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前田恵祐は2018年5月18日、闘病の末この世を去りました。 故人の意思を尊重し、ブロクは閉じずにそのまま残すこととしました。 以前からの読者の方、初めてブログに訪れてくださった方もこれまでの記事をご覧にっていただけるとありがたく存じます。(遺族一同) 当ブログのURLリンク、内容、文章等を、他のwebサイト、SNS、掲示板等へ貼り付け拡散する行為、印字して配布する行為は、いかなる場合も禁止事項として固くお断りいたします。

#180 力みのない良さがある

 
ダイハツ・ムーヴキャンバス XリミテッドSAⅡ 試乗インプレッション (2016.9)



この試乗記は個人的な印象記です
捉え方や感じ方には個人差があります
ご自身で乗ってお確かめください



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 ほぼ単一のコンポーネンツの上家を着せ替えて新しいものを作り増殖を続ける現代の軽自動車、の、最新版。ムーヴの名を冠しているがスタイリングや室内の空間などを見ると、タントの変種のようにも見えないことはないし、もうなにがなんだか・・・



エクステリア



 ムーヴではなくタントの屋根をやや低くしてテールゲートの角度をイジって、目鼻立ちやカラーリングもそれらしく、と、よく見ればそこここに工夫の痕跡。このファンシーなカラーリング以外にも、シックで落ち着いたトーンも用意されていて、幅広い?年齢層に対応する構えも見て取れる。とはいえはっきりとターゲット層の狭いデザインだと思うが、そこはそれ、メーカーもわかってやっていることだからいいんじゃないでしょうか。楽しげでいいじゃありませんか。真面目クサッていないところがこのクルマの美点。




 昔のワーゲン・バス、タイプ2・T1のようなバランス感覚となったグラスエリアと胴回りの寸法取り。狙ったわけじゃないだろうが、大流行りのハイト系軽ワゴンの屋根を低くするだけでこうも雰囲気が変わるとは。ただし、先にも書いたように、テールゲートの角度など、微妙な調整も抜かりなく行われていて、このキュートな雰囲気は偶然の産物に非ず。ルーフアンテナはこのクルマのメインターゲットである、とくに背の低い女性にとって手の届きやすい位置と言えるだろうか。ケチケチせずにガラスアンテナにすればよりスマート。リアフェンダーを横切るスライドドアのレールが玉に瑕。




 ノッペリした胴体に、それらしく専用デザインされたホイールキャップつき14インチホイールとタイアの収まりがいい。バンパーの張り出しが小さくテールゲートが車体外郭に迫っているのはなにも軽自動車においてこのクルマだけのことではないが、このタイプはちょっとでも後ろを見誤って何かに当てるとバンパーの修理だけに収まらない可能性が高い。ゆえに意外と「維持費」を負担させる要素になったりする。ま、前も、横も、それはこのサイズ、構成なら仕方がない部分ではあるけれど。



運転環境



 よく見ればパッソと同形状と思われるハンドルはチルトのみの調整。私は気にならなかったが、小柄な女性がより正しいポジションを得るにはやはりテレスコピックもあったほうがより優しい。センターメーターはやや奥まっていて前方視野からの視線移動が少なめなのは良いとして、やや指針が短いのではないかな。ナビはこのクルマに装着出来る最大サイズのもので、位置も考えられうる特等席を陣取る。シフトレバーはインパネにありレバー自体の長さも考えられた痕跡があり、シンプルで理解しやすい操作ロジックのエアコン系スイッチの運転席側からの操作を阻害しない。パワーウインドウは運転席のみワンタッチ。駐車ブレーキは二度踏み解除のペダル式。




 各ペダルは上から踏み下ろすような感覚。このタイプの軽自動車の宿命でアクセルペダルにはホイールハウスが迫っているが上手く回避して違和感を抱かせずに済んでいる。サイドシルも低めで乗り降りに寄与する。




 あいにくの天候ゆえ、ピラーやダッシュボード上面の映り込みは厳密にチェックできなかったが、Aピラーは細めで角度も良く、またダッシュ上面も黒くなっているのと、やはり角度の調整が良いと思われ、盛大な映り込みはなさそう。ドアミラーは不親切な角切りをせずきちんと見せてくれる。




 パッソと同じように天井が最高端部で明確に一段下がる。後席ドアの後端がやや太いのと、その後に来るピラーの角度をもう少し調整すれば、ガラス面積を大きくせずとも「見やすい」という印象を与えることができたはず。とはいえまずまずの斜め後方目視視界。



インテリア・ラゲッジ



 明るいクリーム色と黒のコンビネーションとなるインテリアは、そのために明るい雰囲気と濃淡の効いたほどよい落ち着きを得ることができている。悪くないと思うが、しかしこの明るい色一辺倒というのもそろそろ芸がないような気がするのは私だけだろうか。そんな意見に「ベゼル類に着色した仕様もご用意しておりますよ」という声が聞こえてきそうだが、室内にカネをかけるという概念も今やそこで止まりというわけか。個性的と思わせる、あるいは意表を突くような趣味のいいカラーが一つでもあったらいいのに。(これの他に黒内装あり)




 前席は今や軽自動車としては当たり前のようになったベンチシートだが、前後左右高さのサイズ的な満足度も高く、ウレタンの特性もよく練られており身体を上手く支えてくれて快適。当然のようにヘッドレストも後頭部をフォローするに充分な設えだし、調整幅の大きいラチェット式シートリフターも備わる。この着座高に座面と床の段差の関係など、この種の軽自動車が広く支持を受ける理由が見えてくる気がする。乗降がしやすく、視界良く、そしてストレスがない。大事なことだ。

前席頭上空間:こぶし2つ以上




 後席の座面サイズとウレタンの硬さはまずまずで、後傾角もあるからお尻が前にズレにくいタイプと思われる。それらの点で前席との格差はこの点においてあまり感じない。フラットフロアを実現するため床のカサ上げの結果座面と床の段差は前席より少ないが大きな不満になっていない。リクライニング機構をもつ背もたれは残念ながらやや平板でさらに欲を言えば高さがもう少し欲しい。ゆったりとした座り心地までもう一歩だがいい線まで来ている。ヘッドレストもステーが充分な長さを持っていて後頭部をフォローする。座面下にモノ入れがあったりして便利そうだが、走行時にガタガタ音がしないような工夫もしておいたほうがより親切というものだろう。

後席頭上空間:こぶし2つ
後席膝前空間:こぶし2つ以上




 ラゲッジスペースは後席のスライドにより可変する。大量の荷物を積んでグランドツーリングをするようなクルマではないからこれで不満も出ないのだろう。



エンジン・トランスミッション



 エンジンルーム上部にまでフロントガラス下端がせり出していて開口部が狭いボンネット。もう少し研究が進めば充分な安全性とともにフロントにエンジンを収めた上で、完全なワンボックス型を実現する日も遠くないような気がする。


 エンジンは660ccのノンターボ一本。ターボは今のところ載せる予定はないのだそうで、「女性ターゲットのためターボは不要と考えました」とのこと。それはどうだろう、女性にこそ充分な加速力を提供すべきではないか。少なくとも、アンダーパワーで怖い思いをさせる機会は大幅に減ると思うのだが。


 もう作りなれた直列3気筒エンジンで、軽くスムーズでありながら街中をキビキビと、幹線道路の速い流れにも過不足なく乗ることが出来る出力と、もっというなら、ユーザーの求める燃費のカタログ値を共存させる。CVTもいまやベルトから発するノイズは耳に入らず、かといって一時燃費を稼ぐためによく行われた、アクセルの初期反応をわざと鈍くするという姑息なこともしなくなった。しなくなっても燃費を稼げるようになったということなのでしょう。全体的に嫌味のない素直なパワーパック。




 試乗中の燃費は16.2Km/Lとメーターパネルは表示する。シチュエーションによっては18Km/L台を表示することもあった。実燃費を予測するならこれより二割落ちて14Km/L台から15Km/Lあたりといったところか。



足廻り



 タントよりやや背が低められているという先入観もあるが、走行中、思った以上に前後左右への傾きは少ない。バネ系のストロークもたっぷりとした自由長が与えられているとは思えないが、素直に伸び縮みをおこなっていて、不思議とパッソよりこの点では素直な印象があった。パッソはバネ系の動きがやや渋く感じられて、ブッシュ系で上手く帳尻を合わせているような印象が強かった。ハンドルは適度な重さ、軽さの塩梅で、クイックでこそないが転舵とロールの発生との関連性もスムーズでこれまた素直。車体の剛性も充分に確保されているようで、過度に不快な振動や音の高まりも認められなかった。乗り手に過剰な不安を与えず安定感のある走りを目指していることがわかる。


 まるでスポーツカーのように、とは行かないが、それでもスポンジーなペダルタッチと減速Gの立ち上がりも遅かった、知っている例ではミラ・イースの初期型やタントエグゼのブレーキよりはるかに改善された、過不足のない、不安を抱かせないブレーキになっている。


 軽自動車の、とくにこうした背の高めな車種は、限られたサイズの中で、高くなってしまう重心位置に苦慮することになるが、このクルマはまずまずのまとまりを示している例だと思う。エンジン・トランスミッション、足廻りと、走行関連から感じられた印象は、目立った特徴こそないものの、総じて統一された素直さでまとめられていた。



結論

 たとえば私のような人間が、「クルマとは、こうあることが正しいのだ」と理屈を述べることは簡単だと最近思う。その理由は、クルマという商品、理屈よりはるかに理解し捉えることの難しい「気分」で買われることが多く、作る側はそこをつねに苦慮し、それは昔から変わらない特質なのである。その意味で軽自動車という分野は、クルマとしての「正しさ」のような理屈とは離れた場所で確実にユーザーのハートを捕えるものがあるのだと思う。


 速く走ることより、ゆっくりと身の丈にあった速度で。大きく立派なことよりこじんまりとした自己表現を・・・それが「今」の日本人のクルマに対する潜在意識であり、軽自動車を好ましく思う心理なのである。


 小さいことはムダが少ないという印象を与え、こじんまりとした雰囲気が日本人のある種の「謙りの精神」と波長が合っているのではないだろうか。小さな面積の中に凝縮された自動車としての世界観が詰め込まれている、小さいのに濃密、この感覚も多くの人に好印象を与える。


 軽自動車が売れている理由の分析には必ず維持費だとか価格だとか「カネ」の問題が含まれているが、しかしそういうこととはあまり関係なく売れているのではないだろうか。




 ムーヴキャンバスは、このサイズ、あるいはコストの中で自動車としてガマンが少なく、やや子供じみていると思えなくもないデザインも、然るべきターゲットの人たちが気に入って乗るのであればそれで大いに満足するであろう資質はあると思う。


 ダイハツは時に製品の振れ幅が大きくて、突然ケチ臭くなったかと思えばいきなり理屈っぽくなってみたり、そしてこのクルマのようにターゲットを絞ったデザインで客の目を引くということもある。ま、振れ幅が大きいというより、メーカーとしての守備範囲が広い、ということなんでしょうが、それもこれも、今現在、製品としての品質や完成度が相応に追いついているからこそ納得して受け入れられるように思える。


 昨今の日本車は、価格に対する「バリュー」をクソ真面目に追求しすぎるキライがあって、妙に暑苦しいところがあったが、ムーヴキャンバスはこの脱力系とも言えるスタイリングを軸として、クソ真面目になっていない良さが感じられる珍しい例だ。もちろんスタイリングの好みはあるだろうが、その善し悪しを言うよりも、今の時代に「力み」のない肩の力の抜けた表現、というか、「気分」を持つ軽自動車が一台あるというのも、全体を見渡すと決して小さからぬ意味のあることではないだろうか。





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10項目採点評価

ポリシー >>> 8
デザイン >>> 8
エンジン・トランスミッション >>> 8
音・振動の処理 >>> 8
走りの調律 >>> 8
運転環境と室内空間 >>> 8
ヒトへの優しさ >>> 8
先進性 >>> 7
完成度 >>> 8
バリューフォーマネー >>> 7





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試乗データ

試乗日:2016年9月16日
試乗車:ダイハツ・ムーヴキャンバスXリミテッドSAⅡ
車輌本体価格:1,425,600円(OP別)
型式:DBA-LA800S
エンジン:KF型
トランスミッション:CVT
駆動方式:FF
全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm
ホイールベース:2455mm
車両重量:920kg
最小回転半径:4.4m
タイア:前後155/65R14 75S (BSエコピア)
JC08モード燃費:28.6Km/L
燃料タンク容量:30L(無鉛レギュラーガソリン)
ボディタイプ:前ヒンジドア、後両側スライドドア+リアゲートを備えるワゴン
ボディ色:パールホワイトⅢ<W24>×ファインミントメタリック<G59>【XE7】
内装色/シート素材:アイボリー×ブラック/ファブリック
装着されていたオプション:
     カラーオプション(64,800円)
     パノラマモニター対応純正ナビ装着用アップグレードパック(54,000円)
     8インチメモリーナビN205&安心ドラレコプラン"J8642"(221,530円)
     カーペットマット(高機能タイプ)(25,553円)





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メーカーサイト

http://www.daihatsu.co.jp/lineup/move_canbus/





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ご留意ください。
この試乗記はあなたの試乗を代行するものではありません。
感じ方や考え方には個人差があります。
あなたと私の感想が一致している必要はありません。
私がここに示しているのは「見解」であり「正解」ではありません。
「正解」はあなた自身が見つけるものです。
また、製品は予告なく改良される場合があります。
時間の経過とともに文中にある仕様や評価がそのまま当てはまらない場合もあります。
購入前には必ずご自分で試乗をして、よくお確かめの上ご契約ください。





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2016.9.19
前田恵祐

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