装色のバリエーションが少ない(上位グレード2色、試乗グレード1色)


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 参考データ

試乗日:2017年9月20日
試乗車:トヨタ・カムリ"G"
車両本体価格:3,499,200円
型式:DAA-AXVH70-AEXNB
エンジン:A25A-FXS
モーター:3NM・交流同期電動機
駆動方式:FF
トランスミッション:電気式CVT
全長×全幅×全高:4885×1840×1445mm
ホイールベース:2825mm
車両重量:1580kg
最小回転半径:5.7m
装着タイア:215/55R17 (ミシュラン・プライマシー3)
JC08モードカタログ燃費:28.4Km/L
ボディ色:グラファイトメタリック<4X7>
内装色:ブラック(ファブリック)
装着オプション:T-Connect SDナビゲーションシステム(334,800円・メーカーOP)
        ブラインドスポットモニター
        +リヤクロストラフィックアラート
        +インテリジェントクリアランスソナー(92,880円)
        アクセサリーコンセント(43,200円)
        ETC2.0ユニット(44,064円)+ETCセットアップ(2,700円)
        フロアマット・ロイヤルタイプ(51,300円)


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 メーカー公式サイト

http://toyota.jp/camry/








2017.9.20 記
前田恵祐

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