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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#198 マツダCX-8 ~ 試乗 〈2018.1〉



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください

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 CX-8というクルマ 

 日本市場では、いつの間にか3列シート車であることが強いアピールポイントとして通用するようになった。以前は、ニーズがないからと、取り付けることも可能なのにサードシートをつけないで売っているクルマもあった。マツダとしてはプレマシーやビアンテをフェードアウトさせる都合もあり、このCX-8がそれらへのニーズをカバーするのではないかという声も内外にあるようだが、それはどうなんだろう。第一、値段が違う。CX-8というクルマ、価格のボリュームゾーンは400万円付近にあり、総額で500万円に届こうというクルマだ。この価格設定を、さてどう捉えるべきか。


 外 装 



 例のマツダ顔のSUVで、一見するとCX-5と選ぶところがないといった印象だが、よくよく見ると少しずつ大きく、実寸で全長は+355mm、全高は+40mm、ホイールベースは+230mm大きい。CX-5がやや寸詰まりに思えるくらい伸びやかなフォルムを持っている。




 CX-5のロングバージョンと思えば取ってつけたような不自然な印象の少ない、長い全長を上手く消化できているデザインではないだろうか。




 ただ、「代わり映えしないじゃないか」という声には応えられていない。ま、変えるつもりもないし、そういうデザインコンセプトなんです、と言われれば、そうですか、という他ないが・・・。車体色の設定は他のCXシリーズとほぼ共通で、これも代わり映えがしない。デザイン性の高いクルマなのだから、いろんな色に塗ってみたいが、色のバリエーションを限定するのも、なんだかんだ言ってコストダウンの一環なのだ。


 運 転 席 



 ダッシュボード上のモニタは7インチ。個人的にはちょっと小さい気がする。ハンドルは手動のチルトとテレスコピック。しかしここは電動が欲しい。そういうお値段のクルマだとは思わないか。運転席シートはパワー調整でお好みのまま。シートヒーターあり。ハンドルヒーターあり。シフトレバーはストレート式で前後押し引きのシーケンシャルシフトは、押してダウン。エアコンはダイアルと物理スイッチの混成。パワーウインドウはこのグレードでは全席ワンタッチ。ハンドルの外径はもう少し大きいほうがいいと思う。そのハンドルスイッチは凹凸形状などの配慮から操作性は比較的良好。駐車ブレーキは電気式スイッチ。




 Aピラー内張りは黒い。物理的に太さを感じるが、日光に反射して前ガラスに映り込んでも視界を邪魔しない。ドアミラーは鏡面の面積や形状は良しとして、やや取り付け位置が後方にあるように思う。ミラーチェック時にはやや意識的に首を振ることになる。




 3列目のヘッドレストを倒してある状態。Cピラーは太く、とくにリアサイドガラス後端がすぼまっているのでクリアに見通せる感じがあまりない。


 内 装 



 基本的にCX-5と同じ造形と思われるダッシュボード。デザインそのものも無駄な遊びが少なく、かと言って質感も高く機能的。内装色はディープレッドと呼ぶカラーのナッパレザー仕様。濃い茶色に見える。これ以外に例によって白のレザー、他グレードに黒の布もあるが、全体としてカラリングが通り一遍で遊び心がもう一つという気がする。CX-5との差を明確にする意味でも、総額で400万円台という決して大衆的価格とは言えないハイクラスの説得力を持たせる意味でも、これらの色のみならず、何色か選べるようにしておいたほうがいいと思う。なんといっても、カタログを見たときに色の選択肢が豊富に取り揃えてあるというだけで嬉しくなるではないか。車体色も含め、そうした嬉しさも「高級」の要件だったりする。




 かけ心地に大きな不満はないが、といって大満足でもないという印象の前席シート。個人的にはCX-5のシートのほうがサポート性が良かったと思う。それならそれで、より乗り心地重視にするとか、ゆったり感を演出するとか、このクルマならでは、あるいはこの価格に見合うだけの「何か」がなければならないのではなかったか。

 前席頭上空間:こぶし2つ




 全長、ホイールベースが拡大されているだけあって、2列目は広く感じる。ゆったりと座れて外の眺めもよろしい。ただし、ここでもシートそのものの印象が、悪くないけれど、印象が薄い、という感じ。

 2列目頭上空間:こぶし2つ
 2列目膝前空間:こぶし2つ半(1列目筆者着座位置設定時)




 3列目シートは、たしかにシート自体は安作りなオマケのシートに非ず着座感もちゃんとしているし、足元も窮屈でない。他のこの手のものより多少は狭苦しさを緩和しているのかもしれない。しかし、身長172センチメートル、筆者の座高では頭が天井に接触する。また後頭部の真後ろすぐにバックドアガラスが接近しており、後突時を思うと精神的に居心地のよいものではないことには変わりはない。常用する座席スペースとしては不向き。エマージェンシーと捉えるべき。

 3列目頭上空間:天井に頭が触れ、場合によって首をかしげて回避する
 3列目膝前空間:こぶし1つ(2列目筆者着座位置設定時)




 荷室スペースは3列目シートを立てた状態でも左右の壁を掘ってあるなどしてスペース確保に工夫がある。




 3列目シートを畳むとこういう広さ。実情としてはこの状態で使われることが多いのだろう。だとすると2列目はベンチシート3名乗車のほうがいいのかもしれない。


 走 り 



 2.2リッター、スカイアクティブDはCX-5等と基本的に同じだが、大きく重くなったこのクルマ専用にチューンされてパワーアップされているとの由(そのうち他の搭載車種も仕様統一を受けるだろう)。車重が1830キログラムとCX-5のディーゼル車より約200キログラム程度重くなっており、その走りはCX-5と同等というわけには行かず、ややかったるい。それならそれでもっとデカいエンジンにするとか、別の提案をしないと、このクルマの「ならでは感」が薄いだけでなく、CX-5と比べて重い、というネガばかりが目立つことになってしまう。




 身のこなし、ハンドリング、乗り心地から得る印象は、外観その他以上にCX-5の持ち味と異なる。大きく、長く、重い。走り始めて一つ目の交差点を曲がるまでに、私は「重厚ですね」と発言した。フラットな姿勢、落ち着いた挙動、凹凸やうねりに対するゆったりとした受け応えなどを得ていて、一言でいうなら高級乗用車の「素質がある」という印象。


 ただし、「素質がある」というだけで、高級車そのものにはなっていない。高級車として考えるなら音や振動の処理はもっと丁寧に、よりしなやかで上等な乗り心地、よりスムーズなハンドルなど、現状より明確なキャラクターを付与するための施策はいくらでも思いつく。


 言い方を変えると現状では「ちょっと重たくなって曲がりにくくなったCX-5」どまりなのだ。重厚だけれど、でもヘタをすると「鈍重」と紙一重だったりもする。このあたりからも、今ひとつ作り手のイメージが明瞭でなくボヤけていることが透けて見える。乗り味が中途半端でピリッと来ない。まったくマツダらしくない。


 大きく長く重くなって、物理的に今までのような軽快な走りはできなくなった、そのことを「らしくない」と言いたいのではなく、それならそれで、より高級志向の設定に舵取りをするという「考えの切り替え」ができていない、その判断の悪さを「らしくない」と私は感じるのだ。お値段も高くなっているのだから、なおのこと。




 試乗中の燃費は13Km/Lの表示。これはブツ撮り中もエンジンをかけていたためこの値になってしまった。ブツ撮りまでの走行区間では一般道、山坂道を含め16Km/L付近を示すこともあったから、カタログ燃費にはかなり近い数値が出せると思う。



 結 論 

 それにしても、CX-8はどんなクルマになりたかったのだろう。CX-5の上のクラスを狙ってはみたものの、内外装はCX-5のイメージと近似しすぎていてこのクルマ特有の高級感があるわけでもなく、エマージェンシーレベルの3列目があるというだけで値段は上乗せされ、アシの良さ、走りの良さは一段も二段もオチる。近年のマツダのクルマ作りや広告戦略、誘導にノセられることなく、とりわけ冷静に評価、判断すべきクルマだ。


 3列目が欲しいというのはおおむねヨメサンたちの声である。そもそも彼女らは旦那男どもを「考えもなく突っ走り大事なことを勝手に決める生き物」と決めつけているようなところがある。そしてそんな旦那男どもに対して反対意見をぶつけたり、アラ探しをして欠点を指摘し続けるというのが彼女らの「性分」であり、3列目というのは自分の意見をクルマ選びに反映させるための口実、存在証明のようなモノなのだ。


 男がクルマに求めるものと、女がクルマに求めるものとは隔たりがある。そもそも、男と女には大きな隔たりがある、という大原則を理解しておかないと、クルマ作りは中途半端なものになってしまう。CX-8を見ていて、そんなことを考えさせられた。







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 筆者が感じたCX-8の「良かった点」
・のびやかなスタイリング
・重厚感のある走り
・2列目シートの居住性

 筆者が思うCX-8の「良くして欲しい点」
・価格に見合う「贅沢」の演出が足りない
・エンジンパワー
・どっちつかづなところ



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 参考データ

試乗日:2018年1月18日
試乗車:マツダCX-8 XD Lパッケージ
車両本体価格:3,958,200円(OP別)
型式:マツダ・3DA-KG2P
エンジン:SH-VPTS型(2188cc水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボ・ディーゼル)
駆動方式:FF
トランスミッション:トルコン式6段オートマチック
全長×全幅×全高:4900×1840×1730mm
ホイールベース:2930mm
車両重量:1830kg
最小回転半径:5.8m
装着タイア:225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46)
JC08モード燃費:17.6Km/L
WLTCモード燃費:15.8Km/L
 〃 市街地モード:12.7Km/L
 〃 郊外モード:15.7Km/L
 〃高速道路モード:18.0Km/L
ボディ色:スノーフレイクホワイトパールマイカ
内装色:ディープレッド(エボニーステッチ)/ナッパレザー
装着オプション:特別塗装色(32,400円)
        CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(32,400円)
        Boseサウンドシステム(81,000円)
        360°ビュー・モニター+フロントパーキングセンサー(43,200円)
        ナビゲーション用SDカードPLUS(48,600円)
        フロアマット(プレミアム)+スペーサー(54,216円)




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 メーカー公式サイト

http://www.mazda.co.jp/cars/cx-8/







2018.1.19 記
前田恵祐

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