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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#168 看板は地味だが旨いものを出してくれる


 日産ノート NISMO S 1.6 5段マニュアル 試乗インプレッション(2015.8)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 日産のコンパクトはマーチとこのノートが主力。しかしいまいちパッとしない。ま、それはそれでいいのかもしれない。なにせ実用車、なにせ趣味のクルマではない。幅広いユーザー層の生活感に無難にとけ込めればそれでいい。そしてその目的は達成されている。しかし、日産といえばもうすこし「骨」のあるようなところがあったような、そんな記憶が頭の片隅にあるのもまた事実で、その意味ではやっぱりいまいちパッとはしていなかった。実用的なコンパクトカーをファインチューンして付加価値を与え、スポーツモデルとするという手法はもはや見慣れたものだ。それだけに、ノートニスモSの仕上がりが「骨抜き」では日産は「ただの自動車会社」である。



 エクステリア



 ミニバン風のツーボックスにエアロパーツを与えて「オレはちょっと違うんだぞ」をアピール。それはそれでいいと思うし、そんなに悪趣味になっていないあたりは見識だとも思う。しかしやはり不惑を迎えたオジさん的には、ノーマルの外装でやってほしかった。脳ある鷹は爪を隠す、の方が遥かに知的だ。




 色を選べば、まあそんなに目立たないかもしれないが、選択肢はこのパールホワイト、またはブラック、シルバー、ガンメタの4色しかない。赤のアクセントも入っているが、いわゆる朱の赤でなく落ち着いたボルドー系。やはりそんなに主張が強すぎず、これもこれで見識。ホイールは17インチ。




 リアビューはさらにおとなしい。リアスポがなければふつうのノートと、パッと見区別がつかないかもしれない。



 運転環境



 ハンドルはチルトのみ。そのハンドルは本革とアルカンタラのコンビ。外形や形状はいいと思うが、個人的にはどこを握っても同じ質感、あるいは同じ摩擦係数のほうがよりスムーズなドライブに寄与すると考えるので、素材が混じっているのは、これはNG。エアコンのアウトレットはやや直線的に送風を寄越し、拡散してくれない。空調操作部分は綺麗にデザインされているが、操作にはやや慣れを要するだろう。計器盤は自発光タイプで速度計は260Km/hまで刻まれたフルスケールでヤル気をアピール。試乗車はオプションの専用レカロを備えていたためシートの高さ調整は無し。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。




 元々ATしかないクルマゆえにペダル配置も気になってはいたがそれは杞憂だった。こうみえて幅広な筆者の脚でもフットレストは余裕を持って使うことができ、ペダル操作時の干渉もまったくない。スロットルはもう少し下に伸びていたほうが「ヒールアンドドウ」をやりやすいだろう。クラッチのトラベルは短く遊びが少ないばかりか、ミートポイントが明瞭。踏力も軽めで動作もスムーズ。操作しやすい。細かいところまで手を抜いていない。




 試乗日は雨天だったためあまり目立たないが、そもそもノートのAピラーの存在感は大きかった。映り込みもやはり遠慮がない。せめてピラー内張りを黒く塗ってあればまだマシなのに、なぜ気がつかないのだろう。




 目視後方視界に対してはピラーや内装をできるだけ邪魔にならないように削ってあるなど一定の配慮は感じられるが、どうしてもDピラーを太くしてしまいたいがためにリアサイドガラスを逆三角形にしたがる。



 インテリア・ラゲッジ



 ノーマルのノートとの違いはシートとその素材、またワインレッドの加飾が所々に施されていること。基本的にはハデハデ趣味にあらず、この種のものとしては落ち着いた雰囲気を持っていると思う。それはやはり、そもそもマニュアル車という選択が可能になるのがアラフォー以上の世代が現実的なところであるというのが大きく作用しているのだろう。ギンギンにしたところで若人は振り向かないし、ならば実際に買ってくれようと、興味を持ってくれるミドル層に訴えかけられる仕立ての方が現実的、という判断と想像する。




 後述するサスペンションセッティングとの相性から言って、このレカロの硬さ、サポートの加減は絶妙。筆者の馴染みのあるLXなどのシリーズはもっと拘束性が薄くてリラックス感の方がむしろ大きかったが、こちらはよりタイトに、ガッチリと身体を拘束し、十全にホールドすることを目的としており、つまり、坐ると「ヤル気」にさせられるシートである。むろんサイドサポートは高く、その剛性も高いため乗り降りには明らかに障害となる。中古車での値打ちを考えてこのレカロを奢るなら、乗り降りの際のサイドサポートに身を擦りつけない、その努力をする、というところまで考えを及ぼさないと無意味だと申し上げておく。
 
・前席頭上空間/こぶし1つ半




 やや平板な印象なのが残念だが、サイズやクッションの硬さ、あるいは背もたれの形状までおおむね不満のないリアシート。ヘッドレストもキッチリ実用品として扱える。前席にレカロを与えると前席の厚みが極端に減るためレッグスペースが一気に拡がる。すごく広い。

・後席頭上空間/こぶし1つ
・後席膝前空間/こぶし3つ(前席レカロの場合)



 ホイールハウスの出っ張りと思われる部分が思いのほか大きく、平野面積があまり広くはないラゲッジスペース。ま、全長4.2mならこれだけあれば充分か、というところ。



 エンジン・トランスミッション



 HR16DE型エンジンをこのクルマ専用にチューン。専用シリンダーヘッド、ピストンによる高圧縮化に加えハイカム、専用吸排気などが用いられ、スペック的には140馬力。見た目はご覧のとおりまったくの無味乾燥、というかまるで飾り気がなく、この部分を見てエンジンを判断するタイプの人がいるとするならこのクルマの本分を最後まで理解できずに終わるだろう。


 このエンジンはかつてのCA16DEとかSR20DEのような、日産のコンパクト、ミドルクラスのスポーティグレードが採用していたエンジンを想起させるような魅力を備えたエンジンで、とくに3000回転を越えたあたりからの爽やかなサウンドとレスポンス、シャープさ、またトップエンドまで途切れないスムーズさと威勢の良さはあの頃の、5000回転も回すとガーガーと喧しかった思い出のエンジンよりもはるかに現代的で洗練されている部分かも知れない。さらに言うと、スロットルレスポンスの遅れが、今のクルマとしては極めて少ない。


 いわゆるホンダのタイプRのようなラー油たっぷりの四川料理でこそないものの、なにも期待せずに入店して食べてみたら抜群に旨かった中華屋のチャーハンや餃子や麻婆豆腐のような味わいとでも申しましょうか。看板も地味で商売っ気はないが食ってみれば旨かった、というのはちょっと嬉しい。そして実際このHR16DEは見た目の装飾はご覧のとおりでニスモの「ニ」の字も、看板もありゃしない。


 5段マニュアルは、あれで正解だと思う。6段は不要。エンジンは充分に柔軟性があり低速でもアイドリングから十全にトルクを出し、ボトムエンドでのクラッチ操作を許すくらいだからこれ以上ギアレシオで補う必要はないし、一段あたりの守備範囲が広ければ加速の途切れも少なく伸びやかに走ってくれる。また、その副産物としてズボラな運転も許してくれるから、日常性や実際の加速時の満足度を勘案すれば、ただ段数が多ければ偉いという固定観念を払拭したこの5段マニュアルというチョイスはやはり正しい。レバーには充分な剛性があり操作感にも節度とスムーズさを備え、この点でもまったく不満はなく、丁寧に納得のいくフィーリングを提供している。




 70%市街地走行、30%が山坂道。けっこういい気持ちになって楽しんだ結果としての12.3Km/Lはこの排気量、この重量としては妥当な値だと思う。もっと丁寧に乗ればさらに伸びるはず。



 足廻り



 ノーマルのノートの車体剛性の印象はあまり骨太な印象はなくて、むしろ日産にしては華奢な印象が残っていたものだが、このクルマには効果的にパフォーマンスブレースなどを与えて固められたアシを十全に引き受けられるだけの基礎体力を備えた。バネやダンパーは相当堅い。上下動も最初はかなり気になったしスパルタンな第一印象だったが、乗り進めてみれば堅くても微小ストロークはしっかりと機能しているようでつねに落ち着いた挙動をもち、直進性も十分以上に高い。堅いけれどイヤじゃない。


 個人的にはもうすこしマイルドな方がいいかなという気もするが、このあたりは試乗車に備わっていたオプションのレカロの影響も大きいと思う。これが標準のスポーツシートだったらどんな乗り味になっているのかというのは少し気になった。


 車体剛性の高さはハンドルの手応えからもヒシヒシと伝わってくる。タイアの踏面の食いつき具合をよく手のひらに伝えてくるし、操舵時のキックバックも自然、かつスポーティーカーとしての手応えもあり、運転しているということをつねに意識させてくれるタイプ。これは今時珍しい。また、ノイズ、バイブレーションもよく減衰できていて、この点からも車体強化の痕跡が見て取れる。


 目立つ場所に局所的に過剰な施しをして茶を濁すというタイプではなく、全体を十全に見渡してトータルバランスで高みを目指していることが感じられ、そうした意味でもこのクルマはガキのためのクルマではないということがわかる。



 結論

 トヨタにはG'sがあったり、ホンダにはタイプRが(今はないけれどそのうち復活)があったり、スズキにはスイフトスポーツがあり、というふうに各社それぞれ自流にホットハッチを仕立てて販売している。その中でノートニスモSはホンダのタイプRほど過激じゃないし、かといってG'sほど「モード系」でもないし、スイスポのような安さという武器もない、中庸なところにありながら、じつはその完成度や考え方の成熟度は一番高く、またチューニングに対する見識やバランス感覚は随一だと申し上げておく。やはり日産にこういうことをやらせると仕事の質が違うな、と思わせた。






 元気なエンジン、キビキビと、しかも質感の低くないスポーティな身のこなし、装飾、化粧はしているがけっして悪趣味にはなっていないセンスなど、様々な意味で「大人」が乗ってもまったく違和感のない、あるいは、乗ってみればなおのこと、大人の本当のクルマ好きでなければわからないであろう魅力に溢れているノートニスモS。乗りやすく、刺激性もほどほどにあり、どこか懐かしい、香ばしい香りのするスポーツハッチ、こうしたクルマと今という時代にもう一度「再会」できたことは、ちょっとした幸せだった。






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 10項目採点評価

ポリシー >>> 9
デザイン >>> 7
エンジン・トランスミッション >>> 10
音・振動の処理 >>> 9
走りの調律度 >>> 9
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ度 >>> 7
卓見度 >>> 9
完成度 >>> 9
バリューフォーマネー >>> 8






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 試乗データ

試乗日:2015年8月17日
試乗車:日産ノート ニスモS
車輌本体価格:2,244,240円(OP含まず)
型式:DBA-E12改
エンジン:1597cc DOHC水冷直列4気筒 [HR16DE/nismo S 専用チューン]
トランスミッション:3ペダル5段マニュアル
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:4190×1695×1515mm
ホイールベース:2600mm
車輌重量:1080kg
最小回転半径:5.2m
タイア:前後205/45R17 84W [専用BSポテンザS007]
JC08モード燃費:届出無し
燃料タンク容量:41L(無鉛プレミアムガソリン)
ボディタイプ:5ドア/5人乗りハッチバック
ボディ色:ブリリアントホワイト・パール(3P)<#QAB>(特別塗装色)
内装色/素材:ブラック&レッド/レザー&アルカンタラ(レカロ)
装着されていたオプション:
     ETCユニット(HM12-D)(25,920円+セットアップ2,700円)
     バックビューモニター(36,000円)
     フロアマット(29,700円)
     日産純正ナビゲーションシステムMP315D-W+2スピーカー(219,619円)
     ブリリアントホワイト・パール色(37,800円)
     NISMO専用チューニングRECARO製スポーツシート(270,000円)






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 メーカーサイト


http://www.nissan.co.jp/NOTE/note_nismo_s.html








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ご留意ください
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要は全くないし、
私はここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」を見つけるのはあなた自身の仕事です。

製品は予告なく改良される場合があり、
文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前にはぜひご自分で試乗をして、よくお確かめください。






2015.8.17
前田恵祐
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