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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#197 アルファロメオ・ジュリア ~ 試乗 〈2017.12〉



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください

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 アルファロメオ・ジュリアというクルマ 

 走りのクルマは後輪駆動でなければならない、というような論調は、アルファロメオ車から後輪駆動がなくなったころから聞かれていた。75が姿を消し、やがてSZもフェードアウトした。以降20年以上アルファの乗用一般モデルは前輪駆動でやってきたわけだが、だからといって個性を失ったわけではなかった。むしろ濃厚な個性と独自のハンドリング哲学、情熱的なエンジンなどで多くのファンを病みつきにさせてきた。そこへ、同グループ内のマセラティの成功などを受け、彼らと同様のアーキテクチャを水平展開する形で、いよいよアルファにもFR車が復活、それに往年のジュリアの名を冠した。


 外 装 



 まるでファンシーグッズのようなモノに成り下がっていた昨今のイタリア車。たしかに同じ構造理論を共有する中で個性を打ち出す作業は困難であり、似たようなモノを避けるには”ファンシーグッズ”に成り下がるしかないのかもしれない。しかし、このクルマには構造共有が好作用したというべきだろう。やはりフロントエンジン・リアドライブというレイアウトを持つ四輪自動車には普遍的美意識をもたらす才能がありそうだ。ひと目でアルファと認識させながら、過剰で作為的な造形を避けつつ、十分に美しい。私はFRであることより、このデザインをみて「アルファが帰ってきた」と感じた。




 ハナが長くキャビンがやや後退している、あまりにありふれたFR車のフォルム。例えばBMWやメルセデスで見慣れたモノだが、やっと、それをアルファがやれた、収まるべきところの収まっている感のあるデザイン。サイズ的に、もっと大きなものを想像していたがじつはBMWなら3シリーズと同等であり、車両レイアウトの類似性から言うと日本のV35スカイラインあたりもイメージできる。




 過剰でない、端正な造形で美しさをもたらす。そんな簡単なようでいて、現代のデザイントレンドの中では難しく、突出した魅力になりにくい手法だが、アルファ、イタリアの手にかかればこうなる。


 運 転 席 



 大画面が備わっているが、ナビ機能は盛り込まれておらず、スマートフォンなどを接続してナビ機能を利用するべし、とのこと。バックカメラの画像は小さく、あんまりそれを頼りにしながら運転しないように、的な雰囲気。メーターのフォントは、ああ、アルファだなあと。これで照明が緑ならもっとモリアガる。ハンドルはチルトとテレスコピックを備えこのグレードにはハンドルヒーターも。シフトレバーはBMWのATと同じロジック。駐車ブレーキは電気式スイッチ操作。全席ワンタッチのパワーウインドウ。エアコン操作部はダイアルとスイッチの混成で整理されている。ハンドルのスイッチなど備えず、ハンドルの軽量化を重視しました、くらいのことを言ってくれるとグッと来るんだろうに。




 Aピラー内張りは薄い色でフロントガラスに映り込む。しかしAピラーそのものは現代のクルマとしては立ち気味の角度で、ダッシュボードそのものも奥行が少なめ。よって室内空間はタイトな印象。無駄に広いという感じがしなくて、ちょっと懐かしい。ドアミラーは角落とししすぎ。




 目視後方視界はこんな具合。振り向いて確認するのがイタ車のデフォルト、これは昔から同じスタンダート。


 内 装 



 奥行きの少ないダッシュボードにモダンな造形、しかしどこか懐かしさを感じさせるマジック。美しい木目に薄いベージュのインテリアの色彩もいい。魅力的なインテリア。




 前席シートは小さめだが常にサイドサポート部が身体にタッチしているタイト感があるわけでなく、それでいて過不足なく身体を支えてクルマとの一体感を演出している。背中のS字カーブの具合がいいのと、座面の角度も好みに合わせられるため、昔のイタ車のように手長猿型とか、そういう違和感は全く感じない。基本的に低く座る。

 前席頭上空間:こぶし1つ半




 前席から振り向くと、現代のクルマとしては意外なほど後席が近く感じられる。スペース的に不足があるわけではなく、適度な広さ。なにを無闇に広さを追い求めているのだ、これだけあれば十分である、という声が聞こえてきそう。バックレストは日本車に比べると、あるいはヨーロッパ車の中でも角度は立ち気味と見て取れる。そして座面の後傾角がきちんと採られ、お尻が前にズレにくい。たぶん長時間長距離乗車時の不満は少ないのではないかと思われる。

 後席頭上空間:手のひら1枚
 後席膝前空間:こぶし2つ(前席筆者着座位置設定時)




 この外寸、あるいは外装デザインにあって、よくトランクスペースを稼いでいる方ではないだろうか。効果的に左サイドを掘ってあったりするのと、奥行も深い。


 走 り 



 エンジンルームを覗くと、やはりというべきか、直列4気筒2.0ターボ直噴エンジンはバルグヘッドにめり込むように搭載されている。ハナ先の軽さや優れた前後重量配分による運動性能の高さを予期させる。


 その2.0ターボエンジン。試乗グレードは200馬力の、日本仕様としては大人しい仕様。第一印象はあまり良くなかった。なにやらガリガリゴロゴロと雑音や振動も小さくないし、低速トルクもあまり豊かな感じはしない。ZF製8段オートマがテンポよく変速してスムーズに加速するが、もうひとつ、何かが足りない。アウディのエンジンと言われても、ああそうですか、と言ってしまいそうな感じなのだ。


 そこで、流れの良いバイパス道路で低めのギアを選択してみると、これまた何事もなく回転を上げるが、しかしそこにドラマチックな何かはない。私が知るアルファの4気筒でいうなら155以降のランプレーディ世代だが、エンジンのフィーリングだけなら155や156の方がずっといい・・・と感じたのは、なにもこれが初めてのコトではなく、ジュリエッタに乗った時にもあまりカンドーはしなかったし、ミトの時も同じだった。もはやあの情熱とエロスに満ちた、まさに人間が生きていることを実感させる時間は過去のものとなった。


 ま、この個体は初期モデルであるから、時間の経過とともに変化する可能性はないではないと、思うことにしておこう。




 試乗グレードはフロント225/45、リア255/40の18インチを履く。そのような太いタイアを難なく履きこなせている、というより、強靭で強固な印象の骨格と取り付け剛性の高いサスペンション、それにフリクションの少ないバネ系が組み合わさって、しなやかでいてしたたか、ハンドルも軽く正確で、現代の最新の水準をもつ走りを獲得している。あるいは、ライバルのBMW3シリーズに肩を並べているというべきか。しかし現代のビーエムはもっとしなやか、というか柔らかさの演出がうまい。こっちはややカタい。昔と逆。


 個人的には、もうすこし全体的に挙動の軽やかさが欲しい気がする。リアのタイアを太くして、ガッチリとグリップさせ、落ち着かせるより、リアのスリップアングルの変化を楽しむ、あるいは、ドライバーの任意でコントロールするという自由度のある設定の方が、アルファらしい個性が出て良いのではないか。そうすると「限界が低い」とか文句を言うやつがいるんだろうとは思うけれど。注文生産のベースグレードが履く17インチ50、225の前後同サイズがどんな走りを持っているのか、興味深い。




 試乗中の燃費は9.2L/100Kmの表示。日本式に置き換えると10.8Km/Lくらいになるだろうか。



 結 論 

 80年代から90年代にかけてのイタ車の毒にヤラれて、未だにその毒の抜けない筆者ゆえ、注文も多くなってしまったが、しかし、ともあれ、現代の水準を満たし、魅力的なデザインやサイズ、個性を持って、FRアルファが帰ってきた、というのは、私のみならず多くのイタリア車ファンにとって大いなる朗報であろう。壊れるかどうかは時間が経ってみないとわからないが、ま、壊れるのも、困らされるのも、イタ車の醍醐味であると申し上げておく。「これも人生だよな」と、人里離れた山奥で天を仰ぎ、ささやかな悟りの境地をもたらしてくれるのも、イタ車の才能。そんなチカラを持ったクルマなんて、どこを探しても無い。


 私はこのクルマのサイズと値段を見たときに、正直言って安いと思った。待望論の熱かった量産後輪駆動、FRアルファであるがゆえ、または、他の高級ブランドとアーキテクチャを共有したつくりになると想像すれば、日本での価格がベースグレードでも600万円台くらいにはしてくると思っていたからだ。それが、いざ蓋を開けてみれば普及グレードで500万円台。これはかつての164と同じ水準なのだ。ミドルクラスの高級スポーツセダン、ベルリーナ、という点で、このジュリアは現代の164なのだと思った。


 程好い雰囲気作り、なにより大きすぎない適度なサイズ、粋なデザインなど、これでエンジンがかつてのように情熱的なら、とは思うが、それでも、現状において十分に溺愛できるだけの要素を備えた、実にイタリアらしい、アルファロメオらしい個性と魅力をたたえた製品になっていると思う。昔と違ってボディカラーや内装の仕様の選択肢も広がっているようだし、アウディやBMWなどとは異なる世界観を見ることが出来るのではないだろうか。







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 筆者が感じたジュリアの「良かった点」
・イタリア、アルファを感じさせる個性的なデザイン、ムード
・しなやかでしたたかな走り
・手が届きそうな価格設定

 筆者が思うジュリアの「良くして欲しい点」
・エンジンがもっと情熱的なら・・・
・せっかくの大画面を活かせるナビをビルトインしてほしい
・強いて言えば日本では幅がデカイこと



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 参考データ

試乗日:2017年12月20日
試乗車:アルファロメオ・ジュリア・スーパー
車両本体価格:5,430,000円
型式:ABA-95220
エンジン:55273835(1995cc縦置き直列4気筒DOHC直噴ツインスクロールターボ)
駆動方式:FR
トランスミッション:トルコン式8段オートマチック
全長×全幅×全高:4645×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車両重量:1590kg
最小回転半径:5.4m
装着タイア:前225/45・後255/40R18(ピレリ・チンチュラートP7)
JC08モード燃費:13.6Km/L
ボディ色:モンテカルロブルー <092>
内装色:ブラック・ベージュ/レザー <501>
装着オプション:メタリック塗装(86,400円)
        フロアマット(41,040円)



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 メーカー公式サイト







2018.1.1 記
前田恵祐

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