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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#194 ホンダ・N-BOX ~ 試乗 〈2017.9〉


この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 N-BOXというクルマ 

 例えばステップワゴンやオデッセイなどの”ピープルムーバ”で大きく支持を受けたホンダが、同様に人間や積載する荷物を中心に考えて出来うる限り室内容積を確保する軽自動車の分野で人気の高いトールワゴンコンセプトに基づき市場に打って出たのがN-BOX。売れに売れて二代目は一見して新型と分からないほど見た目の印象を継承した。新型は、オヤクソクのホンダセンシングを備え、安全面を強化している。





 外 装 

 細かく見れば、ここ、ここ、と新しい部分を探せるのだろうが、全体を通した印象は従来型に、あまりにも似ている。それが悪いとは言わない。人気があり、それを維持し続けるにはあまり目立ったイメージ変更は得策でない。中身で勝負、といったところか。




 撮影車はカスタム。従来型カスタムはややドギツイ装飾で個人的には、俗に言うデコトラ方向の趣味じゃないかと思ったが、そこはホンダも考えたようで、今回はややオトナシめ。




 サイドビュー。従来型から敢えてイメージを継承していることを感じさせる。




 リアゲートは真四角に近く、大きく開かなければならない、となるとテールレンズやバンパーの形状に自由度もなくなる、という意味で、この種のクルマのリアビューはどれも類似系になりやすい。もうなにがなんだか。


 運 転 席 



 高い位置にセットされた計器盤は見やすいが、そのかわりスカットル高も高めになり背の低い人にとっては前が見づらいと感じるかも知れない。シートリフターは備わるが、これはもう少し調整幅を持たないと不満が出そうな気がする。シフトレバーとエアコン操作部は操作動線が干渉する。そろそろ新しいアイデアが欲しい。駐車ブレーキは足踏み式で二度踏み解除。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。このクルマに限った事ではないが、ステアリングスイッチがたくさんついているのは、多機能っぽく、あるいは高価そうに見えるだけのことで、運転中の操作はより簡略化しないと危ない。飛行機の操作系ならまだしも、空の交通より遥かに過密でドライバーごとのスキル差もあり、危険の多い地上、自動車の交通環境下での本当に安全な自動車の操作系統はより議論と研究が必要と思う。




 説明通り、たしかに細くなったAピラー。そして依然として視野確保のための効果が大きい、合わせ鏡を応用した「ピタ駐ミラー」も健在。こういうものはどんどん継承、あるいは、水平展開すべきだ。サイドミラーもよく見える。




 ホイールハウスのせり出しもなく、ペダル周りもすっきりしている。アクセルとブレーキの高低差は平均的。




 目視後方視界はご覧の感じ。リアアンダーミラーを内側に備え外観をスマートにしたことと、バックカメラ無効時もないとは言えず、バックカメラ装着車であってもこうしたバックアップがあるとやはり安心。


 内 装 



 運転席の項目でも記したとおり、ダッシュボードが高く、存在感が強い。デザイン上の印象も小さくはないと思うが、いずれにしても「下の方までよく見える」従来のホンダ車の常識からはやや離れている。




 前席シートは一見して軽自動車の常識からすると大きく余裕のあるサイズに見えるが、実際に座ってみるとけっこうザンネン。やわらかめ、というより、とらえどころがなく、支えられている、あるいはサポートされている安心感が希薄。むしろ、今安全快適にドライブを楽しむことより、クルマから降りた時のことを先読みさせるかのような、集中力がそっちにいってしまうタイプのシート。「今ここ」に集中させる、そうした精神的効果を醸成するのもシートの重要な役割。そういえば、現行ステップワゴンのシートもこうだったな。

 前席頭上空間:こぶし2つ以上




 後席もまた、人が安心して身体を預けるというよりは、荷物を置いたりチャイルドシートを取り付けたりするための場所、といった印象が強い。ま、それが日本の軽自動車であり、そうした使われ方をするのだと言われればなにも言い返すことはできないし、そもそも、このシートになにか言いたい人はこのクルマを買わない、ということなんでしょう。しかし、良いシートに、きちんと座らないと疲れるし、車酔いの原因にもなる。もっというなら安全性も低い。シートは、「それでも」ちゃんと作るべき、と思うが、このクルマを作る際に最も参考にしたのは女性の声なのだとか。女性の声を受けてシートアレンジなど色々作っているようだが、さるメーカーによるリサーチによれば、買う前にあれほど重要視するシートアレンジは買ってから最も使用頻度が低いと出ているらしい。念のため。

 後席頭上空間:こぶし2つ以上
 後席膝前空間:こぶし3つ以上(前席筆者着座位置設定時)




 下に向かってすぼまっている間口の形状でやや損をしているような気がする。そもそも荷物はここには置かないということか。リアゲートも長大で車両後方にそれなりのスペースがなければ開けたてできない。実用頻度は低いということなんでしょう。


 走 り 



 試乗車はNAエンジンで58馬力。スペック的には各社ほぼ横並びで、カタログを見る限りではドングリの背比べになってしまうが、実際に走らせてストレスなく爽快に走ってみせるのはホンダ。これは何十年前から変わらない。例えば、シビックとカローラの同じ100馬力でも、走らせた時の気持ちよさ、あるいは満足度、もっというならQOLが高いのはシビックの100馬力だった。というわけでこのエンジン、平凡だが実に気持ちよく、秀逸。CVTの制御、スロットルレスポンスもオカシなことになっておらずいたって自然。全体的に一枚オブラートにくるまれたような静粛性と振動処理。




 ほぼ100パーセント市街地を走行。流れに乗って走って試乗中平均燃費は15.0Km/L表示だった。燃費を気にして控えめにしたところで、このクルマの場合あまり変化は現れない模様。ならば気持ちよく走ったほうがいい。




 走り出して足廻りからも感じるのは振動処理と静粛性。エンジン同様、軽自動車らしからぬしっとりマイルドな印象を伴って走る。バネ系も意識的に柔らかめにされているようで、それは駐車場から歩道の段差を越えて道路に出る時からわかる。限られたストローク、アーム長の中で、なるべく素直にアシを動かし、フラットな走りを演出しようと努力した痕跡が感じられる。走り出して例えば幹線道路の継ぎ目やうねりを通過した際に、ピッチングとまではいかない、ちょっと意図的とも思えるフワリとした余韻を残す。これは好みの問題だが個人的には作為的に過ぎると思う。しかしこれに乗ると他社が綺麗にアシを動かせず、ブッシュの硬度調整で柔らかさを演出していることが如実にわかると思う。


 結 論 

 室内の実用性や流行りの安全装備などを充実させて、カタログコピーを躍らせるための要素を満たしつつ、例えば地味に軽量化を達成していたり、走り味を一回り成熟させてきたりと、全方位的に抜け目の少ないクルマだと思う。


 例えば、デザインや色使いなどでこのクルマならでは感の演出を、さらにおこなえばよりオリジナリティを発揮できるのに、とも思う。しかし走ってみればホンダならではのエンジンの良さを筆頭に、静かさ、乗り心地の良さなど、乗り比べればさらにはっきりと、このクルマの特徴を捉えることができるだろう。


 女性は自動車に関わるようになって日が浅い。高速移動体に必要、あるいは重要な要素や安全、スピードへの感覚などは男性のほうがより冷静に直視出来ると思う。自動車は荷物や子供が積みやすい、というだけのハコに成り下がってはいけない。自動車とは、自らの意思で自分の足だけでは到底不可能な距離と時間を人間に与えてくれるものであり、その根源的なメリットとデメリットにもう一度きちんと向き合い議論すべき時が来ているのではないだろうか。


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 筆者が感じたN-BOXの「良かった点」
・爽快に走りストレスの少ないエンジンとトランスミッション
・静かな車内
・ピタ駐ミラー

 筆者が思うN-BOXの「良くして欲しい点」
・シート
・ダッシュボードが高く見晴らし感を阻害しているところ
・過剰演出感のあるしなやかなアシ


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 参考データ

試乗日:2017年9月22日
試乗車:ホンダ・N-BOX・カスタムG・L Honda SENSING
車両本体価格:1,752,840円(右側パワースライドドア含)
型式:DBA-JF3
エンジン:S07B/660cc水冷直列3気筒DOHC
駆動方式:FF
トランスミッション:CVT
全長×全幅×全高:3395×1475×1790mm
ホイールベース:2520mm
車両重量:900kg
最小回転半径:4.5m
装着タイア:155/65R14 75S (ダンロップ・エナセーブEC300)
JC08モードカタログ燃費:27.0Km/L
ボディ色:プレミアムホワイトパールⅡ
内装色:ブラック×バーガンディ(トリコット)
装着オプション:右側パワースライドドア
        スタンダードインターナビ175VFi(176,904円)
        フロアマット・プレミアム(26,784円)



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 メーカー公式サイト

http://www.honda.co.jp/Nbox/








2017.9.25 記
前田恵祐

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