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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#166 こういう作り分けでいいのか?


 トヨタ シエンタ 1.5X 試乗インプレッション(2015.7)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 初代シエンタは後継者にも恵まれず(?)幸か不幸か12年というモデルライフをまっとうすることになった。その間もさして売れ行きが落ちることなく、決してクルマ好きの納得するような要素はなきにせよ、ファミリーや女性ユーザーからあの愛らしいスタイリングや決して広いとは言えないスペースを「効率的」に使えるレイアウト、アレンジに対する支持を受け、まさに12年衰えることなく「満了」した、現代の日本車にあっては珍しい長寿モデルとなった。新型の登場に際し、デザインはちょっとヨーロッパな雰囲気だし、そのうえで相変わらずあのアレンジをやり、しかもハイブリッドまで仕込んできた。一体どんな仕上がりなのか、先日のカローラフィールダーの出来を脳裏にかすめながら試乗に向かった。



 エクステリア



 ちょっと、かつてのファンカーゴを思わせるスポーティで若々しいという第一印象。トヨタ流儀ではあるが、そこはかとなく日本車離れしたスタイリング。ボディカラーもこのようなビビッドなものからシックなものまで各種あって、悪くない。




 前後バンパーに「スジ」が入っていることを、ただのデザイン上の遊びとお思いになるかもしれないが、そこは捉え方を変えてもいい。これは比較的擦りやすい部分とそうでない部分を区切っていて、分割部品かどうかは未確認ではあるものの、再塗装、補修の面積を分割できる役割をもち、補修容易性とその費用を抑えることに一役買うはずだ。後輪の前部にあるブラックアウト部にもそうした目的があろう。




 今の国産車の中で、十分以上に個性的で、しかもこれみよがしでも威圧的でもない、やっぱりどこかルノーやシトロエンあたりの雰囲気を、個人的には感じてしまう。なかなかよろしい。



 運転環境



 ハンドルはチルトのみ。ハンドルの外形より上部に見るメーターパネルは明らかにプジョーのアイデアだが、しかしそういえばトヨタもラクティスの初代で同じようなことをやっていたからどちらが先かは不明。視線移動が少なくなかなかよろしい。運転席シートリフターの調整幅はとても広い。ダイアル式エアコン操作に特等席のオーディオスペース。ただし、いまだにゲート式のシフターはもうそろそろ新しいアイデアがあってもいい。もはや電気信号で操作しているのだから、ただのスイッチ式にしてもよさそう。駐車ブレーキはいつもの足踏み式で解除もいつもどおりの二度踏み。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。子供の誤操作やイタズラを思えばこれでいいのだろう。




 Aピラーの傾斜はキツめでもねじれ角や形状の工夫があってフロントガラスへの映り込みは少なめ。でも黒く塗った方がいい。ダッシュボード上面をブラックアウトしたのは賢明としても、アクセントとして走っている赤いラインがフロントガラスにもサイドガラスにも映り込んで気になる人もあろう。明るいカラーのインテリアをあまりガラスに反射させない、うまいつくりにはなっている。




 ガラス面を少なく構造部材としたほうがドーンとぶつけられた時にキャビンを守る、それはわかるが、もう少しデザインとも相談しながら目視視界を確保するよう努めて欲しい。カメラが補うし、あるいはカメラの方が十全に危険を捉えるのかもしれないが、しかしそれが故障したときのフォローも考えておかないと「本物の安心」とは言えないのではないか。



 インテリア・ラゲッジ



 明るいアイボリーの内装は汚れが目立ちそう・・・と思ってしまいがちだが、実際にここ数年のクルマを見ていると、時間を経てもさほど汚れていない。これは防汚処理が行き届いているからだろうか。となれば、安心してこの明るいカラーを選ぶのもアリ、と考えてもいいのでは?みなさん黒一辺倒で、日本車のインテリアは本当に陰気なセンスで統一されている。実際にシエンタの客注も黒系内装が多いらしい。汚れが気になるなら汚さないように使う、あるいは子供をそう躾けるのもクルマの乗り方というものではないだろうか。




 運転席シートは、どうやらカローラ系と同じ基本を持つものと思われ、すなわち、サイズ、かけ心地ともにすこぶるよろしい。ただ、表皮の違いからかややこちらのほうがアタりが柔らかいが、それが長時間長距離使用に影響を及ぼすとは思えない。身体を安心して委ね、運転操作に集中できるというのは、クルマとして非常に大事な資質。今後もこの方向性でぜひ行っていただきたい。

・前席頭上空間/こぶし2つ




 明らかに、身体の拘束よりも乗り降りの容易性に重きを置かれている点ではステップワゴンの二列目と同じ考えではあるものの、クッションの厚みやバックレストの形状、サイズともそれよりはやや座り心地に考慮したモノにはなっている。後席ヘッドレストのステーはかろうじて胴長の筆者の後頭部を守るところまで伸びる。座面位置もやや高めで前を見通せ、抜群でこそないものの気が抜けたコーラにはなりおおせてはいない。やっぱり前回同様肘掛がないんだなぁ、と思っていたら、6人乗りにはついている。

・二列目頭上空間/こぶし2つ
・二列目膝前空間/こぶし2つ(3列目に乗車することを考慮した位置で)



 三列目はエマージェンシーであることに変わりはないもののシート両サイドを上手く掘ってあってそんなに苦痛じゃない空間。足元も二列目で十全にポジションを決めた後で乗り込んでもツカえることはない。

・三列目頭上空間/こぶし1つ
・三列目膝前空間/こぶし1つ




 三列目シートの折りたたみ方式は前回同様二列目シート下に格納するタイプ。三列目を立てた状態、あるいは畳んだ状態でも積載容量は、見た目あまり変わっていない印象。状況に応じて、座れたり積み込めたりできる、というのがウリだからこれでいい。日本人の生活感にマッチしているのだからこれでいい。後突時うんぬんを言う人もいるが、それならアルトのリアシートだって大して実態は変わらない。



 エンジン・トランスミッション



 FFのガソリンエンジンのみに採用されている2NR系エンジン。高圧縮のアトキンソンサイクル、クールドEGRなど、以前乗ったラクティスのマイナーチェンジ版に搭載されていたものを踏襲している(あちらは1.3で試乗)。静かでなめらか、力強い印象こそないが誰もが洗練された印象を持つことのできるエンジンだと思う。CVTの制御も自然でオカシな手心が入っていない。ハイブリッドや4WD版は従前の塩漬け1NZ。おそらくまだそこまで手が回っていない。あるいは採算ベースに乗らないという判断なのだろう。




 走行前に燃費計をリセット。試乗中の平均燃費は12.9Km/L。真夏のエアコンフル稼働でアイドリングストップも頻繁に切り上げられるような状態で街中60%、山坂道20%、高速20%くらいの割合で走った。1300Kg台の重量に1.5リッターガソリンエンジンと考えれば妥当と思う。



 足廻り



 カローラでトヨタは実用車の足回りのセッティングに「答え」を見つけたか・・・、と思ってこれに乗り込んだ。アシのストロークもあるようだしその動きも素直でよく働いている。従ってクルマは比較的鋭い上下動少なく、その意味では快適。ただし、特に路面の不整に敏感で今ひとつ振動や騒音を減衰しきれていない。こうしたあたりからは、床板や骨格、またはサスペンションパーツの取り付け剛性がイマイチ十全でないことが想像できる。また、素直にストロークする代わりに、今度は1300Kg台の車重に対して弱腰なのが明らかで、具体的にはピッチングの収束に時間がかかっている。簡単に言うとフニャフニャしている。


 全般的に華奢で軽く、まるで赤子の手を握っているかのような頼り無さだけが後味に残った。どうしてこういう作り分けになってしまうのか。カローラはもちろん、より人を乗せる可能性のあるシエンタのようなクルマにこそ、ドライバーに十全の信頼を提供すべきであるし、またそのことが運転に対する積極性(トバすという意味ではない)を高め、正しく緊張を与える。それが安全への配慮にもつながっていくことだと思うのだがいかがだろうか。


 一説によると、女性ドライバーは決して軽い操作感を求めているわけではないらしい。むしろゴツいものから得られる安心感をしてクルマに対する満足を得る、という声も聞いたことがある。なんでもかんでも「カルく」「カンタン」というわけには行かない。ましてや人の命に関わる自動車の操作とそれにまつわる印象や手応えにおいて、「安易」な判断を下すというのはいかがなものか。カローラで見せたあの「見識」とは一体何だったのか。



 結論

 外観はあのスポーティさ、宣伝にもスポーツ選手や、フランスの香りのするアナウンサーを起用したりしているが、乗ってみればなんのことはない、ただのトヨタ車である。室内パッケージは日本向けであれでしょうがないとしても、これで乗り味もしっかりとした(見識を感じる)ものになっていれば大腕を振ってオススメできたのに、これではダメ。しょせん客はCMイメージとか見た目でしか判断しないよ、という作り手の声が聞こえてきそうだ。






 とはいえ新型シエンタ。きっと売れるでしょう。格好いいし、きっと多くの日本人が、使い勝手の良さを褒めるだろう。それはそれでいいと思う。しかしトヨタはこうしたクルマでこそ、玄人筋をも唸らせるような真面目な態度を示さなければならないのではないか。社長がハチロクでドリフトしたところで多くのクルマ好きはただのパフォーマンス程度にしか思っていない。ラインオフするクルマでもって、本当のクルマ屋としての見識やポリシーを見せつけなければウソではないのか。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 6
デザイン >>> 8
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 7
走りの調律度 >>> 6
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ度 >>> 8
卓見度 >>> 7
完成度 >>> 6
バリューフォーマネー >>> 6






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 試乗データ

試乗日:2015年7月30日
試乗車:トヨタ・シエンタ 1.5X
車輌本体価格:1,816,363円(OP含まず)
型式:DBA-NSP170G-MWXNB
エンジン:1496cc直列4気筒DOHC[2NR-FKE]
トランスミッション:Super CVT-i
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4235×1695×1675mm
ホイールベース:2750mm
車輌重量:1320kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前後185/60R15
JC08モード燃費:20.2km/L
燃料タンク容量:42L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:2ヒンジドア+2スライドドア+テールゲート、7人乗りミニバン
ボディ色:エアーイエロー/5B6
内装色/素材:フロマージュ/ファブリック






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 メーカーサイト


http://toyota.jp/sienta/








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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」を見つけるのはあなた自身の仕事です。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。









前田恵祐
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