この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください
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アルファードは、例えば政治家や企業トップなどの要人のための送迎車としても使われるようになり、クラウンやセンチュリーの立ち位置をもはや踏襲している観もある。視界の良さ、広さ、そしてこのクルマ特有の、というか、トヨタ車特有の快適性に対する突き詰め方が、結局のところ「後ろに乗るならこれがいいね」という評判にたどり着かせたのだろう。パブリックカーでありながら、同時にオーナードライバーにとってもハイエンドモデルとなる。もともとアルファードは個人向けのクルマだったわけだが、そう考えると、パブリックカーが個人用に降りてきたクラウンなどとは全く違うプロセスを踏んでいることになる。
■ エクステリア
公的でありながら私的でもあることを求められる。アルファードに対する要求はやや複雑になった。従来の印象を踏襲するスタイリングだが、そう考えるともう少し自己顕示欲より、むしろ抑制された精神性をイメージさせたほうがいいのではないだろうか。洗濯板のようなフロントグリルは大袈裟だし、「高級車」にしては主張のしかたが安っぽい。
第二ピラーからの流線型的なラインは、それ自体美しく見えるが、二列目の乗員にとっては視界を遮る以外になんの効果もない。
目立つ、よりも、目立たない、という精神性こそ「高級」もしくは「上品」であることを知るべきだし、またトヨタはユーザーにそのような教育を施すべきだ。
■ 運転環境
ハンドルはチルト、テレスコピックの調整あり。運転席は前後独立の高さ調整(後部は背もたれ連動)前後スライド、リクライニングが電動。シフトレバーは意外にも従前のゲート式を踏襲しているが、このあたりはもうプッシュスイッチにしてしまってもいいように思う。駐車ブレーキはシフトレバー脇のスイッチ操作。装着されているライン装着ナビとエアコン操作はタッチパネル。しかし操作頻度の高いものはダイアルやボタンも併用しており、一定の見識を見て取れる。パワーウインドウは全席、二列目ともワンタッチ。
Aピラー方向の視界はこんな具合。ピラーそのものは過剰に太くないが白く映り込む。フロントガラスもきつい傾斜と広い面積でダッシュボードを写し込むが、不思議と目障りでなく、配慮を持って設計されている印象。
とにかくデカくエラそうに見せるデザインだから、窓の開口面積はサイズの割に小さめ。しかもピラーは太く目視確認より補助カメラをお使いください、といった感じ。
■ インテリア・ラゲッジ
逆台形のダッシュボード中央部の加飾はこのクルマのアイデンティティ。とくに冒険するでなし、色使いやフィニッシュも一連のトヨタクオリティで満足度が高い。このグレードは黒内装のみ。
サイドサポートの深めな前席はこの種のクルマにはいかがなものかと思っていたが、高い位置に座ることになるというのは、ロールが増幅されて伝わるということであり、身体をきちんとホールドしてもらえるのは、じつは大きなメリット。ただし、ザツな乗り降りを繰り返すと、中古車の査定表に「サイドサポート、スレ、大」とか書かれてしまうのはよくあることですからご注意を。
・前席頭上空間/こぶし2つ
ロングスライドをもつ二列目のニースペースはお好みのままに。セパレートシートとしたのは座り心地のみならず、安全上の観点からの判断もあるという(グレードにより一体式3人がけもあり)。ただ、依然としてオットマンでふくらはぎを持ち上げようとしているが、これは快適でも何でもないことを知るべきだ。人間は足を地につけて初めて平衡感覚を保ち、身体を正しく支えることができる、そういう性質の動物なのだ。ふくらはぎに体重を乗せ、しかも増幅されたロールをふくらはぎが感じ続けるのは、じつは生理的に不自然なことであり、疲労や車酔いの原因である。
・後席頭上空間/こぶし2つ
・後席膝前空間/おこのみのまま
三列目。やや平板になり座り心地は二列目までと同じでない。実際問題三列目はエマージェンシーという認識のユーザーも多いという。ならば左右跳ね上げではなく、もう少し座り心地が劣っても、綺麗に床下にでも収納できたほうが嬉しいのではないだろうか。
ラゲッジスペースはこんな具合。跳ね上げでもスライドでも、いかようにでも。
ラゲッジスペースの床下に有効なサブトランクスペース。ただしシートレールが鉄橋のように縦断しているから、使い勝手的にはどうなんでしょう。やっぱり三列目シートをここに収める、という設えのほうがいいんではないか。
■ エンジン・トランスミッション
2t級の自重をもちながら軽やかに加速してみせる2.5リッター4気筒+ハイブリッド。特別感激する走りではないが、スムーズで静か、ストレスのない走りは乗用車として模範的なもの。
市街地メインの試乗中の平均燃費は10.5Km/L。とくに気にせず、この巨体を交通の流れに合わせて走ってこの数値。高速を走ると15Km/L台に届くとの由。
■ 足廻り
以前のブカブカで節度感のない、しかも眠くなるようなアルファードの走り味とは決別している。むろんソフトで余韻も強めに残るし、ガンガン飛ばして走るクルマではないが、ハンドルの操舵感や上下動の減衰特性にも一定の節度感があり、運転している、ということをきちんと意識させる。豊田章男社長は「味のあるクルマを作りたい」と何年か前に述べていた。しかしこのクルマに求められる味というのはマニアが喜ぶようなものではないし、かといって、眠くなるようなものではクルマとしてマズい。その点、この新型アルファードは非常に高い妥協着地に成功していると私は思った。一点だけ注文があるとすれば、標準装着タイアのブルーアースとの相性がもう一歩で、路面サフェース低下に起因する微振動の減衰がイマイチだ。
■ 結論
このクルマは走った印象よりも装備の充実やその進歩、あるいは他車に対する優位性で勝負している、いわばきわめて世俗的なクルマだ。しかしユーザーからの要求も高まり、また法人需要という新たな課題とも直面し、ただのファミリーカーで満足していられる商品ではなくなった。その課題に直面しながら作ったクルマであることが、乗ってみてよくわかる・・・
・・・高級乗用車としての要件、すなわち妥協を極力排すこと、一定の見識を持つこと。そのことをそこここに意識させられる。その意味では大きな進歩であり、喜ばしいことだが、同時に、今まで持っていたファミリーカー、オーナーカーとしてのマーケットは大きいわけだから、一段飛びに「高級乗用車」になり切ることはできない、そのさじ加減もまた感じさせる。だから、乗ったあとの印象はちょっと複雑だった。これがトヨタ自動車の高級車の顔、というわけには、クラウンが居る以上そうさせることはできないし、でも、もはやクラウンは老いてしまったと誰もが思っている。その葛藤を、どこかに抱えながらアルファードの将来というものがあるのだろう。
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■ 10項目採点評価
ポリシー >>> 8
デザイン >>> 6
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律度 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 7
ヒトへの優しさ度 >>> 6
卓見度 >>> 6
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 6
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■ 試乗データ
試乗日:2015年3月23日
試乗車:トヨタ・アルファード・ハイブリッドSR Cパッケージ
車輌本体価格:5,501,127円(OP含まず)
型式:DAA-AHY30W
エンジン:2493cc直列4気筒DOHC(2AR-FXE)+交流同期電気機(前:2JM+後:2FM)
トランスミッション:電気式CVT
駆動方式:4WD
全長×全幅×全高:4935×1850×1895mm
ホイールベース:3000mm
車輌重量:2200kg
最小回転半径:5.6m
タイア:前後225/60R17 99H(ヨコハマ・ブルーアース)
JC08モード燃費:18.4km/L
燃料タンク容量:65L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:5ドア3列シート7人乗りミニバン
ボディ色:ホワイトパールクリスタルシャイン(070)
内装色/素材:ブラック/本革
装着されていたオプション:
ホワイトパールクリスタルシャイン色(32,400円)
DCM+ルーフアンテナ(シャークフィンタイプ)(77,760円)
SDナビ+パノラミックビューモニター+寒冷地仕様+
プリクラッシュセーフティ+レーダークルーズコントロール(730,080円)
12.1型リアシートエンターテイメントシステム(183,600円)
フロアマットラジグジュアリーエントランスセット(95,148円)
サイドバイザーRVワイドタイプ(33,264円)
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■ メーカーサイト
http://toyota.jp/alphard/
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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
また、製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。
前田恵祐
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